俺、戦場に立つ
ハイドル平原の北の大橋を、十万のオークは渡り終えて、ハイドル平原は緑の絨毯で被いつくされた。
一際、大きな御輿の上には、四メートルを越える巨大なオークが座っていた、奴が、皇帝ドルゾック!両側には、十メーターを越える巨大竜ベヘモットが二体、その後を、三十体のサイクロブス!
奴は、あいつらを神殿にぶつける気か?
「司祭長!」
レオが、呻いた!
「大丈夫じゃ、レオ殿、ベヘモットごとき、百体現れようとも、白龍様の神殿結界は壊れん!」
全員が、安心した瞬間、それは起こった!
オーク達は、千体のゴブリンを二つのグループに分け、それぞれを五十体のオークが取り囲んだ!
彼等の手には、黄金の鉈が握られていた。
「あれは!!!」「ディアマンド!!」
ジョセッペとレオが同時に叫んだ!
「『龍殺しの鉈』、錬金術師のディアマンドが関わっているなら、全てが納得できる!大体、たかが樽爆弾ごときで、礎が破壊された事に、儂は、おかしいと思っていたのじゃ!!」
ジョセッペのじいさんが悔しげに言った、じじい、後からなら何でも言えるんだぞ、これ忠告な。
「しかし、あいつは、私がこの手ではっきりと殺した!!!」
レオが、怒った表情で、手を握りしめながら、叫んだ。
そうだ、ゲームでも変な錬金術師が出た。
彼と、レオことケイの因縁は、彼の恋人なのか、じゃないのか、ふったか、フラれたのか、ようは、良く分からない関係の、ハンターさんが、その錬金術師に、殺されたのか、どうなのか?
これまた、良く分からない、復讐劇だったような。
「レオ、そいつは、君の恋人のハンターを、殺した相手か?」
俺は、彼に気を使いながら、さりげなく聞いた。
レオは、何に言ってんだこいつ、って顔して、
「エリザの事か?彼女は元気に新大陸を冒険しているが、彼女が何か?」
やっちゃった!だよねぇ!ゲームじゃあるまいし、無いわなぁ。
マリーさんが慌てて、「すみません!ご主人様は、とんでもない世間知らずなんです!」
ひたすら、謝っています。
ごめんなさい、マリーさん。
マリーさんが、俺に、反逆の錬金術師ディアマンドのことを説明してくれた。
要約すると、一人の錬金術師が、己の研究欲の為に、何十人もの人を、殺害した結果、同族殺しは認めない白龍様により、彼は、犯罪者であり、反逆者であり、更に、魔物へと落とされた。
その事に逆恨みした、その錬金術師が、一本の鉈を持って、神殿に「白龍を殺す!」と言いながら、乗り込んできたが、レオに返り討ちにあって、死んだ。
なんだかなぁ、スゲェ小物臭漂うお話し、でも、ラストニアでは有名な話しで、誰もが知っているそうだ、これじゃ、ゲームストーリーには採用されんわな。
俺が、マリーさんの話しを聞いているうちに、黄金の鉈を持ったオーク達が、その鉈をゴブリンの首に打ち下ろした!
わぁ!魔物が魔物を殺しているよ!
首を跳ねられた、ゴブリン達は、黒いチリとなり、黄金の鉈に吸収され続けた!
「あれは、何してんだ!俺には、オークがゴブリンを殺しているように見えるが?」
俺は、ジョセッペのじいさんに尋ねた。
「その通りじゃ!オーク共がゴブリンを殺している、本来、魔物は、魔物を殺せないはずじゃが、あの『龍殺しの鉈』はそれを可能にしているようじゃのう、それに、あの鉈は魔素まで吸収しているように見えるが、いったい、ディアマンドは、何処にいて、何をする気じゃ!」
五百体のゴブリンが消滅した時、五十本の鉈は、全て黒くなった。
オークの皇帝ドルゾックは、御輿よりゆっくりと立ち上がって、大地の一点を指差した。
そして、皇帝ドルゾックが差したその一点に、黒い鉈を持ったオーク達が、次々と黒い鉈を打ち込んだ!
鉈が打ち込まれた大地は、少しずつ隆起し、打ち込まれるたびに、光り輝き、隆起はやがて、三メーターの黄金の礎になった!
「あれは、錬金術!そうか!!奴が、皇帝ドルゾックが、ディアマンドじゃ!!!」
えぇぇぇぇ!!まさかの小物が、あの大物なの!!!
転生ってこと、俺以外にもいたの!
もう一方の黄金の鉈を持ったオーク達が、残りのゴブリンの首を跳ね始め、
そのゴブリンの魔素は、今度は鉈ではなく、黄金の礎に吸収され始めた。
五百体のゴブリンの魔素が、完全に礎に吸収された時、神殿中にガラスの割れるような音が、響き渡った!!
ジョセッペじいさんが怒鳴る!
「いかん、結界が一枚破壊された!あれは『破龍の礎』だ!!奴め、完成させおったのか!!!」
奴らは、更に、ゴブリンの首を跳ね続けた!
神殿勇者レオが大声で指示を出す!
「騎士団!出撃準備!!転移で出る、場所は、平原北の辺境の礎!!!」
すかさず、俺のほうを向いて、
「レイ、行こう!我らの出番だ!!共に世界を救おう!!!」
イケメンスマイルで言われてもなぁ、
マリーさんが、俺の腕を取りながら、
「ご主人様、行きましょう!」、
行こうかぁ、マリーさん。
騎士団と俺達は、神殿の礎から、帰還の出来ない移動専用の小型の礎、ハイドル平原北側にある辺境の礎に転移した。
騎士団の構成は、シールドセージが百人、遊撃にファイターが五十人、牽制にハンター、ソーサラー共に三十人、後衛にプリーストが十人、合計二百二十人。
十万の軍団にたいしては、米粒のような数字だ、しかし、彼等はあくまで俺の護衛、神殿は、俺に賭けた!
ならば、俺もやる!約束は絶体守る、それがトップセールスマンだ、セールとは信頼が命!!
川を挟んだ、対岸のオークの皇帝ドルゾックは、こちらをチラリと見て、クィっと顎を動かした、オークの軍団長が、
「ウォォォォォ!!ヤレェェェェ!!」 と叫んだ!
戦いは、始まった!