俺、サイクロプスに出会う
俺は、魔物に落ちた二人の冒険者を討伐してから、トロ村に向かった
トロ村に入ると正面に、龍の礎があるのだが、礎は見事に破壊されていた。
周りには、樽の破片が散らばっていた。
「奴ら、樽爆弾を使ったのかよ!」
樽爆弾とは、この世界にある火薬らしき物で作った爆弾だ。
ちなみに、ゲームでは、樽を置いた状態で、樽だけの破壊では、壁は壊れない、樽を持った状態から投げるコマンドを使う、初心者がよくする勘違い。
えっ、おかしいって、仕様ね、仕様。
トロ村は、ゲームよりも大きい、木造の平家が三十から五十件はある、住民も二百人はいるな、もちろん、子供も、若い姉ちゃんも、じじばばもいるよ。
皆、不安そうに、礎を取り囲んで見ている。組合のエリアマスターらしき、壮健な三十才ぐらいの男が大声で皆に話をしていた。
「大丈夫だ、皆、安心してくれ!
神殿騎士団には連絡してある、すぐに駆け付けてくれるはずだ、それに、冒険者に、緊急防衛依頼を出した、こちらも、すぐに人数がそろう!」
防衛? そうか、礎には移動の他に、もう一つの機能があった、魔物を寄せ付けない白龍の結界、それが無くなったとゆうことは、確かこの近くにいたよね、初心者向けの大型魔物が! その時、天に響き渡る吼え声が轟いた!
『ガァァァァオォーーーー!』
出たァァァ! 村の境界の塀に、近づく巨大な影、サイクロブス!通称トロサイ、六メーターを超える巨大魔物、レベルは12、決して高くはない。口には象の牙を大きくしたような、巨大な牙が二本生えているのが特徴だ。
実物が見れるなんて感動物だねって。ヤバイ、避難、避難。
「村人は、避難優先!冒険者は、奴を討伐しろ!!」
エリアマスターが叫んでやがる!
無理、無理!あんなデカイ奴、絶対無理!
俺は、絶対逃げるね、じじばばも早く逃げろ!もう、姉ちゃん達なんか真っ先に逃げたぞ!
わっ!ガキが腰を抜かしてやがる!
ヤベエッ!踏み潰される!!
俺は、無意識にスキルを発動した。
時間がゆっくりと進み、たぶん音速で奴の懐に飛び込んだのだろう、俺の剣は、確実に奴の弱点である、右膝を打ち砕いた。
その時の俺は、全然、気持ち悪くは、なかった。
『バギャン!』
奴の右膝が砕けるすごい音で、我に返った。
「マスター!ガキを頼む!」
『グギャアアアアア!!』
俺の叫びと、サイクロブスの咆哮が重なり、巨大な腕が俺に迫って来た。
ペチッ、本当にカエルが潰されるような音がした。
一瞬、すげぇ痛かった、死にそうなほど痛かった、血が口から滝のように吹き出た!
本当に、死んじゃうかと思った。
たぶん、肋骨も内臓もグチャグチャだった、生命力のバーは三分の一になっていた。
奴は、俺が死んだと思ったのか、俺に興味を失ったようだ。
奴は、エリアマスターとガキのところに向かった。
やべぇ、俺は震える手で、腰のポーチから『癒しの薬』を十本纏めて取り出した。
薬の瓶は、あれほどの衝撃でも割れてはいなかった、さすがメルコダの錬金術師が作った物だ、俺は、歯で無理矢理、瓶の蓋をこじ開けて薬を口に流しこんだ。
キクウーッ、体に染み渡るぜ、生命力もゆっくりと回復し始めた。
もはや、俺に逃げる選択肢は無かった、ゆっくりと立ち上った俺は、叫んだ、
『一閃突き!!』
奴の、サイクロブスの左膝が、砕けた!
奴は、大音量で悲鳴をあげ、ゆっくりと両膝を大地に付け、その後、両手を付いた。
チャンス! 俺は奴の頭の下に行って、続けてスキルを発動した。
『天蓋切りィィィィ!!!』
『天蓋切り』は、天に蓋をするように、剣を上に向けてその剣を高速に、左右に振るスキルだ。
しかし、案の定、俺の下半身が安定しないから、上半身が振り回され、頭もついでに振り回され、更についでに気持ちも悪くなり、しまいにはゲロッピしながら、剣を振り続ける事になってしまった。
やがて、サイクロブスの頭はボコボコになり、血の雨を降らせながら、生命力がゼロになって消えた。
結局、俺にとっての、トロ村サイクロブス騒動は、ゲロだらけの血だらけで、なんとも情けない結果で終わった。
疲れて、村の広場にある井戸の側に座って、「ガラナエキス」を飲んでいた俺に、エリアマスターが話し掛けてきた。
「私は、トロ村のエリアマスターをしている、ウェイノードだ、サイクロブスの討伐感謝している、・・・しかし、よくあれで死ななかったな?」
「・・・まぁ、体だけは丈夫だから、俺は、レイだ。」
「レイは、一人か、仲間は?」
「ああ、五日前に冒険者になったばかりだから一人だ、仲間はいない。」
「五日前って、初心者か! よくあんな無茶をしたな!・・・まぁいい、レイ、あんたが助けた子供とその両親が、あそこでお礼を言ってるぞ。」
見ると、少し離れた場所で頭を下げている親子がいた、俺は、手を振って答えた、これが、若い姉ちゃんだったらもっと嬉しかった。
「一応、冒険者の先輩として忠告するが、仲間は作ったほうがいい、ここらへんの魔物は弱いが、奥地は強い、・・・ところで、今日はこの村で泊るのか?」
「あぁ、泊まるつもりだ。」いい宿に、
「じゃ、組合の宿にしとけ、ここで風呂があるのは、うちだけだ、共同だがな、それに初心者割引もある。」
「共同って、混浴か!」
何言ってんだと、ウェイノードが呆れ顔をしたので、
「なっ訳ないよねぇぇ。」と俺はごまかした、残念。
久しぶりの風呂は気持ち良かった。
周りはガチムチの若いあんちゃんばっかりだ、その手の方にはご褒美だろうが、俺は、ノーマル、ドンパンポンの若い姉ちゃんがいい。
ついでに、彼らのレベルは低い、高くて、5前後だ、ベテランの冒険者は神殿の高級宿に泊まるか、自宅を持っている、ここには初心者しかいない。
仲間の問題は、俺も自覚していた。
ゲームでも、MO、つまり、マルチプレイヤーオンラインゲームの全盛時代、仲間同士でつるまなきゃ何にも出来ない、そうゆう時代だ。
だが、俺のような古参ゲーマーは、そんな時代に、ついてはいけなかった。
結構、ゲーマーはガチだ、レベルが高くても、実力が伴わないソロプレーヤーは、『寄生』と呼ばれ、嫌われる。
まして、ここが現実なら、トラブルは間違いない。
しかし、D&Dは、ソロプレーヤーに優しい。
D&Dには、従士制度と呼ばれるものがある、彼らは、コンピューターのAIだが、「ナイト」と呼ばれ、設定ではプレーヤーの霊力を共有して、多くの時間を一緒に過ごす事により、プレーヤーと共に成長していく貴重な存在だ。
ここが、D&Dと同じ世界観で出来ているなら、たぶん従士制度もあるはずだ。
幸い、今の俺にはローグから頂いた金がある。
明日、神殿に戻って、アースボルトに相談してみっか。
湯船に浸かりながらそう考えて、周りのマッチョな兄さん達を見ると、やっぱりナイトは、かわいい姉ちゃんがいいなと思う俺だった。