俺、策士になる
『ハイドル霊廟』の化物から採集された『渦霊の宝石』はディアマンドの罠だった。
其の宝石に含まれていた霊力は白龍様の霊力では無く、ディアマンドが其の力の源泉だと唱える、殺戮世界の力だった。
『渦霊の宝石』の霊力で強化した鎧を装着した神殿騎士団員は全員が其の霊力の魔力により、レベル1、生命1に成ってしまい意識不明の重体!
そしてラストニア中にある宝石の霊力はディアマンドの元へと集まり、
巨大な力を手にしたディアマンドは『渦霊の宝石』から霊力を抜いた後の残骸である石ころから骸骨を生み出した。
多くの冒険者が採集して霊力を抜いた石ころはラストニア中に捨てられ、その数は百万個。
百万個の石ころから産まれたのは百万の『骸骨軍団』!
更に奴は巨大な骸骨司祭となり、自らを『大骸骨霊法皇ディアマンドラアス』と名乗った!!
その時の奴のレベルは200だったが、奴が虚空より白と黒のケーブルを引き出した瞬間、ディアマンドラアスのレベルは9999とカンストした!!!
また、『渦霊の宝石』の霊力は神殿の『龍の礎』、『拠点の礎』に影響を与え礎は転移の力を失い、新大陸、隣大陸に居る高位の冒険者を呼ぶことも出来なくなった!
雪降るラストニア大陸で孤立した神殿にディアマンドラアスの『百万骸骨軍団』が迫る!!
神殿は『白龍』様の霊力により十枚の結界が張られている。
その一番外側の結界に百体の『骸骨巨人』の棍棒が撃ち込まれる!!!
ドガァアン!ドガァアン!ドガァアン!
神殿中に響き渡る衝撃音!!
十体の『骸骨竜』が死の豪息を結界に放射し!
バゴオォオオオオオオオオンンン!!!
神殿中に震度4の揺れが起こる!
その状況の中でも、俺は『遠見のボード』のディアマンドラアスを見ていた。
奴が持つ二本のケーブル、一体此は何なんだ?
「御主人様?」
奴は此の二本のケーブルを空中から取り出した時、レベルがカンストした。
「御主人様!」
つまり、奴の強さ、霊力の供給を此のケーブルがしているとしたら?
「御主人様!!」
二本である意味は?
「御主人様!!!」、マリーが俺の耳元で大声で俺を呼び、俺の手を引っ張った。
「何、ボーっとしてんのさぁ!レイ!!」と怒りぎみの声でメリーが俺を叱る。
「いゃ、すまん、ちょっとあのケーブルが気になって。」と俺はディアマンドラアスを指しながら皆に謝った。
「ケーブル?」とマリーが不思議そうに、
「あっ、あのディアマンドが手に持っている白と黒の紐。」
メリーは呆れた顔で、「何を言ってんだよ、レイ!そんなの奴は持って無いよ!!」
「えっ?」
エリーも不思議そうに、「私にも、そんな紐のような物は見えませんけど?」
「えっ!!」、俺はマリーに振り向いて、「マリー!」
「済みません、御主人様、私にも見えません。」
・・・あのケーブルが見えるのって俺だけ?
何故?
マリーは慌てて、「兎に角、御主人、直ぐに『白龍』様の処へ行かなければなりません!」
ああ、そうだよね、今回は流石に『白龍』様に相談しないと、分からない事が多すぎる。
ジョセッペのじいさんが我に帰って、「おぉおぉおぉ!そうじゃ!そうじゃ!『白龍』様の処へ行くのじゃ!!」と騒ぎ、
俺達は神殿の『白龍』様の処へと移動した。
神殿の奥の殿には『白龍』様が居る、その『白龍』様はゲームと違い生きているわけでは無い。
其処に居るのは龍の巨大な骸骨であり、その骨も白く化石化している。
そして、俺にだけは白骨の中心部に青い光が見える、その青い光は、今は消えそうな位に暗く見えた。
説明をメリーから聞いたエリーは驚いて、「えっ!マスターは『白龍』様と会話が出来るのですか!!」
会話って言うより、昔の漫画の中のコンピュータみたいに片言のやり取りだけどね。
メリーは得意気に、「其に内の旦那はスッゲェェェ強いお友達を呼ぶことも出来るんだよ、エリー。」
メリー、違うから、呼んでるのは『白龍』様で、俺はお友達を呼び出す条件を達成するだけだから。
エリーが目を輝かせながら、「やっばり、私のマスターは、私が思っていた通りの人だったんですね!」
そうっ、俺は君が思っている通りの只のエロオヤジ、ただそれだけ。
ジョセッペが苛立った声で、「どうじゃ、レイ殿、『白龍』様は一体、何と仰有られているのじゃ!」
俺は『白龍』様にワイトやオーガ、デスナイトの魔素を捧げて、此の事態の打開策を聞いた。
待つ事、十分前後、
「待ってくれ、ジョセッペ、小さくて聞こえない、えっ・・・二千?・・・骸骨魔法士、えっ討伐するのか?」
『白龍』様の声は掠れて小さく聞き取り難かった、其でも何とか理解出来たのは、二千と言う数字と、相手が骸骨魔法士だって事。
ジョセッペが驚いて、「骸骨魔法士じゃと!!」
マリー、メリー、エリーも、「えええええっ!!」、と同時に驚き、三人ともドングリ眼でちょっと可愛い。
皆が驚くのも無理は無い、
骸骨魔法士は後方大迎撃部隊だ其処まで辿り着くには、『骸骨剣士』 50万 『骸骨戦士』 30万 合計80万の部隊が神殿を幾重にも包囲しているのでその包囲を突破しなければ成らないし、その距離は1キロメータ以上は有る。
また、部隊の隙間には『骸骨狼』 5万が徘徊し、空からは『骸骨女鳥』 5万が襲って来る。
更に結界を破壊しようと神殿を出ると直ぐに巨大な棍棒を持った『骸骨巨人』が100体、『骸骨竜』が10体待ち構えている。
此の状況で神殿騎士団や高位の冒険者の護衛無しに、『骸骨魔法士』の位地まで辿り着くのは不可能!!
ジョセッペのじいさんは何故か納得した顔で、「分かったぞレイ殿!前回のように、メテオフォールを奴らにぶつけるのじゃな!流石レイ殿!此処から届く超大魔法を会得したと言うわけじゃな!」
じいさん!勝手に想像するなよ!そんな魔法有る分けないだろうが!バカか!
「ジョセッペ、俺のメテオの射程は二百メータが限度、魔法の詠唱時間は十分以上、だから魔法は此処からじゃ届かないし、近くに行って魔法を詠唱していたら、詠唱している間に殺されるって!」
ジョセッペは目を見開いて、「なぁ、なあんじゃと!!」
驚いたジョセッペは可愛くない。
「ジョセッペ、他の方法を考えなければ駄目だ!」
マリーが俺の方を見ながら、「御主人様には何か策が有るのですか?」
俺は頷きながら、「策が無いわけじゃない。」
こう言う状況は世界には良くある事だ。
問題は二つ、
一つはどうやって、骸骨魔法士の場所迄行くか。
二つ目は、其の場所でどうやって、二千の骸骨魔法士を討伐するのか。
此の場合、たぶんディアマンドラアスの一撃即死の大魔法攻撃が来る事が前提であり、
此を俺達が喰らったら終わりだ。
しかし、世界は俺達が必ず勝つ手段の出来る仕組みが実装されている。
ようは、その手段を見つけるかどうかだ。
但し、此の法則は駄目な世界には当てはまらない。
『白龍』様が造り上げた世界、D&DONは駄目な世界じゃない!
だから、俺達が奴に勝ち、此の世界を救う手段は必ず有る!!
「まず、どうやって骸骨魔法士の場所迄行くかだが、」
俺は一旦、言葉を区切り、「俺達は、空を飛んで行く!」
全員が驚いて、「空!?」
うん、やっばり、マリー、メリー、エリーの驚いた顔は可愛い。
ジョセッペが納得した顔で、「うん、うん、流石、レイ殿、空飛ぶ大魔法を会得したのじゃな!」
無いから、そんな世界の法則壊すような魔法無いから!
「嫌、ジョセッペ、魔法じゃなく、『探求者』のロープを使う!」
メリーが俺の意図を理解して、「そうか!『探求者』なら空を飛べるし、走るより遥に早い!」
「ディアマンドは俺達に都合良く、空に五万の骸骨女鳥を配置してくれた、俺達は密林王者のように女鳥にロープの連続掛けで一気に骸骨魔法士の場所に行く!」
マリーが不思議そうに、「密林王者?」
御免、俺の元いた世界の有名人、アアアアアアアアの人、分かんないよなぁ。
「勿論、『探求者』に成るのは俺とマリー、メリーだ、エリーは『僧侶』として俺が背負う。」
流石に今回は、メリーは騒がないで黙っている。
「そして目的地に到着したら、『ハンズ作戦』で行く!」
全員が驚いて、「ハンズ作戦?」
マリーが代表して、「御主人様、『ハンズ作戦』とは?」
俺は全員により詳しい説明を始めた、「まず、此の作戦の肝は、ディアマンドが世界に誓約した、俺達を一回だけ見逃す事に奴が何処まで縛られているかに有る。」
俺は考えながら、「あの時、ディアマンドは時間や距離の制限を付けなかった、だから此の一回は、推測だが、奴に敵対しなければ何時までも有効だと俺は考えている、つまり、俺達は骸骨魔法士の居る場所迄はディアマンドの攻撃を受けない!」
「えええええっ!!」
その真実に全員がまた驚き、
その中でメリーが不思議そうに、「しかしレイ、奴がその誓約を守らなかったら?」
世界の中では法則は絶対だ、まして此の世界はまだ『白龍』様の世界、奴は絶対に守る!
「大丈夫だ、奴は自ら言っていた、世界は公平だと、誓約を破る事が出来たなら、奴は最初から破っているはずだ! しかし、奴は誓約を守った、つまり、奴は誓約を破る事が出来ないんだ!!」
暫く考えた後、メリーは納得して、「・・・そう、そうなのか。」
俺は話を続けた、「但し、ディアマンドに敵対する行為が、奴が召喚した骸骨も含まれている可能性がある、其処でレベルの高いマリーとメリーが先行して俺とエリーの通る道を空けて欲しい、その際、骸骨女鳥には一切攻撃をしてはならない。」
マリーが決意した瞳で、「判りました、御主人様!」
メリーは一度瞳を閉じて、自分に言い聞かせた後、「やる!絶対やる!!やってみせる!!!」
俺は頷きながら、「エリーは、二人に僧侶として、耐久力上昇と生命回復をマリーとメリーに付与転送してくれ。」
エリーは自分にも役割があると知って、「はい!分かりました!マスター!!」と緊張気味に返事を返してきた。
俺は、その様子が可愛いかったので、笑顔で、「良し、マリーとメリーは出来るだけ骸骨魔法士の密集地帯を見付けて、其処に降りる、俺はメリーが地上に降りる直前にメリーを大盾聖者に転職する!」
メリーが驚いて、「私が大盾聖者!」
俺は頷きながら、「そうだ、錬金術師と同じ前衛支援職、メリーと相性が良い筈だ。」
メリーが、ちょっと戸惑いながら、「やった事があるから、多分、出来ると思うけど、何故?」
俺は真顔で、「此の時点で、世界との誓約は破棄されている、ディアマンドラアスを含めて、五万の骸骨魔法士の魔法攻撃が休む事無く、俺達に襲いかかる、それを防ぐ方法が唯一、大盾聖者の神の領域だ!」
全員が声を揃えて、「神の領域!!」
ハンズオブゴッド、法力で守護された空間を発現し、空間内にいる味方へのダメージを無効化する大盾聖者の大技!
メリーが不思議そうに俺に聞いて来た、「そんな凄い技が有るんだったら、何で今まで、私やマリー姉に使わせてくれなかったの、レイ!」
マリーも考えながら、「私も、確かに聞いた事が有ります、大盾聖者の究極の防御技法、確か欠点が有って実用的では無いと聞いてましたが?」
俺は頷きながら、「あぁ、そうだ神の領域はスタミナを一瞬で消費してしまう、だから単独での使用は無理な業だ!」
俺の話を聞いたエリーが自分が出来る業を思い出し、「!まさか、其れで私が!!」
俺はエリーに目を向けながら、「神の領域は高位の僧侶であるエリーが俺達のチームに加わってくれたからこそ、出来る業なんだ、此のスキルの発動中は、僧侶のスタミナ回復スキル、エナジースポットが必須!!!」
エナジースポット、僧侶の業、急速にスタミナを回復させる魔法エリアを発現させるスキル。
エリーが俺達に何度も使ってくれていた、元気一発ファイト!って業、此のスキルをエリーが使った時から、俺は大盾聖者の神の領域が使えると考えていた。
「そして、俺とマリーは魔法士に転職して奴等にメテオフォールをぶちかます!!!」
マリーも頷いて、「分かりました!御主人様!!」
ジョセッペが感激して、「流石、レイ殿じゃ!!」
俺はジョセッペを無視して、「エリー、出来たらで良いんだか、クイックチャージも挟んでくれないか。」
クイックチャージ、僧侶が精神を集中し、自身を中心に味方の技の発動時間を大幅に短縮する祈りを捧げる業
エリーは困った顔で、「二つ同時は無理です。」
俺は出来るだけ優しい笑顔で、「出来たらで良い、優先はエナジー、エナジーは絶対に切らせないでくれ。」
エリーも笑顔で、「はいっ!!!」
こうして、俺達は友達を呼ぶ為の『白龍』様からの、命を賭けた討伐依頼、二千の骸骨魔法士の討伐に挑戦する事になった。