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5話
冬四郎は何も言わずに、ぐっとハンドルを握る手に力を込めた。少し気まずい雰囲気が社内に立ち込めていた。
むつが落ち込んでるのが気になるが、慰め方が分からない冬四郎は、ふと思い付いた事を口にしてみた。
「あのさ、全然関係ない話になるけど…俺にも紫陽花の近くに立ってる女の人達がみえたんだけどさ、あれって何で?」
全然関係ない話に、むつは顔を上げると少しだけ首を傾げて考えるように、唇に指をあてていた。
「たぶん…祐斗の能力の影響なんじゃないかな?今はもう見えないでしょ?」
「へぇ、人に影響与えられるほど凄い能力がある子なんだな」
「火事場の何とやらじゃないかな?自分で制御出来てなかったみたいだしさ」
その時の事を思い出しているのか、むつはにわかに難しい顔をした。
「どうした?」
「ん?いや、何て言うか…危なっかしい子だなーってさ」
「お前もな」




