俺、報酬を貰う
俺達は最期の『渦霊の宝石』、二十個を『ハイドル霊廟』で採集する為に、霊廟の地下洞窟に潜った。
其は、ラストニアには決して降る筈の無い雪が降り積もった日、
俺達が、借金の肩代わりに六千個の『渦霊の宝石』を『運営堂』に納品する最終日。
『ハイドル霊廟』の最下層、『死霊の大広間』は大きく変貌していた。
其処に現れたのは地獄門!
其処で待ち構えていたのは、『死せる大司祭』では無く、三体の死の墓守り『死の剣士』!
俺達が『死の剣士』と相対した時、地下洞窟の罠が発動して俺達は奴等を討伐しないと『ハイドル霊廟』から脱出出来なくなった!
奴等のレベルは60代、決して高くは無い、マリーとメリーとエリーだけでも倒せる相手だ。
だが、俺の直感が此は二重罠だと警告していた!
俺達の本当の敵はあの地獄門の奥に入る!
結局、俺達は此の地下洞窟から脱出する為に、『死の剣士』を討伐する事を決めた!
『死の剣士』と闘う事、一時間、奴等は格上のマリー、メリー、エリーの手によって黒き塵となって地下洞窟に吸収され、
奴等が落とした『渦霊の宝石』は俺の収納カードに保存された。
此で俺の収納カードにある宝石は二百個を越え、此の地下洞窟を出れば、『運営堂』と約束した六千個の納品が終了だと俺が考えた時、
俺の収納カードは赤く光、光は正面の地獄門に吸収された!
「えっ?」
二百個が!二百個が消えた!
「嘘っ!!」
俺は慌てた、折角、集めた宝石がぁ!!
また、今日の宝石集め、一からやり直しかよ!!
と思っていると、
「御主人様!!」、とマリーが!
「レイ!!」、とメリーが!
「ご注意を!!」、とエリーが!
ギィギギギギギギギギギギ!!!
錆び付いた蝶番が軋む音、
ゆっくりと地獄門が開く!
ゴォオオオオオオオオ!
門の奥底より大広間に冷気が吹き込み!!
ゾワッ!!!
何だ!!此の威圧感!!背筋が凍るような恐怖!!
俺は脚が震えていた!!
マリー、メリー、エリーが一歩下がる!!
彼女達の額は汗で濡れていた!
カッカッカッカッ、
パチパチパチパチパチパチ、
地獄門の中の暗黒の空間から床を鳴らす靴音と拍手する音が聞こえ、
暗黒の世界を背景に一人の男が浮かび上がる、
身長は百七十前後、決して高くは無い、
歳は五十代に見える、銀髪の髪は長く伸ばし胸迄ある、錬金術師が纏う白い法衣は薄汚れボロボロになっていた。
驚くのはそのレベル!コイツは150を越えていた!!
顔は頬がこけ、浅黒く、白い眼窩を不気味に光らせ、紫の唇から発した言葉は、
「依頼達成、コングラチュレーション!!」
?コイツ何言ってんの!!と俺が思っていた時、
マリー、メリー、エリーが同時に叫ぶ!!
「ディアマンド!!!」
えっ!!ディアマンド?
ディアマンドって、あの雑魚キャラ?
確か己の研究欲の為に、何十人もの人を殺害した結果、同族殺しを認めない『白龍』様によって犯罪者と認定され、反逆者でもあった奴は更に魔物へと落とされた、
逆怨みした奴は神殿に乗り込み、『白龍』様を殺そうとしたが逆に神殿勇者のレオに殺された、
筈なのに、
オークの皇帝ドルゾックに転生した奴は再び神殿を襲ったが、俺の友達により討伐され、最期の止めは俺がやった、相当執拗い悪役!!
奴がディアマンド!!!
ディアマンドが両手を広げ天を見上げながら俺達に語る、
「世界は公平だ、依頼達成した君達に私から三つの報酬を差し出さねばならない。」
えっ!報酬って、俺達、お前から報酬貰えんの!!何で???
奴は俺達に人差し指を立てて、「一つめの報酬は、依頼の説明。」
?依頼の説明が報酬って?
「我が依頼は納品討伐依頼、一つめの納品依頼は、人生らざる者が、我が命を六千、我に届ける事!」
?、六千の命?六千って俺達が集めた『渦霊の宝石』と同じ数!!
まさか!!!
ディアマンドは、中指を立てて二を表しながら、「二つめの討伐依頼は我が墓の守護者、三体の魔神の討伐!!」
三体の魔神!『死の剣士』!!
俺達は一体何をしたんだ!!!
ディアマンドの唇は狂喜の喜びで捲り上がり、「依頼達成した時の条件は、」
条件は!!!
ディアマンドは更に大きく手を広げ、「我のラストニアの大地への帰還!!!」
メリーが怒りに満ちた瞳で、「ならば!!お前を直ぐに此の世界から追い出してやる!!ディアマンド!!!」と大声で叫びながら、魔導籠手を構える!
「メリー!!奴に手を出すな!!」、俺は急いでメリーの前に立ち、彼女の無謀な行動を止めた!
「退いてくれ、レイ!!奴は私の友を!仲間を殺した犯罪者だ!!!」
「駄目だメリー!!!」、俺はメリーの肩を掴んで必死にメリーを止める!!
ディアマンドの笑いは更に凄みを増し、「賢明な判断だ。」
奴は一瞬、間を空けながら、「・・・二つめの報酬は、世界の真理の説明!!」
真理の説明?其も報酬なのか?
「私が世界に抱いた疑問は一つ、白龍の力の根源は何処に在るのかだ!!」
『白龍』様の力の根源って?そんなの在るのか?
「私は考えた、我々が死んだ世界と白龍は繋がっているのでは無いかと、だから多くの実験体で試したのだが、彼等ではその世界にはたどり着けなかった!」
メリーが、真っ赤な顔をして、「此の犯罪者!!」と怒鳴りながらディアマンドに飛び掛かろうとして、俺とマリーで必死に止める!
「白龍により、化け物にされた私は考えた、化け物に成った私が白龍の手により殺されたなら、白龍の力の源にたどり着けるのではないかと!」
此の世界は俺が大好きだったゲーム、D&DONに似ている、それと何か関係が在るのか?
「殺された私は、あと少しで真理にたどり着ける処で引き戻されてオークに転生した!!」
ドルゾック!!
「オークに成った私は考えた、何故、此の世界は白龍に縛られているのか?何故、白龍は冒険者や魔物を作るのか?答えは白龍の死によって分かるのでは無いかと。」
えっ!ディアマンド!お前!そんな理由であんな戦争を起こしたのかよ!!
「そして私は、白龍が呼び出した世界の向こう側の者に、人生らざる者に殺された!」
えっ!それって俺の事?
「私は、其処でやっと、白龍の力の根源、世界の真理にたどり着く事が出来た!!」
えっ!もしかして!俺がいた世界って事?
「その世界は何千万の同族が生まれてはお互いが殺し合う狂気の世界!!!」
ええええええええ???
「たった一人が生き残る為に、お互いが殺し合う狂喜の世界!!!」
いったい何処に在るんだよ!そんな世界!!
「その世界に比べれば、白龍等何と小さい事か!!!」
白龍様が小さいって、そりゃD&DONはゲームとしてはメジャーじゃないし、売れて無いし、って!!
ゲーム?
ゲーム!
ゲームか!!
ゲームなのか!!!
そうだ、俺が存在していた世界はゲームが満溢れている!
俺達の世界はゲームで繋がっている!!
そして!
売れているゲームの多くは!!
人が人を殺す、殺し合いのゲーム!!!
PBGE、コールナイト!
数千万プレイヤが熱狂する殺戮ゲーム!!
確かに、世界は狂喜と狂気の世界だ!!!
此の世界が、俺達の世界から生まれたのなら、他にも多くの世界が存在するって事か!
此の世界の真理、其は此の世界が俺達の世界によって構築されている事!!
ディアマンドはその真実にたどり着いた!!!
「私は知った、白龍が小さく、ちっぽけな生き物である事を!そして、やはり滅ぼす対象である事を!!」
滅ぼす!白龍を!!此の世界を!!!
メリーが激怒して、「白龍様を滅ぼす!分けの分かんない事言ってふざけんな!!犯罪者!!!」と怒鳴った。
そうだ、奴の言ってる事が理解出来るのは、此の広いラストニアで俺だけだ。
だから、真理の説明が俺の為の報酬になると言う分けか!
ディアマンドは気味悪く、ニヤリと笑い、「理解出来たようだな、では最期の報酬だ!」
奴が右手を差し出した瞬間、
ガラガラガラガラガラガラ、
大広間の石製の落とし戸がゆっくりと上に上がり、「一度だけ見逃してやる。」、とディアマンド!
俺は、騒ぐメリーを抱き締めて、「転移!!!」
ありがとな、ディアマンド!
俺はきっちりと貰える物は貰う主義!!
こうして、俺達は、『ハイドル霊廟』の地下洞窟出入口前の『拠点の礎』に転移した。
俺は『ハイドル霊廟』前の広場のテントに待機している、トネリブァに怒鳴った、「逃げろ!トネ!!神殿に逃げろ!!!」
トネリブァは、『ハイドル霊廟』から沸き上がる禍々しい瘴気に異変が起きた事を知り、直ぐに商人組合のカードで神殿に転移した!
俺達も神殿に転移しようとした時、メリーが俺の腕を掴み大声で、
「レイ!!何故!奴を殺さない!!奴は殺人鬼の犯罪者だ!!冒険者は奴を殺す義務が在る筈だ!!皆で殺ればアイツに勝てた!!!」、俺に対して怒鳴った。
バシッ!!!
えっ?
頬を叩く音?マリー!
「いい加減にしなさい!メリー!、相手の強さが分かる御主人様が撤退したと言う事は、私達全員が相手をしても勝てない相手!!」
メリーは叩かれた頬を右手で押さえながら、俯いていた。
エリーも、「メリーさん、私も御主人様の判断は正しかったと思います。」
場に静寂が流れ、
メリーの瞳から涙が溢れ、
彼女は俺達に自分の過去を語り出した、
「奴は!十年前、私と私の友達を誘拐したんだ!」
メリーは瞳を固く閉じ涙は止まること無く流れ落ち、手は固く握りしめ、
「そして私の友達を実験の為に殺し、私は、親父が奴に自分の研究を引き渡す事で命が救われた!!」
えっ!ちょっとまて!メリー・・・お前え!!
「奴を、奴を、冒険者で神殿勇者のレオが殺した時、もし私達が拐われたあの時、錬金術師にも冒険者がいたら、その冒険者が私達を助けてくれたかもしれない、そして友達も死ななかったかもしれない!」
メリー!
「ずうっとそう思い続けてきた、だから、私は強くなりたかった!強くなって冒険者になって、皆を助ける事が出来る冒険者に成りたかった!!」
メリー!!お前が『武装錬金』の達人だったのは、それが理由なのか!!
それが、お前が冒険者に成る事に拘った理由なのか!!
何てこった!!!
マリーがメリーを優しく抱き締め、エリーもメリーの固く握りしめた手に両手を重ねた。
俺はメリーに何も言えず、只、一言、
「転移」と呟き、
俺達は神殿の奥の殿の前室に転移した。