俺、借金を背負う
俺は、約束された防具、『赤征の戎衣』が来るのを期待して、最後の回転するスロットを凝視していた。
スロットはゆっくりと回転を止め、
表示されたのは、
『黄金の鉈』、2本
ええええええええええええええ!
何それ!
俺は見間違いかと、目を擦りながらスロットの画面をもう一度見た、
『黄金の鉈』、2本
何度見ても『黄金の鉈』!!!
「出ませんねぇ。」、とメリー。
マリーさんは下向いて、額に手を当てて、困った顔。
俺は、キャロメン嬢に、「おっ、おっ、おかしいだろ!三十回で、『赤征の戎衣』が出るんじゃないの!」 と文句を言った。
キャロメン嬢は、はぁって顔した後、「御客様、大変申し訳ないんですが、そのキャンペーンは先週迄で、今週からは武器一個確定キャンペーンなんです。」
えっ!ええええええええええ!!
防具じゃなく、武器!!
「何で!何で!何で言ってくれないの!!!」
キャロメン嬢は困った顔して、「一応、スロットなので、内容は聞かれない限り言いません、何が出るか楽しみにしている御客様がいらっしゃいますから、そう言う方に勝手に話したら迷惑ですよね。」
たっ、確かにそうなんだけど、そうなんだけどさぁ!
「だったら、武器一個確定なら、その武器が出てないじゃん!」
キャロメン嬢はクレーマ、嫌だなぁって顔で、
「御客様、出てますよ、ほら『黄金の鉈』2本、此れは、あの有名な錬金術師ディアマンドが作った、『龍殺しの鉈』、レアアイテムが2本もですよ。」
知ってるよ!!
オークがゴブリンを殺した奴だろ!
目の前で見たよ!
魔物が魔物を殺す鉈!
だがなぁ、俺達にとっちゃ、ただの鉈!
アイテムランク1、攻撃力1の只の鉈なんだよ!
武器じゃねぇんだよ!
「御客様、そう言われましても、一応、分類は武器になってますし、・・・どうしますか、いりませんか?」
俺は諦めてキャロメン嬢に俺の収納カードを差し出して、「嫌、いる、俺のカードに入れて」
キャロメン嬢は、ホッとした顔で、「有難う御座います、宜しければもう一回なさいますか?今度は良い武器が当たるかも知れませんよ。」
俺は一言、「やらん!!!」
俺達、三人は中央広場のベンチに座り、呆けていた、
最初に口を開いたのは、メリーだ、
「・・・300万Gが一瞬で溶けちゃいましたねぇ。」
俺は、下を見ながら、「ゴメン、マリー、メリー。」 謝った。
マリーはゆっくりと顔を上げて、
「謝らないで下さい、私も賛成したんだから同罪です。」
俺は、そのマリーの一言で感動して、涙目で、「マリー!」って、抱き付きそうになった時、メリーが明るく、
「まぁ、たかが300万Gだし、私達が真剣になったら、二、三ヶ月で返せるんじゃない。」
たかがってお前、300万Gだぞ!・・・待てよ・・・切り詰めて一日1万G、嫌、利子を含めて一日1万5千Gを貯金出来れば、・・・確かに何とかなるかも。
「ああああああああ!!」
うわっ、ビックリした!
マリーさんが大声を上げて立ち上がった!
「どっ、どうした!マリー!」、俺は慌ててマリーに聞いた、
彼女は、「返済期限!!」と叫びながら、急いで収納カードから300万Gの借用書を取り出した。
その借用書を見たマリーさんの手は震えていた、
彼女はゆっくりと俺の方を向いて、
「駄目です!御主人様、返済期限が一月になっています!」
えっ!一月!って早くねぇ!
待てよ! 確かに借りる時、そんな事受け付けの姉ちゃんが言ってたよなぁ、暗い声でボソボソって、
あん時は、防具が手に入るから大丈夫、大丈夫って思ってた!
ヤバくねぇ!
返せないよ!
どうなるんだ俺達!!
マリーが俺の肩を掴んで揺する、「兎に角、直ぐに『運営堂』に行って返済期限の延長をお願いしましょう!」と俺の耳元で怒鳴る、
こう言う時は、主婦のマリーさんは強い、頭が真っ白の俺は無理矢理ベンチから立ち上がらされ、俺達は商店街の西の端にある『運営堂』に向かった。
「ええーえっ、へーえぇんんさぃきぃぃぃげぇぇぇんのぇぇんちょょょぉぅでぇぇぇすぅぅかぁぁ。」
声がちいせえ!聞こえないし、なげぇぇ!
俺達は、『運営堂』の前髪をたらしたちょっと暗そうな受付嬢に借金の返済期限の延長をお願いしていた、
彼女の後ろにトラブルを警戒していつの間にか、黒い鎧に黒いアイマスクの厳つい兄ちゃんが二、三人並び始めた、
おい、おい、ヤクザの金貸しか、こぉえぇ兄ちゃん並べて脅かす気か、
此方は、ちょっと借金の返済の延長をお願いしているだけなんだよ。
黒い鎧の一人が口を開いた、「ミリーさん、俺達が対応しましょうか?」
おっ、やるって事なのか、此方は冒険者だぞ!
「だぃぃじょょうぶ、てんちょょうがぁぁ
たぃぃぉぉぅぅするからぉくにとぉぉしてぇぇトネリブァ。」
「はいっ、ミリーさん分かりやした。」
えっ、今ので分かったの?
「だじうぶ、てんちうがたするからくにとしてトネリブァ。」って聞こえたぞ!!
「じゃ、お客さん、店長のペインリブァさんがお会いになるんで、此方にどうぞ、」
黒鎧のトネリブァが俺達を店の奥の部屋に案内した、
店の奥の部屋は十帖程で、手前に応接セットがあり、その奥の窓側に一間位のマホガニーのような事務机で一人の年齢不詳の女性が事務をしていた、
逆光で良く分からないが、ちょっとハムスターに似ている、美人と言うより可愛い娘ちゃん系のようだ、彼女が此方の方に顔を向けて、
「どうしょ、そこにおかけになってくたしゃぃ、レイしゃん。」
ううん、それに舌ったらずだ。
此の店、店員も、店長も個性的だ、経営者の趣味か?
俺達はソファに座り、対面に店長が座った、その後ろにボディガードなのか、黒鎧のトネリブァが両手を後ろで組んで立っている。
「私は、店長のペインリブァでしゅ、お話しをお伺いしましょぅ、レイしゃん。」
俺達は、事の次第を店長のペインリブァさんに話した、
「そうでしゅか、それはお気の毒でしゅ、レイさん。」
俺は前に乗り出し、「じゃ、借金、待ってもらえるんですね!」
「それは、出来ましぇん!」
店長の無情の一言で、俺はガックリして、体をソファにもどした、
店長のペインリブァは腕組みをして、渋い表情で、
「契約は契約でしゅ、そう簡単に反故には出来ましぇん!」
と冷たく俺達に言い放った。
「・・・そうですか。」
俺は項垂れて、借金を返すためにまた何処かで借金をするしかないのかぁ、と考え始めた時、
そんな俺達の様子を見たペインリブァは、ニコリと微笑んで、
「うちも、鬼じゃないでしゅ、条件によっては返済を待っても良いでしゅ。」
俺達三人は同時に、「条件!?」
店長のペインリブァは営業スマイルで、
「実はうちはでしゅねぇ、資金が必要な冒険者様に御資金を低金利で御融資している以外に、その他いろんな事を幅広く商いしているでしゅ。」
俺達三人は同時に、「はぁ?」
ペインリブァは更に優しい微笑みで、「この度、神殿様から大量に武器、防具の強化の仕事を頂いたでしゅう。」
俺達三人は同時に、「へぇぇ、」
「何とか錬金術師の手配が付いたのでしゅが、強化の素材の『渦霊の宝石』が足りないんでしゅよ、原因は中堅冒険者がこぞって新大陸に行っちゃったからでしゅ。」
確かに、サルザックが言ってた、皆、セシルアさんに会いに新大陸に行くって、
「其処で相談なんでしゅけど、レイしゃん、『渦霊の宝石』を採って来てくれたら返済期限の延長、もしくは返済そのものをチャラにしても良いでしゅよ。」
えっ!そんな事で返済をチャラにして貰えるの!条件良くねぇ!!
俺が承諾の返事をしようとしたら、マリーが俺の前に右手を差し出し、俺が話すのを止めた、
マリーはペインリブァを鋭い瞳で見た後、
「話が旨すぎます、何か条件が有りますか?」
とペインリブァさんに尋ね、ペインリブァはやれやれって感じで首を振りながら、
「流石、レイしゃんの奥様でしゅ。」
「おっ、おっ、奥様!」、マリーが真っ赤になった、可愛いい。
ペインリブァは身を乗り出し、「強化した武器、防具を神殿に納める納期があるでしゅ、納期は二ヶ月後、その間に必要な『渦霊の宝石』は二万個でしゅ!」
俺達三人は驚いた!「二万個!!」
「何もレイしゃんに、二万用意してと言わないでしゅ、貸した御資金分、一日、二百個納品で、六千個でどうでしゅか。」
俺達三人は再び驚いた、「一日二百個の六千個!」
彼女は俺達の前に契約書を差し出した、
手際よすぎじゃねぇ?
確かに、『渦霊の宝石』はバザーでは確か500G前後だ、500✖6000は300万G、俺達にとっては得でも損でもない。
マリーは考えながら、「二万個も宝石が必要ならバザーからの買い取りもある分けでしょ、だから『渦霊の宝石』がバザーで値上がりした時、私達は集めた宝石を貴方じゃ無くバザーで二倍から三倍で売れば借金は直ぐに返せるんじゃないかしら。」と反論し、
ペインリブァは笑いながら、「たぶんそれは無理でしゅ、二万個のうち、今月分は既に市場から調達しているでしゅ、宝石の値段が上がるのは来月の分からでしゅね、逆に今月は宝石を必要とする中堅冒険者がいないでしゅから、相場は下がるはずでしゅ。」
おいおい、全て折り込み済みってか。
ペインリブァさんはマリーとメリーを見ながら、
「それに、噂ではレイしゃんの奥方二人は高位の冒険者に匹敵する実力者だと聞いてるでしゅ、貴女方なら一日、二百個は軽いんじゃないんでしゅかねぇ。」
二人は同時に真っ赤な顔して、「奥方!」
メリーが嬉しそうに、「確かに、あたしらなら一日、二百個は軽いよ。」
マリーも照れながら、「そっ、そうね、やって出来ない数字じゃないわね。」
おっ、おぃ、君達、ちょっとチョロク無いか?
まぁ、どっちみちラストニアじゃ、一ヶ月で300万Gは稼げ無いし。
やるっきゃないかぁ、
ペインリブァさんは、もう決まったね、って顔で、
「さぁ、どうします、レイしゃん。」
俺は諦めて、「二人はがオッケーなら、俺も賛成だ。」
ペインリブァさんは満面の笑みで、
「契約成立でしゅねぇ、レイしゃん。」と言った。
俺は契約書にサインをし、その後ペインリブァさんと握手をした。
彼女は、「有難うございましゅ、レイしゃん、明日から宜しくでしゅねぇ、『ハイドル霊廟』には此のトネリブァがいるので、彼に『渦霊の宝石』を二百個渡してくだしゃいねぇ」
俺は頷きながら、「ああ、分かった」
借金の問題も片付いたので、俺達は転移で自宅に戻る事にした。
転移で薄れて行く『運営堂』から、二人の声が聞こえる、
『すげぇですねぇ、姉さんもミリーさんもまるで役者だ、あんなぶりっ娘に文句言えねえぇよなぁ。』
『トネ!ばか言ってねえで、次のカモ連れてこい!』
『へい!』
えっ!俺達、カモなの!
カモだったの!
こうして、俺達は某漫画、『賭博破戒録○○ジ』のように、
長く、暗く、辛い、地下生活が始まった。