俺、白き伝説になる
借金を背負った俺達は、借金の代わりに『ハイドル霊廟』の化物から採集される、『渦霊の宝石』を一日二百個、合計六千個を集める事になった。
『渦霊の宝石』は地下三層に渡る『ハイドル霊廟』の化物を討伐すると稀に落とすのだが、問題はその確率で、地下一層から三層迄、化物を討伐しても二十五個前後しか採集出来ない。
つまり、一日に二百個集めるには、一日八回『ハイドル霊廟』の地下に潜らなければならない。
『ハイドル霊廟』は、そんなに長い地下洞窟じゃない、それでも一層から三層迄だと普通で三時間はかかる。
普通にやっていては九時間で三回『霊廟』に潜って一日が終わってしまい、採集出来る宝石の数も七十五個前後で二百個には全然足りない。
俺達は『ハイドル霊廟』を一時間に一回、高速に周回して化物を殺しまくり、『渦霊の宝石』を集めなければならない。
更に全ての化物が必ずしも『渦霊の宝石』を何時も落とすわけではないから、他の冒険者を出し抜いて出来るだけ多くの化物を狩らねばならない。
俺が狩った化物が落とした宝石は、俺の収納カードに保存される、マリーやメリーが狩った化物が落とした宝石も俺の収納カードに保存される。
効率を考えると三人がバラバラで狩りをしたほうが良い、しかしレベルが低いとは言え、『ハイドル霊廟』は魔物が巣食う地下洞窟だ。
魔物は化ける、弱いと思った魔物も次に再出現した時、同じレベルとは限らない、其処が現実とゲームの違いだ。
安全を考えたら、三人一組の行動は外せない、俺に取ってはメリーやマリーは、今や俺の命より大切な存在だからそれを失うなら、俺は借金なんか踏み倒す。
今の俺は、そう言う気持ちだ。
とは言え、俺は借金を返す気持ちは有る、そして俺には他の冒険者とは違い九つのジョブを持っている。
高速に走り回り、獲物を瞬時に狩る事の出来るジョブ、
それは、『探求者』と言うジョブだ!!
『探求者』の武器はタガーと呼ばれる両手に持つ二本の全長10~30cm程度の諸刃の短剣とロープ、
シーカはロープを使って宙空を舞い、縦横無尽に駆け回るそのさまは、まるで戦場に吹き飛ぶ疾風のようで、
その技は手に携えたロープを自由自在に操り、巨大な化物の背後、頭上等、思いもよらぬ死角へと瞬時に潜り込む事が出来る。
ジョブの特徴はロープによる位置取りと攻撃速度の速さそして空中でも二段ジャンプが可能なことだ。
シーカの攻撃の特色は斬・打・炎属性・空中攻撃と多彩な攻撃スキルを持つ。
また構えキャンセルスキルを持ち、状況に応じて使い分ける事でどんな敵・相手にもそれなりに火力を発揮できるのがシーカの唯一の特徴である。
構えキャンセルスキル、通称『構え直し』はあらゆる動作を強制キャンセルでき再使用間隔も短く、攻撃スキルの隙を減らしてタガーを相手に連打したり、被弾モーションをカットして体制を立て直すなど攻防あらゆる局面で活躍する。
更に回避動作の基本技、『転身』で戦闘でも身軽に動けるだけでなく長距離移動においても全ジョブ断トツの移動速度を誇るため、あらゆる場面で移動時間を短縮できる強力なアドバンテージを持つのがシーカである。
そして、今回、特に使用するスキルは『かまいたち』
『かまいたち』はシーカの初期スキルで、敵を追従する猛ダッシュの斬りつけ攻撃を放ち、初撃が当たると連続で斬り返しを放つ高速移動攻撃技だ、勿論、スキルだから使用する事によりスタミナを消費する。
今回の『ハイドル霊廟』での『渦霊の宝石』を一日二百個を収集する為に俺達はシーカのジョブを選択し、『かまいたち』、キャンセル『構え直し』、『かまいたち』、キャンセルの連続で高速移動、高速攻撃を繰り返す事にした。
スキルはスタミナを消費し、スタミナが無くなれば俺達は動けなくなる、その為、俺達は大量のスタミナ回復薬、ガラナエキスを持って行く事にした。
但し、効果の高い高級品のガラナエキスは高価だ、沢山は使えないのでスタミナの回復は、やはり自然に回復する事が重要でその場合、スタミナ消費が少ない、シーカの基本技『転身』が重要になる。
『ハイドル霊廟』で魔物のいない区間はスキルの使用を抑え『転身』で高速に転がりながら移動するのだ。
しかし、俺は自慢じゃないが三半規管が弱い、目が回りやすく酔いやすい、だから今までシーカのジョブはあまり得意ではなかった。
今回は、嫌いだ、不得意だと我儘を言ってられないので、メリーに言ってガラナエキスで作った酔い止めドロップを舐めながら、シーカの『転身』に挑戦する事にした。
たぶん、俺、ゲロッピするよなぁ。
嫌だなぁ。
そんなこんなで、次の日、俺達はシーカに転職して、朝、日の出と共に『ハイドル霊廟』にある『拠点の礎』に転移した。
其処で見た光景に俺達は愕然とした、其処には『運営堂』が集めた百から二百の冒険者が屯していて、黒鎧の『運営堂』スタッフが『ハイドル霊廟』に入る順番等を仕切っていた。
彼等の殆どは若い冒険者の男女で、どの子達のレベルを見ても低く、たぶん冒険者の成り立てか初心者だろう、皆楽しく会話しながらまるで此れからピクニックに行くのって感じだ。
「おはようございます、レイさん。」
『運営堂』の黒鎧のリーダ、トネリブァが俺達を見つけ、俺達に声をかけて来た。
「おぃ、一体何なんだ?此の状況は、」
俺は、トネリブァに此の状況について聞いてみた、
トネリブァは苦い顔をしながら、「保険ですよレイさん、私達はレイさんに期待しているんですが、レイさんの実力を見誤って万が一約束して頂いた宝石が集まらなかった場合、うちは神殿から莫大な違約金を取られますからね。」
トネリブァは若い初心者の冒険者を見ながら、「まぁ、彼等じゃ四人で潜って一層迄、一日、五十個いくかどうかですよ。」
俺は呆れた、「初心者を無理矢理、地下洞窟に突っ込むって、お前らどんだけブラック企業なんだよ。」
トネリブァは不思議そうに、「ブラックキギョウ?何ですかそれ?」
「俺の故郷での誉め言葉。」
トネリブァはちょっと嬉しそうに、「そうですか、有難うございます。」
「処で俺達にとっては、彼等は邪魔なんだけど、その点は?」
トネリブァは俺の顔を見ながら、「それも考慮して、地下洞窟の入場規制をしています、彼等が地下洞窟に潜るのは、レイさん達が出発してから十分後です。」
一応は考えているんだ、
「それでも、一層は混んでるかも知れませんけど、レイさんの狩場は二から三層なんで問題無いですよね。」
俺は諦めて、「無いことは無いけど、仕方無いんだろ。」
トネリブァはニヤリと笑い、「助かります。」 と言った後、俺達から離れて行った。
メリーが俺に催促する、「レイ!旦那様!早く潜って、早く集めて、早く帰ろう。」
マリーが俺の右腕にしがみついて引っ張る、「そうですよ、御主人様、早く終わらせましょう!」
俺は微笑んで、「分かった、メリー、マリー、じゃ、潜ろうか。」
こうして、俺達の『ハイドル霊廟に走る白き稲妻』の伝説が始まった。
と、格好良く言ったものの、現在の時間は夜の八時、俺達は青い顔色でトネリブァの前に立っていた、俺の顔色は青を通り越して、真っ白だった。
トネリブァは嬉しそうに、「流石ですねぇ、二百十二個!約束の二百個を越えた十二個の宝石はどうします、うちで一個500Gで買い取りますか?」
マリーが疲れた、小さな声で、「買い取りで、」
結局その日の俺達の収入は、十二個の宝石代、6000Gだけだった。
その日、俺達は休憩を挟んで、朝の七時から夜の八時迄、十三時間、合計十回、『ハイドル霊廟』に潜った。
メリーが作ってくれたガラナエキスのドロップの効果も空しく、俺は『転身』を使い高速に転がり始めると、
直ぐに目が回って、気持ちが悪くなり、胃の中身が逆流して、最所は我慢していたんだけど、我慢出来なくなって、途中で『構え直し』でスキルをキャンセルして立ち止まり、
・・・俺はその場でゲロッピした。
立ち止まりながらゲロッピをする俺に対して、最初は心配して優しかったマリーやメリーも、十回を越えるゲロッピに対して効率の悪さに苛立ち、
遂にメリーさんが切れて、「旦那様!止まらないで行こうよ!!」と有無言わさない眼光で俺をニラミ、
俺は怖いメリーさんに負けて、吐きながら先に進む事にした。
三層の狩りが終わり、逆に戻ると三層はまだ化物の再出現がして無いので、更に戻って二層に行ってもまだ再出現途中だったら、もっと戻って一層に行かなければならない。
それでは効率が悪いので、俺達は三層の狩りが終わると一度、『ハイドル霊廟』にある『拠点の礎』に転移し、戻って一層から再度、地下洞窟に潜る事にした。
『拠点の礎』の前には『運営堂』が用意した仮設テントがあり、中で休憩か食事が出来るように椅子とテーブルが設置されていた。
俺達は其処で十分間休憩するか、同じく『運営堂』が用意した仮設トイレを使うかした後、再び地下洞窟の一層に潜った。
一層には若い男女の初心者冒険者が楽しくお喋りをしながら化物の狩りを楽しんでる。
そして、俺達は『転身』で回転しながら高速移動すると同時に、俺は堪らず白き光を放ちながら彼等の横を通り過ぎ、
俺達が通り過ぎた後から阿鼻叫喚の悲鳴や絶叫が『ハイドル霊廟』に木霊する!
「ギャアア!汚ねぇ!!」
「くせえええ!!」
「イヤアアアアアア!!」
勿論、マリーさんもメリーさんも絶体、俺の後ろには行かない。
俺は悪く無いんだ、俺は悪く無い、と自分に言い聞かせ、俺は白き光を放ちなから転がる。
潜る事、五回を越える頃には吐く物が無くなり胃液を吐き始め、七回を越えた時点では胃液も出なくなり、俺の顔は真っ白になった。
もう色んな意味で出す物が何も無い俺達が帰ろうとした時、
俺はトネリブァの横に山のように積まれていて赤く光輝く綺麗な『渦霊の宝石』に気づき、
俺は宝石を見ながら、
「すげえなぁ、その宝石、武器や防具の強化に使った後はどうするんだ、売るのか?」
トネリブァは笑いなから、「まさか、レイさん、『渦霊の宝石』は強化に使ったら石ころになるんですよ、知らなかったんですか?」
石ころ?こんな綺麗な宝石が?
「知らなかった、じゃ、『運営堂』は二万の石ころを倉庫に仕舞っとくのか?」
トネリブァは頭を掻きながら、「レイさん、ほら棄てる処は、ハイドル平原中に何処でも有るじゃないですか、皆やってますよ。」
なんだよ、違法投棄なの?まぁ、此処じゃ取り締まる奴いないし、
そんなもんかと思いながら、俺達は帰路についた。