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1話
「あの子、まさかの祐ちんの事が好きと見た‼」
その場を離れてから社長は、にやにやと笑いながらそう言った。
「同じく‼祐ちゃんにも春が来たんだねぇ…確かこの辺にスペイン料理のお店があったはず」
さっき社長を引っ張るのに腕を組んだむつは、ほどくのを忘れてそのまま引っ張るようにして歩いている。
社長も振りほどこうともせず、引きずられるがままに歩いていく。
「あ、ここ、ここ」
1階は込み合っていたが、地下の席は空いていて、すんなりと座れた。
むつはティント・デ・ベラーノを社長はシードルを注文した。
「それは何?」
「赤ワインを炭酸で割ったやつ」
一口ずつ交換をして、つまみで注文したチーズやアヒージョなんかが届くまで特に会話もなくゆっくり飲んでいた。
「祐ちんに春が来る予感が見れたのもいいけど、お前どーなんだよ」
「なーんない」
「みやを呼び出してやろうか?」
チーズを口に入れようとしていたむつは、その一言でピタリと動きを止めた。
「何で?」