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10 オレンジの電車

 * * *



 カタタン、カタタン、と、電車は走る。


 一駅ごとの間隔がとても長くて、三十分くらいは掛かってるんじゃないかしら。東京の中心なら駅の五、六個分はすっ飛ばしていそう。


 お弁当とドーナツでお腹も満たされていたし、電車の中は暑くもなく寒くもなく、あたしはついうとうとしてしまった。他の人たちも同様だったらしい。




 夕方、もう陽が暮れそうな頃になって、やっと降りる駅に着いたらしい。


 っていうか、ここも無人駅だった。



 二、三時間は揺られてた気がする。でもその間、駅は多分数えるほどしかなかったはずなので、この辺って超田舎なんだと思う。


 途中でぽつぽつと乗り降りする人がいたみたいだけど、あたしたちが降りた駅では他の人は降りなかった。




「まだ乗ってる人いたねぇ……終点ってどこまで行くんだろう」

 ハナが電車を見送りながら言う。



「こっち。暗くなると道がわかりづらいから、早くして」


 レイがみんなを急かす。



 駅から出てすぐの道路を左に向かって数分歩き、細い脇道を右に進む。

 駅前の道路にも車は通らなかったし、民家らしい明かりもぽつりぽつりとしか見当たらない。


 あとは、畑っぽい真っ暗な空間と、所々に突然現れる林の真っ黒な塊。脇道には街灯すらなくて、レイが小さい懐中電灯持って先頭を、キリトさんがランプ型のライトを掲げて最後尾を歩いた。



 この辺の人たちって、買い物とか、どうしてるんだろう?


 農家の人だから、車は持ってるのが当然として……冷蔵庫も大きいのを持ってたりするのかな。ちょっとコンビニまで、なんてできなさそうだし。




「もう少しだよ」


 何度目かの分かれ道で、レイは左に曲がった。



 周囲より小高くなっている方へ向かっているのはわかるけど、景色がまったく見えないのでつまらない。



「あれ」



 とレイが少し息を切らしながら言った時、突然目の前に灯りがいくつも見えた。



 灯りが眩しくて思わずぎゅっと目を閉じると、後ろから「わ、危ないじゃん」とアケミの声がした。



「あ、ごめん。つい……」

 あたし、目をつぶった時に立ち止まっちゃったみたい。




 急に眩しくなったのは、林を抜けたかららしい。


 灯りの数から予想すると、目の前の建物は四階建て。あたしたちが通って来た道に近い手前側に玄関があって、左奥の方に建物が伸びている。


 灯りだけ見てたら、小振りの小学校みたいな建物に見えなくもない。




「ここで合宿すんの?」

 アケミが誰ともなしに訊ねる。




「さあ、参りましょう」と、キリトさんにうながされて、あたしたちは建物に向かった。



 とっくに玄関先に着いていたレイは、モタモタしていたあたしたちをジロリと睨みつけて「遅い」と一言。



 ――ここまで来たら、早いも遅いもないじゃん。


 なんて考える。



 それよりあたし、着替えとか持って来てないよ。明日も同じ服を着るの? ちょっとやだなぁ……



 * * *



 着いた途端に、まず食堂へ案内された。


 ガランとした食堂の一角に、あたしたち用と思われる食事が用意してあった。



 でも一人分足りなかったみたい。



 恐縮して遠慮しまくる等々力さんも、あたしやアケミたちで着席させる。


 足りなかったといっても、グラタンとかハンバーグとか個数が決まっているものだけで、それ以外のシェアできるメニューならどうにかなった。

 食器はたくさんあるし、食事の量も多かったから。




「今日は遅くなりましたので九時までにいたしますが、明日からは夕食は六時から八時半で、朝食が七時半から九時の間でお願いしますね」



 キリトさんはそう言うと壁の時計を見上げた。



 つられてあたしたちも見上げる。もう八時近かった。


 屋根があるデザインの、大きな振り子時計。カチコチ鳴ってる。

 上の方に小さなドアみたいなのが付いてるから、これは鳥小屋を模したハト時計なのかも知れない。



 レイたちは別の場所で食べるのかと思ってたけど、あたしたちのテーブルの端に、一緒に座ってた。そういえば、お昼も普通にお弁当食べてたっけ。





 食事が終ったらミーティングみたいなことでも始まるのかと思ったのに、ぞろぞろと揃って四階へ上がり、普通に部屋に案内されただけだった。


 エレベーターは故障してるらしく、階段でだったけど。




「今日はもう疲れたろ――っていうか、僕がもう眠たい」



 レイはそう言うと、同じフロアの反対端に向かい、一番奥の部屋に入って行った。眠くなかったら、何かする予定だったのかしら?





 男女別で、それぞれ広い部屋を与えられた。これ、和洋室ってやつだ。



「ここ、旅館なのかぁ? でも他のお客さんは見掛けなかったよね」

「館内図とか、どっかにないの?」

「自販機ないかなぁ」



 みんな勝手なこと言ってる。



 アケミがさっさとベッドの一つを確保して自分の荷物を置いてるので、モエミが不公平だと食ってかかる。

 どうせ数日しか使わないんだし、好きにさせてあげればいいじゃん?



「面倒だからあたしは布団でいいよ」とあたしが言うと、「あ、あたしも……布団でいいよ」とハナも続いた。




「これじゃ、あたしがベッドを使いたくてごねてたみたいじゃない」ってモエミはプリプリしてるけど、別にいいんじゃないの? 残り何日か知らないけどさ。




 すぐに死ねるもんだと思ってたのに、これじゃ普通に合宿だよね。

 そう思いながら横になったけど、間もなく眠ってしまったらしい。



 * * *



 次の日。朝日が眩しくて目が覚めた。


 部屋の時計を見たら、まだ六時前だった。時計が合ってればだけど。



 あたしは寝ているみんなを起こさないようにそっと抜け出して、探検に出掛けてみた。締め出されないように、一応鍵を持って。



 一階に降りてうろうろしたけど、売店らしき場所も大浴場も見つからなかった。

 そもそもフロントってどこ? ここって本当に旅館なのかな。



 カードキーが人数分用意してあって、結構設備はすごいと思うけど。



 ロビーって感じの場所にはお決まりのようにソファとかテーブルとかセットしてあるけど、新聞を掛けるアレがない。


 アレ。名前なんていうんだろう?


 大浴場がないのもつまらないけど、どんなに古い旅館でもあるようなゲームコーナーとかもなさそう。


 合宿専用の建物とかなのかも。




 でも自販機すらも見つからない……ジュースが飲みたかったのに。

 なぁんか、旅館っぽいものってないのかなぁ……




「何やってんだ?」



 声を掛けられて振り向くと、レイだった。




 ――え? 今のレイの声だった?




 頭の中でさっきの一瞬を反芻しようとしたけど、どんな声だったかもう思い出せない。ってゆーか、レイがこうやって目の前にいるんだから、レイの声だったはずなんだけど……




「レイ、もう服に着替えたの?」


「ん? ああ、うん」




 昨日はちょっとよそ行きというか、入学式や発表会にも出られそうなお坊ちゃまスーツっぽい服装だったけど、今日は普通のTシャツにジーンズだった。


 違和感はないけど、あまり似合わないというか……あたしの好みでは、昨日の方がよかったな、




「っていうか、服、用意してあっただろ? なんでそんな格好でうろついてるんだよ」



 あたしは、いかにも旅館っぽい浴衣に自分のパーカーを羽織っていた。

 袖がちょっとゴロゴロするので、浴衣の袖は腕に巻きつけている。




「服? どこにあったの?」

「タンス、見てないのか……女子ってそういうところを真っ先に確認するんだと思ってた」


「タンス……? 上は上着掛けたりするから開けたけど、下のひきだしは誰も触ってないかも。帰ったら見てみるね」



 呆れた、っていう表情のレイを置いて、あたしはそのまま部屋に戻った。

 いーじゃん、浴衣だって、旅館っぽさがあってさ。



 まだ寝ているみんなを起こさないように、そっとひきだしを開けてみる。



「え、すごいんだけど」

 思わず声に出して言ってしまった。




 ひきだしは三段あって、一番上の段は下着、二番目はTシャツやカットソー、三段目にはズボンやスカートがぎっしり入っていた。


 ほとんどが白や黒、あとはデニムだったり、っていうシンプルなものだったけど、何人分入ってるんだろう……?


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