俺、エリーさんと契約する
俺達は『ハイドル霊廟』で一人の女の娘を助けた、彼女はハーフエルフで『冒険者と恋に落ちて』、通称『冒恋』の作者だった。
彼女は人気作家の地位を賭けた闘いで、新大陸の族長の娘セシルアさんに負け、その地位をセシルアさんに奪われ、失意のどん底に落ちた彼女は再び人気作家の地位を獲得する為に奮起して、彼女の出身地『ビショップの郷』の現宗主コルトミュの下を訪ねたのであった。
「レイ!ちょっとその解説ひどくない!」
そっ、そうか?メリーは怒ると俺の事をレイと呼び捨てにする。
元人気作家で『冒険者と恋に落ちて』、通称『冒恋』の作者、マーガレット女史であるエリーは俺に語る、
「私、本当は冒険者に成りたくて十六歳の時、神殿の冒険者組合に来たんです、でも冒険者には成れませんでした。」
?何で?
マリーが俺に解説する、「ハーフエルフの方は人の血が濃くないと『白龍』様の加護が受けられないんです、たぶん彼女は滅んだエルフ族の血のほうが濃かったのでしょう。」
本当に『白龍』様は好き嫌いが多いなぁ、困ったもんだ。
エリーは俺達に言った、「宗主様が言うには、本来、ビショップにも成れない反逆者の一族の娘をビショップにした一人の冒険者がいると、」
マリーは頷きながら、「其は私の事ですね。」
エリーは続ける、「その冒険者は更に、『白龍』様を信じていない異教徒迄、自分のビショップにしたと。」
メリーは嬉しそうに、「其れ、私の事だ、錬金術師は『白龍』様を信じていないから、あんまり『白龍』様をバカにする人はビショップにも成れない異教徒もいるって聞いた事が有る。」
俺は驚いた、えっ!そうなの!
だいたい、此の世界で『白龍』様をバカにしちゃいけないでしょう。
だって、此の世界は『白龍』様が作った世界だよ、少なくとも俺が遊んでいたドラゴンズ&ドラゴンオンライン、通称D&DONはそうだった。
エリーは嬉しそうに、両手を握り絞めて、「そんな凄い冒険者が要るのなら、冒険者に成れない私でも、ビショップには成れるかもしれない、私はそう考えたんです!」と俺を見ながら言った。
俺は惚けて、「へぇ、そんな凄い冒険者が要るんだ、世の中は広いねぇ、何時かエリーさんもそんな凄い冒険者と出会えると良いね。」
其れを聞いたメリーは膨れて、「あぁ、レイ、意地悪してる、業と、惚けてる!」
メリーさん! 俺は意地悪してるんじゃ無い、俺には他の冒険者と違い秘密が有る、その秘密を共有するビショップをそう簡単には増やせないんだよ!
だから、それを知ってるマリーは黙ってる、
だいたいメリー、君の時だってマリーが仲間欲しいって言ったのと、金に目が繰らんで、
エリーは大声で、「300万G!前金で払います!」
えっ、300万G
俺とマリーはお互い顔を見合せた。
もっと早く言ってよ!
エリーは必死だった、「必要ならもっと払います!迷惑なら一週間!一週間だけでも!」
俺は困った、金は欲しい、しかし、「なぁ、エリーさん、君にとってビショップに成る事って何の意味が有るんだい、今のままでも充分にやって来れたんだし。」
エリーは俺にしがみつかん許に、「有るんです、自分の目で世界を見たいんです!体験したいんです!!其れが出来れば!!!・・・私は、」
彼女は今にも泣き出しそうだった、
暫く沈黙が続いた後、マリーが口を開いた、「宜しいんじゃないんですか、御主人様、家は今、お金が必要ですし、ちょうど回復役も必要ですよね。」と俺を促す。
うーん、「・・・でも、体験だけだったら護衛の冒険者を雇えばすむし、実際に、冒険者を雇って『ハイドル霊廟』に行ったんだろ。」
エリーは下を向いて、「一般人が行ける場所は限られています!それに今回、『ハイドル霊廟』に行ったのも、アースボルトさんが、貴方達が新大陸に行って当分は戻って来ないと言って、じゃ戻って来る迄、少しでもお役にたてるように冒険者の練習をしようと思って、」
そんでオーガに会って死にかけて、まったく、健気でどうかしてるぜ、しかし、アースボルトは俺達まで新大陸に行ったって思ってたんだ、そう言えばハイドルの地下洞窟にずうっと潜って宝石を採種していたから、組合には一回も顔を出さなかった。
ふぅ、ため息が出る、「でっ、メリーはどう思う。」
メリーは嬉しそうに、「私はエリーの事を昔から知ってるし、一緒に冒険者が出来るなら、すっごうーく嬉しいかな。」
はぁ、「分かった、前金300万Gでっ、二週間だけだ、その時、残りの300万G、合計600万。」
マリーは驚いて、「御主人様?」
別に金が欲しい分けじゃ無い・・・訂正、金は欲しい、只、理想と現実は違う、彼女が憧れて美化した理想の冒険者に俺は成りたくなかった。
彼女にとって俺は金にがめつく、自分勝手で利己的で我儘な冒険者であって欲しい、一週間後には俺の事を嫌いになって冒険者には二度と憧れない、そう言うシナリオになって欲しい。
俺は彼女と親密に成るのが怖い、今ではマリーもメリーも、俺には大切な存在だ、その大切な存在がまた一人増える。
俺は彼女達を守って行けるのだろうか?
此の世界の存在で有る事が不確実な俺が、
俺自身の正体が、俺自身にとって不明確な俺が、
俺は何時も思っていた、もしかすると俺は再び元の世界に帰ってしまうんじゃないかと。
そうしたら、残されたマリーとメリーはどうなるのか。
! 手に温かく柔らかな感触が伝わる。
マリーが俺の手を握り、此方を見ている。
「大丈夫ですよ、御主人様。」
私は、例え何があっても貴方を手放さない!
そう、俺に訴えかけているような瞳だった。
エリーは、「分かりました、その条件で構いません、宜しくお願いします。」
彼女は俺達に御辞儀をした後、雑貨店組合のカードを取り出した。
そのカードから俺のカードに300万Gが振り込まれ。
契約は成立した。
翌日、俺は、売ると1個500Gだが買うときは組合手数料や神殿の税金分が乗っかって2000Gになる『渦霊の宝石』を、市場から総額40万Gで宝石を200個買ってトネリブァに渡した。
トネリブァは何も言わずにその『渦霊の宝石』を受け取り、俺達は『ハイドル霊廟』から『ビショップの郷』に転移した。
『ビショップの郷』の 冒険者仲介担当であるジュリエッタ嬢は俺達とエリーを見て、直ぐにコルトミュ宗主に伝え、
コルトミュも直ぐに俺達に会い、エリーと俺達を見た彼は、エリーに優しく、「決めたのですね。」と一言を言い、エリーは嬉しそうに頷いていた。
俺にとっては此の儀式も三回目になる。
コルトミュは、ボケットから小さな水晶玉を左手で取りだして言う言葉も同じだ、「汝ら、四人は、何時如何時もお互いが、冒険者として助け合う事を誓うか!」
エリーは直ぐに、「誓います。」と言い、俺達も続いて誓うと言った。
やはりコルトミュの左手の水晶が薄く光り始め、彼は言う、「では、レイ殿、三人の指輪を外して私の右手に乗せた後、レイ殿はカードをこの水晶にかざしなさい。」
俺達は指輪を外し、その指輪をコルトミュの右手に乗せた後、俺はカードを水晶に翳80万Gゴールドが消えるのを確認した。
コルトミュの右手から三つの指輪が消え、新たに四つの指輪が現れた、此れも今までと同じだ。
コルトミュは今度の相手がエリーだからなのか話しを省略して、「レイ殿は、皆の左薬指に指輪を填めて下さい、レイ殿の左薬指にはエリーが填めてあげなさい。」
俺達は其其の薬指に指輪を填めると、
エリーの回りに光が集まり、光のなかでエリーは嬉しそうに立ち。
やがて、俺の目に彼女の生命力と体力のバーがうっすらと見え始め、そして彼女のレベルが表示された時、俺達は彼女が冒険者に成るためにどのくらい努力をしてきたかを理解した。
彼女の僧侶のレベルは70を越えていた。
エリーは光の中で誇らしげに、俺の方を見て微笑んでいて、俺には彼女が眩しすぎて、直視する事が出来なかった。
エリーが俺達の仲間になったら歓迎会を兼ねて、ドゥナン深林層の『ディア・ドゥナン』に行こうと、マリーとメリーは決めていた。
『ディア・ドゥナン』はかって繁栄を誇っていたエルフ族の廃墟で、一般人では決して行けない場所だ。
緑に覆われたかっての美しかったエルフ族の都は、数千年たった今でも美しく、壁や天井に填められていたステンドグラスの残骸は、陽光の変化で光のロンドを作り出していた。
勿論、廃墟である以上、魔物の巣窟であり、冒険者のレベルが50以上、四人が同時に乗らないと開かない扉等がある為、チームプレーが必須の難所でもある。
俺達は此の場所でエリーとの連携を試した。
此処には、ライオンの体に背中にヤギの頭、尻尾が蛇の大型魔物キメラや全高12メータの巨木の魔物エント、身長6メータで体型は相撲力士型、巨大な棍棒を振り回し暴れ回るモトロール等がいる。
その大型魔物に三人だけでは苦戦していた俺達は、エリーが加わるだけで、戦いが此れほど変わるのかと言うことを始めて知る事になる。
僧侶、回復と支援の魔法で共に戦う仲間を支え、離れた標的の動きを抑えながら頼れる味方の行動を補うことで戦闘を有利にする事が出来る術士。
僧侶の特技の一つに大型魔物の弱点であり生命の根源である魔核を生命回復効果のあるエリアを展開するヒールオーラが大型魔物に触れる事により奴等の隠された魔核を暴露することが出来る。
また魔法強化の付与を味方全体に転送することも僧侶の特技の一つで、味方全体の火力を引き上げるアタックライザーや耐久力を高めてダウンを防ぐソリッドライザー等、非常に強力な支援系の魔法を得意としている。
エリーは俺達が予想していた以上に僧侶ととしての役割が上手く、彼女が何時か自分も冒険者に成る事を夢見て血の滲むような努力をしてきた事が俺達には分かった。
魔核を出すタイミング、支援付与の機会を決して逃さない判断力、俺達が疲れを感じた時、彼女の広げた両手から繰り出されるスタミナ回復魔法を全身に感じた時、彼女がどれ程の観察力を俺達に向けているか、
彼女、エリーは僧侶ととして、一級品だった。
もし、彼女にエルフの血が濃く流れていなかったら、エリーは決して俺達とは仲間には成る事のない、僧侶ととしての高位の冒険者に成っていただろう。
俺達は知った。
だからエリーは、金も作家としての地位、名誉を得てもそれらの全てを棄てても、決して得ることの出来ない冒険者に成る事に拘り、
冒険者に成りたい、それが彼女の人生を賭けた切なる願いである事を。