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1話
新しくきたビールを飲み干す頃には、むつも社長もさっきまでの真面目な話の時の雰囲気はなく、ほろ酔い気分で他愛のない話をしていた。
胡瓜の漬け物をぽりぽりのかじりながら、むつはメニューを見ている。
「なぁ、むつさん。俺もおっさんなんだから手加減して欲しいなぁ」
メニューを渡された社長は、そう言いつつも困っているようには見えなかった。二人とも酒は強いようだ。
ハイボールとチューハイの梅を注文し、テーブルの上の皿も片付き始めた頃、むつも少し眠たそうな目をしていた。だが、まだ飲み足りないようで次に行こうと社長を誘った。
「お前、弱くなったか?」
「最近は飲んでなかったもん」
しっかり割り勘でお会計を済ませると、雨はすっかり上がっていた。まだ重たそうな雲が残っているものの、その隙間から星空ものぞいている。
ぶらぶらと歩きながら、次の店を考えているた時、すれ違った人の中に見慣れた顔があったような気がして、むつは足を止めていた。相手もそうだったようで足を止めて振り向いている。
「あーっ‼」
「お、祐ちゃんじゃーん」