俺、旅立つ
続く三日間は、いろんなスキルを試したが、
攻撃系のスキルは、スキル酔いが酷く使い物にならなかった。
何とか『一閃突き』に馴れても、『刀牙昇斬』を使うとひっくり返ってゲロちゃう、そうゆう状況だった。
では、ジョブをハンターに変えて、武器は、弓を使用してみたが、弓の素人の俺では素早く動くゴブリンに、当たる筈もなく。
結局スキル頼みで、マシンガンのように矢を打つ『連なり打ち』しか当たらなかった、それでも、外れるほうが多かった。
矢も、ものすごい勢いで消費されるうえ、刺さった矢はいっしょに何処かへ消えてしまうとゆうオマケ付。
ゲームのように矢も、ただではないので、道具屋で一本20Gで購入して、一匹のゴブリンに10本の矢を使ったら200Gかかる。
完全に赤字だ、すぐにハンターは諦めた。
魔法使いであるソーサラのジョブも試したが、詠唱系のスキルは、詠唱があまりにも長く、結局、ゴブリンに取り囲まれて、ボコボコにされるとゆう、なんとも締まらない結果になって、これもすぐに諦めた。
逃げながら詠唱するような器用な事は、俺には無理だった。
シールドセージの大盾は、俺には筋力が無いので、持ち上げることさえ出来なかった。
俺は、結局、ジョブをファイターにして、『一閃突き』のスキルでゴブリンを討伐することにした。
朝から晩迄、スキルを使い続け、そのたびに吐いて、一日、十回以上は吐いた。最後は、胃液も出なかった。
もちろん、悪い事ばかりでもない。
道具屋で150Gで売っている、小瓶に入った『癒しの薬』が俺達、冒険者に良く効く事がわかった。
これも、メルコダの錬金術師が、ベビーハーブと綺麗な水を、霊力で合成して作っているそうだ。
実際、ゴブリンが俺に付けた傷程度なら余裕で直った。
また、スキル酔いも、同じ道具屋で小瓶150Gで売っている『ガラナエキス』が少し効く事もわかった。
しかし、薬二本で300Gは、今の俺には高価だ、只でさえ生活に350Gは掛かる。
薬は、一日の討伐の最後に、それぞれ一本ずつ飲むことにした。
四日めには、なんとか3万Gほどたまった。
ちょっと無理をした、その理由は、俺が旅行をしたかったからだ。
せっかくラストニアに来たんだからいろいろと見てまわりたい。
まずは、近場の、歩いて一日で行ける『トロの村』だ、あそこには礎もある。
一回行けば、次は、礎を利用して自由に行き来できるようになる、これも冒険者の特権の一つだ。
只、移動にはルーンを消費するので、そうちょくちょくは使えない。
安全に旅行するには、良い武器が必要であり、良い宿に泊り、そこで、うまいものを食うには金がいる。まぁ、そういう訳だ。
俺は、旅支度に、防具屋で胴アーマーのハーフキュイラスを4,760G、脚アーマーのブロンズサバトンを3,360G、レザーパンツを560Gで購入し、
ついでに、武器も武器屋で新調した。
剣はマクハエラを3,904G、盾はノーヴィスシールドを1,952Gで購入した。
薬は、『癒しの薬』、『ガラナエキス』をそれぞれ10本づつ購入して、3,000Gかかった。それでも10,000Gほど残った。
五日目の早朝に神殿を出て、南に街道を下った。天気は快晴で風も穏やかだった。
暑くも寒くもなく、この世界に来て初めてのんびりした気分になった。
ゴブリンの討伐も、スキルを使えばなんとかなることが分かったので、ゲームと同じザコキャラしか出ない街道なら、一人旅でも問題ないと思った、ただ、オークと遭遇した場合は、今の自分には無理なので、逃げることを考えていた。
この世界のオークは、姫騎士が好きで、西遊記に出てくる猪八戒のような姿の、エロブタではない。
彼らは、二メーターを超える巨漢だ。
ガチムチで緑色のマッチョマンであり、好戦的で、敵を見つけると巨大な斧を投げつけるか、自ら大ジャンプして斧を叩きつけてくる、しかも彼らは決して一人では行動しない。
彼らは、小隊、師団、軍団単位で行動し、ゲームの設定では、何故か、このラストニアを征服しようとしていることになっている。
このラストニアにいるオークは、斥候部隊でレベルも高くはない。
それでも、戦いの素人の俺が勝てるわけがなく、つまり逃げるのが、一番なのだ。
基本、俺は痛いのは嫌いだし、死にたくない! だから逃げるのは大好きで、更に好きなのが、自分より格下への不意討ち、
そっ、俺は生粋の卑怯者さ。
石畳の街道は、ゲームと違い、人とすれ違うこともあるし、馬車や荷馬車も往来していた。魔物と出会うこともなく、昼頃には南ハイドル大橋とトロ村の別れ道に着いた、右側がトロ村への行く道だ。
俺は右側の道を進み、歩くこと、勘で3時間ぐらい、そろそろトロ村が見えるような気がした瞬間、『ドドドドドォォォォォーーーーンン!!!』と地響きと轟音がし、トロの村から煙が立ち上った。いったい何がトロ村に起こった!
俺は何も考えず、トロ村に向かって走った。
トロ村周辺の街道には、唖然とした顔で、トロ村の方を見ている商人や村人達がいた。
その中で、俺は、トロ村から走って来る二人の冒険者と鉢合わせした。
彼らの様子からファイターとシーカーに見える。
「いったい何が起きた!」、俺は彼らに声をかけた。
「なんだ、冒険者か?」ファイターの男が答えた、年は、二人とも二十歳前後の若造だ。
レベルも、うっすらと見える。レベル12だ、俺よりもずいぶん少ない。
「そうだ、俺は、冒険者だ、今トロ村からすごい音がした、何があった?」
「あぁ、たいしたことじゃない、礎が破壊されただけぇさぁぁ。」シーカーの男が軽く答えた、語尾が伸びてるけど。
「お前ら、礎が、破壊って、てぇへんな事じゃねぇか! 礎を警備している、神殿騎士団は何してるんだ!」
俺は叫んだ。
シーカーの男は、にやついて俺に言った。
「白龍の犬コロはいないよ、僕達が絞めたからねぇぇ、」ニヤリ、
「絞めたったって、お前ら、・・・その浅黒い顔、ローグか!」
冒険者も人間であり間違いを起こす、窃盗や盗み等は、白龍様も気にしないが、同族殺し、殺人は許さない。
彼らは霊力が反転し、犯罪者となる。
ゲームの設定では、罪が、深ければ深いほどローグから、ミスト、そしてシャドーに姿形が変化する。
「今、なったばかりだけどね。」
シーカー野郎は、ダガーを両手で廻しながら構えた、それに合わせ、俺も剣を抜いた。
「待て、アベル、このおやじ、様子がへんだ。」
ファイター野郎が止めに入った。
「えぇぇっっ、カイン、殺っちゃおうぜぇぇ!」
「奴の防具も武器も、店売りの安物だ、それに、剣の構えも素人にみえる、なのに、奴は霊力が異常に高く感じる。」
「カイン、気にしすぎだよぉぉ、只のおやじ、じゃん、!!」
ヤバイ、ファイター野郎、勘するどすぎ、俺の唯一のアドバンテージ、レベル差に気がつきやがった!
「俺は、カイン、こっちはアベルだ、あんたは、」
「レイだ、ファイターをしている。」
「ふぅぅん、おかしいなぁ、おじさん、ファイターには見えないんだけどぉ?
いったい、何時からファイターをやっているんだぁぁ」
うぜぇ、こちとら、ゲーマーでのファイター歴は長いんだよ!よけいなお世話だ、くそシーカー野郎、
ファイター野郎が、剣を抜きながら俺に言った。
「なあ、あんたも冒険者なら分かるだろ、白龍教がラストニアを支配し、民を苦しめている、俺達は白龍の奴隷である民を解放したんだ。組合の不当な搾取からもな、」
「残念だなぁ、俺は五日前にこの国に来たばかりで、あっ、神殿騎士団!」
「なに!」「えっ!」ほら、後ろ振り向いた。
『一閃突き!』スキル発動!!グルグルゥゲェ、おぇっぷ!手応えあり、やったか?やったね、奴ら倒れているよ。
あっ、ファイター野郎が、立ち上った。
「ちっ、バカが、そんな初歩スキルが、俺達に効くと思ってるのかよ!」
「いや、効いてるね、お前達の生命力はすでにゼロだ、俺には見える。」某漫画風にね、俺は言ったよ。
「カイン!!手が、体が消えていくよぉォーーー」
シーカー野郎が、消えながら叫んでやがる
「アベル!!」
続いて、ファイター野郎も真っ黒になって消えた。
あぁ、ゲームではローグは魔物だから討伐すると消えたけど、この世界でも同じな訳だ、なんだかなぁ。
『100万G』、『鬼のどぶろく 一本』
カードが光って、金と素材を回収した。
やったね、ラッキー、奴ら結構、金持ってやがった、それに、オークの秘蔵の酒、『鬼のどぶろく』ときたもんだ。
今夜の晩酌は決まりだね、つまみは何にしようかな、楽しみだ。
ふと、周りを見回すと、どんぐり眼でこちらを見ている、牛飼いのじいさんと目があった。
「お前さん、なんちゅう、卑怯な戦いをなさるんじゃ。」
じいさんは、呆れ顔で俺に言った。
うるせぇ、勝てばいいの、勝てば!
そう思いながら、トロ村に向かった。