俺、冒険者組合に行く
この、ラストニアに来た俺は、神殿にある冒険者組合に来ていた。
さっそく中に入ると、ホールの正面には二階に続く階段と宿場の受付カウンター、左側には組合の受付カウンターがあった。
さすがに、受付カウンターには、二人ではなく五人はいた。
いたよいた、ゲームでたいへんお世話になった、シーボルトの旦那が、見れば一目で分かる。そっくりだ。
俺は、シーボルトに似ている、彼に気軽に声を掛けた。
「よう。」
「なんだ、ずいぶん気安いな!・・・おまえは、ウォーリア希望の冒険者志願か?」
「? なんで分かる」
「おまえの格好だ! ウォーリア志願者は、おまえのように、パンツ一丁になりたがる。違うのか?」
なるほど、だから、パンツ一丁でもあまり周りは気にしなかったのか。
ウォーリアは、D&Dの九つあるジョブの一つで、受けたダメージを、攻撃力に変換すると言う、もっともマゾなジョブだ。
武器は大剣で、重量制限のあるこのゲームでは、破壊力のある大剣はかなりの重量があるため、その分防具を犠牲にする。確かに、パンツ一丁のキャラで闘うゲーマーもいたな。
「残念だな。俺は、ファイター志望だ。」
痛いのは、基本嫌いだからね、俺は。
「バカ野郎、だったら早く服着ろ!」
「悪い、服買う金、ないんだ。」
シーボルトは、呆れ顔で俺に言った。
「お前も、食い積め者の冒険者志願か?」
「まあ、そんなもんだ。」
彼は、やれやれと手を振りながら、
「いいか、仕事だから説明するが、冒険者は誰でも成れる者じゃない。」
「まず犯罪者はだめだ、次に白龍様を信じていない者、つまり、異教徒もだめだ。」
「最後に、白龍様に逆らいし一族、反逆者もだめだ。彼等は、白龍様の加護が受けれない、つまり普通の人間では魔物と戦えない、だから、冒険者にはなれない。」
きたよ、きたきた、白龍の加護、カスタムスキルとアビリティだ、ゲームにあった設定通りだ。
そして、俺には、すでにスキルとアビリティがある、なんとなく分かる!
理由は分からん。
「大丈夫、問題ない。」
「おいおい、その自信はどっからくるんだ、まあいい、このカードを持って、名前を言え。」
「そのカードは?」
「これは、メルコダの錬金術師が作った、白龍の加護を取り込み、所有者と加護を繋げるカードだ、だから、加護の適性のない者は、カードが反応しない。」
聞いたか、メルコダだよ。またもやゲームと同じだ。いっか行ってみたいもんだ。
さて、名前だ、俺は生まれ変わったんだから、名前も変えたいと思った。
俺は、カードを持って名前を言った。
「レイ ハリー ハウゼン」
そう、俺達の世代では有名な、クレイアニメで多くのモンスターを創造した、特撮の神様の名前だ。
もちろん、カードは光って、俺の名前を書き込んだ。
「冒険者の素質はあるようだな、名前はレイでいいのか?」
「ああ、であんたは?」
「アースボルトだ。」
シー、海ではなく、大地、アースかよ。
「確かに、冒険者の資格はあるようだな、この後、神殿に行って、白龍様からジョブを授かって来い。
ちょうど、今は白龍祭の最中だから、奥の殿が開放されている、今なら白龍様に会えるぞ。運がいいな」
「白龍祭?」
「なんだ? 白龍祭を知らないのか?いったい何処の田舎者だよ。
いいか、白龍祭は、白龍様が一年に一回、降臨される祝いだ!」
「なるほど、だから、こんなに大勢の人がいるのか。」
「今日から、一週間後に白龍様が神殿に降臨されて、巫女様を通じ、俺達に祝福の詞を述べる、その御言葉を聴きたくて、たくさんの信者が、この神殿に集まって来ている。」
巫女、巫女ちゃんだよ!、ゲーム序盤で死んじゃう、悲劇のヒローイン来たァァァ!
まあ、俺には関係無い人だけどね。
「どうした、ずいぶん嬉しそうだな。巫女様のファンか? まあいい、続けるぞ。このカードの説明だ、このカードは白龍様の加護により、霊力の空間を作る。
空間は、4つに仕切られ、薬や食料等の消耗品を収納する区画、
魔物の部位や鉱石等の素材を収納する区画、
装備品等を収納する区画、
矢等、ジョブ固有の物を収納する区画の四区画で出来ている。
魔物を討伐すると、魔物は素材を落とす、カードは自動で、素材を素材区間に収納する。
お前は、商店街のバザー等でそれを売れ、その売上の二割が組合の手数料だ。
いいな!」
二割! 手数料、高けぇ! ゲームより高いじゃんか、これが、現実と言うものか!
俺は、呆れたね。
「なんだ、不服か? こっちもいろいろと、金がかるんでね、言っとくが不正は無理だぞ、金をカードに入れないと、素材は出ない、金を入れた時点で手数料は引かれる。」
「ずいぶん、しっかりしてるな。」
「当然だ、一応、何か収納すると、何を収納したかは霊力が教えてくれる。」
「あと、収納量は霊力に依存する、収納量を上げたいなら、霊力を上げろ。」
「次に、霊力の上げ方だが、魔物を討伐すると、素材以外に、魔素とルーンを落とす、それもカードが収納するから、魔素は白龍様に捧げろ、お前の霊力を強くしてくれる。」
「ルーンは、各地にある礎を移動するのに使う、移動できるのは、カードに登録された礎だけだ、今のお前のカードには礎は登録されていない、だから今は、移動は出来ない。」
「あとこれも言っとくが、いくら白龍様の加護があっても冒険者は不死ではない、死んだら死体は、カードに収納され、拠点の組合にカードだけが戻る、カードの中の死体は、お前の身内に引き渡すか、こちらで埋葬する。」
このカード便利すぎ! 俺は感心したね。
「すごいカードだな、で、このカードを無くしたら、再発行に幾らかかるんだ。」
「? カードはお前の霊力と結ばれているから、紛失等はしないぞ。試しに戻れと思ってみろ。」
おっと、手にカードが飛び込んで来た。
「納得したか、あと、そのカードがあれば、外のボードに貼ってある民間の依頼も受けられる。」
「依頼表にカードを当てろ、受理したらカードに登録される、依頼が終了したと、カードが判断したら、依頼料がカードに入る。」
「納品依頼はボードの横にある納品箱にカードを差し込め、箱が自動で受け取り、依頼料が支払われる。」
「それらも、手数料を取るのか?」
「当たりまえだ、但し、掲示されている依頼料は、すでに手数料を引いた金額だ。」
「最後に忠告だ、ジョブが決まったら、この通りの奥にある、『仲間酒場』に行って、仲間を見つけろ、いいな、絶対一人で行動するな、死ぬぞ!」
アースボルトは、厳しい顔で俺に言った。
「ご忠告ありがとな。」
俺は、カードをヒラヒラさせながら、彼に言って、組合を後にした。
残念だが、俺は生粋のボッチでソロプレイヤーだ、仲間を作る気はない。
とりあえず神殿だ、俺は、たぶん、九つある全てのジョブが使えると思う、これも感だ。
だが、神殿は気になる。この世界の白龍さんの顔をまず拝まなくちゃね。
俺は、宿場街から礎の広場に戻り、右側にある中央広場を抜けて、神殿の階段から、神殿の奥の殿に向かった。
確かに、多くの人が、白龍様を参拝していた。
だが、驚いた事に、ゲームでは生きていた白龍様も、ここでは、白骨死体だ!
まぁ、当然だわな、生きた龍が現実にいたら食料とか、大問題だし。
よく見ると、白骨の中央で薄青く光っているような気がする。
「おやおや、御仁は、白龍様が見えるようにお見受けするが、違うかのう」
おっと、後ろから驚かすなよ、誰だって、ジョセップのじいさんかよ!
このじいさんはゲームの中では、高難度の依頼をプレイヤーに出すが、たいへんなクエストの割には報酬が少ないという、疫病神的なキャラのはずだったが。
「これはこれは、驚かしてすまないのう、わしはここで司祭長をしている、ジョセッぺというものじゃ。」
プがぺになってる!
「ところで、「お断りします。」、えっ、いや、わしは、御仁にもっと白龍様の近くで参拝を、お勧めしようかと、」
「すんません、いや、何時ものクソクエストかと、」
「はて、クエスト?」
「気にしないでください。わたしの妄想ですから、妄想? 妄想って!」
妄想? ヤバイヤバイ、ここはゲームとは違う、現実だよな!
考えろ、考えろ、白龍は死んでいる、アースボルトも、人は死ぬと言った。この世界は、俺が作った妄想だよな! それとも、死が隣り合わせの現実なのか?
そうだ、俺は、ここで初めて、この世界に疑問を感じた。
もし、ここが現実なら、いったい何故、俺はここにいるんだ?俺の存在意義とは何なんだ!
『・・・魔 素 ・・・ サ サ ゲ ヨ ・・・』
聞こえた、確かに!
「白龍の声か?・・・生きているとか、まさかねぇ?」