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5話
むつは、声を出して笑った。
「可哀想すぎる」
声と共にブラジャーのない胸がふるふる振るえていた。冬四郎は、見てはいけない物を見たような気持ちになった。
「飲みにでも連れていってあげないとだね、不憫すぎるし」
「そうだな、谷代君のおかげで無事に帰って来れたんだしな」
そう言い、冬四郎は車を停めた。もうむつの住むマンションに着いてしまった。
「しろーちゃんは?」
「ん?」
車を降り、後部座席から荷物を取り出すむつの隣に立ち冬四郎は首を傾げた。そして、当たり前のようにむつの荷物を持つと、一緒にエレベーターに向かう。
「しろーちゃんにもお礼、したいからさ…ご飯でもどーかなーって思ってさ。しろーちゃんの都合の良い日に」
「奢りか?それとも手作りか?」
「どっちでも」
エレベーターに乗り込み、むつは壁に寄り掛かると、冬四郎を見上げた。
「なら、手作りで」
「ん、じゃあ…いつにする?」
「そう、だな…今夜は?」
むつは少しだけ驚いたような表情を見せたが、すぐにはにかむように笑った。
「なら作って待ってるね」




