1話
お財布の風通しの良い祐斗は、結局、奢って貰う事になり社長の言う通り作戦に参加するしかなくなった。
だが気楽に考えてみたら、むつが学園祭に来るとも思えないし、言うくらいならいっか、と楽観的だった。
授業の早く終わった今日はバイトの日。学園祭のパンフレットを持ってよろず屋に向かった。
「はよーございます」
室内には誰も居なかった。と、思っていたら、奥のキッチンからむつがマグカップを二つ持って出てきた。
「おはよー。はい、お疲れ」
しっかりと冷えたカフェオレを手渡された。むつはブラックコーヒーだった。
「ありがとうございます‼…湯野さんと社長は?」
「颯さん半休、社長は知らーん」
祐斗は、壁にかけてあるホワイトボードをちらっと見た。きっと、わざとだと思った。わざとにしてもあからさま過ぎる程に、むつの休みが学祭の日になっていた。
座りもせずに、あっちこっちを見渡している祐斗を気にする事もなく、むつはカタカタとキーボードを叩いている。
「むつさん、あのさぁ」
「んー?」
やる事が多いのか、画面から目を離さずにから返事が聞こえた。
「来週の学祭、良かったら来ません?」
「学祭ねぇ」
興味なさそうな返事に、祐斗は心の中でガッツポーズをしていた。