4月 三話
白崎:エミーリアにスポットライト
エミーリア(ナレーターに扮する)「むかし、むかしあるところに羊飼いの男の子がいた。その子はたいそう賢く、とても有名人だった。国王はそのうわさを耳にしたが、信用しなかった。そこで男の子を呼び出してこう言ったのだ」
白崎:全体照明
エミーリア(王様役)「これから出す3つの問に答えてみよ。うまくできればわが子とみなしてそばに置き、王家の城に住まわしてやろう」
羽島(男の子役)「その3つの問いというのは、どういうものですか」
「はじめの問いは、世界の大海の中に水は何滴あるか、というものだ」
「王様、わたしがまだ数え切れないうちに、川から海へ水が一滴も流れ込まないようにしてください。地球の上にある川という川を全部とめていただきたいのです。そうしたら、海の中に水が何滴あるか、お答えします」
「ふたつめの問いは、空に星がいくつあるか、というものだ」
男の子は白い紙を一枚くださいと言った。
紙を貰うと、男の子はペンで小さな点を打ちまくった。よく見ることも数えることもできないほどの多くの点が紙の上に散らばっていて、無理に見つめると目がかすんでいきそうであった。
「空にはこの紙のうえの点と同じだけの数があります。さぁ、数えてください」
誰もそんなことができるはずはなかった。
「みっつめの問いは、永遠というのは何秒あるのかというものだ」
「ポンメルン地方の奥まったところにダイヤモンドの山がありますが、この山の高さは一時間の道のり、幅も一時間の道のり、奥行きも一時間の道のりです。この山へ百年に一度ずつ小鳥が飛んできてくちばしをダイヤモンドで研ぎます。こうして山が研ぎへらされていき、すっかりなくなったときに、永遠の最初の一秒が過ぎ去ったことになります」
「お前は問いを三つともといた。まるで賢者のようにな。これからは私のところに住み、王家の城で暮らすがよい。おまえをわたしの子とみなそう」
注)
ポンメルン:バルト海の南に広がる地域。オーデル川を挟んで、その西側は平地だが、東側には二〇〇ー三〇〇メートルの山地がある。
参照:KHM152 羊飼いの男の子
エミーリア「ここで、この話は終わるのだが、これには類話が世界中にある。日本で言えば一休さんのとんち話とか。これは多くの物語のアーキタイプといえるのかもしれない。私はそんな世界の物語を研究したいと考えている。私は子どもの頃から物語が大好きで、慣れ親しんできたんじゃ。私の知らない物語、とても興味がある。一つ一つの物語を分析していきたいのじゃよ。例えばね今回の羊飼いの男の子の話ならこんな考え方もできる。西洋では私たちの想像するよりも、羊というのは重宝されていたんじゃよ。歴史的に考えても、牛や豚よりもずっと前から飼育されていたし、現在でも牛の次に飼育数が多いんじゃ。かつて、西洋に東洋の製紙術が伝わる前には羊の革で作った羊皮紙を使ってたんじゃよ。繊維においてもね、羊毛綿を使っていたりね。つまり、王様は羊飼いの男の子を自分の子どもにして何をしたかったのか? それは、ここではあかさないけどもねっ。いやーこんな短い話でも、色々考えられておもしろけん」
羽島「ちょっと、部長話が長すぎですー。次は、僕の顔を上演しま-すっ」
次回 羽島の私の顔