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腐った女子、己が死に場所を見つける

前話のあらすじ「お化け屋敷見学」


関係ないですが、宇宙に存在する原子の数は1,547×10の79乗らしいですね。豆知識

 背後にいた男子生徒はビアーシュと名乗った。背がひょろ高い優しそうな顔の青年(青線で二重チェック)である。メガネがあれば完璧だった、とカタリナは思う。そうだ、術具製作学部にはいったら真っ先に眼鏡を作ってこの人につけさせよう、そう固く決意する。


 大声を出して大恥をかいた二人を見事にスルーして、ビアーシュは優しい口調、というか炭酸の抜けたサイダーみたいな気の抜けた口調で話しかけてきた。


「ええと、君たちは製作部に用事、なのかな? それとも迷子でこんなとこに来ちゃったの?」


「い、いいえ。私は製作部に入りたくて来たのですわ。あなたは製作部の関係者ですか?」


 そうカタリナが答えると、ビアーシュは顔のパーツを全部線にして喜んだ。なんともわかりやすい。


「うわ、もしかして仮入部希望者なのかな。嬉しいなー。ほら、入って入って。案内するよ」


 そう言うとビアーシュは建付けの悪そうな両開きの扉を半分開けて二人を案内した。中は薄暗かったが、蜘蛛の巣だらけとかそういうことはなさそうだった。ちょっと荷物がごちゃごちゃしてるのが気になる。


「し、失礼します……アイリス様は戻られてもいいですわよ」


「いいえ、大丈夫です。失礼します……」


 カタリナとアイリスは意を決して廃屋の中に入った。アイリスとはしっかり手を握り合っている。お互いきょろきょろとはしたなく周囲を見回してしまう。


 中は、壮絶だった。どっ散らかっている。外から見たらちょっとした倉庫くらいの大きさがあるはずなのに、中は大量の荷物に埋もれていてやたら狭く感じた。何かよくわからない機械や山積みになった木箱などが色々なところに散在していて、ちょっとした迷路のようになっている。両開きの扉の開けなかった方にも荷物が積み上げられていた。なるほど、窓から部屋の中が見えなかったのは、そこら中によくわからない物が置いてあるからかと納得する。まるで前世の薄い本が積み重なった自室みたいだ、とカタリナはなぜか懐かしさを覚えていた。


 地震が起きたら確実に埋もれ死ぬであろう荷物の山脈の合間に、獣道のような細い通路ができていてそこを通ってカタリナとアイリスは中へ入る。ちょっとした冒険のようだ。人ひとりがようやく通れる隙間を超えると、机や棚や実験器具が並んだ、いかにも人間の住処のような場所にたどり着く。どうやらここがメインの活動場所なのだろう。先についていたビアーシュと、もう一人別の男子生徒がこちらに背を向けて木箱のベットの上で横になっていた。


「ごめんね、散らかっていて。さあ、椅子に座って。歓迎するよ」


 ビアーシュに勧められた席はどう見てもただの木箱だったが、もうここまで酷い状況を見た後だと何も動揺はなかった。カタリナとアイリスは木箱に座る。そして物珍しげに周囲のガラクタの山を見回しながら、アイリスがおずおずと声を出す。


「何と言いますか……とても独創的なお部屋ですね」


「あはは、どうしてもこう散らかっちゃうんだ。ごめんね。ほら、メッシ、起きて。仮入部の子が来てくれたよ」


 そう謝りながらビアーシュは背中を向けている男子生徒の肩を揺さぶった。私たちに気にせずおはようのキスをしてもいいのよ、とカタリナは強く念じたがもちろんそんなことは起こらず、メッシと呼ばれた男子生徒は起き上がった。


「んあ……新入生? どこから拉致してきたんだビッシュ。うちに仮入部なんて来るはずないだろう」


「いや、僕も最初はそう思ったんだけど、本当みたいだよ。えっと、こいつはメイサンって言って、僕の昔からの友達さ。顔と性格と態度は悪いけど、それほど悪い奴じゃないよ、たぶん」


 そう相変わらずへらへらしながらビアーシュは紹介した。メイサンと呼ばれた男子学生ははっきり言って根暗な感じだった。こげ茶色の髪の毛が目元まで覆っていて、覗くような視線がこちらを見ている。パッと見は不気味だしアイリスもドン引きしているようだが、カタリナアイ(男性の特徴を素早く見抜く特殊技能付き、カタリナカメラと連動している。特許不申請)は、この男子学生はかなり整った顔立ちをしていることを的確に見抜いていた。よくある「髪の毛をあげるとイケメン」キャラである。太めの赤線でチェックをしておく。


 しかもカタリナメモ帳(脳内にあるBL関連の情報のみ素早く記録、整理、保存が効く高性能情報端末、情報の検索や解析もノータイムで行える。特許不申請)がビアーシュの言葉に反応していた。昔からの友達。つまり幼馴染。ファリア兄様とベルジェ以外の腐れ縁コンビである。しかも青線(ビアーシュ)赤線(メイサン)のコンビである。これほど美味しい組み合わせはない。カタリナは鼻血が出ないように少し顔を上に向けた。


「私はカタリナと申します。以後”色々と”よろしくお願いいたしますわ」


「アイリスと申します。よろしくお願いします……」


「……俺はメイサンという。覚えなくていい」


 興奮を抑えようと必死なカタリナと、物々しい雰囲気に気圧されてるアイリスは無難な挨拶を交わした。

それを見てニヘラと笑いながらビアーシュは横から話に入ってくる。


「本当はもう一人学部生がいるんだけどね。たぶんもうすぐ来ると思う。僕たちは4年生でその子は2年生だから、たぶん僕たちより話が合うと思うよ。それにしても仮入部に来てくれてありがとう。歓迎するよ」


 嬉しそうに無防備な笑顔を向けてくるビアーシュを眺めながら、カタリナは「あれ?」と違和感に気付いた。すぐにその理由に気付いて訂正する。


「あの、ビアーシュ様。私は仮入部ではないのです。製作部に入部したくて来たのですが……」


「え、本当かいそれ? うわ、すごい嬉しい! ありがとう!!」


 本気で嬉しそうなビアーシュが思わずカタリナのところへ来てその両手を握る。本来、貴族同士でこういった触れ合いは厳禁なのだが、ビアーシュのあまりの喜びようにカタリナは思わず何も言えなかった。さすがに自分の無礼に気付いたのか、すぐ手を放すビアーシュ。でもその顔はにこやかなままだった。


「ああ、ごめんねつい思わず。でも本当良かった。まさか入部してくれる人がいるなんて思ってもなかったからさ。しかも二人も! メッシ、これでなんとかなりそうだよ!」


「……ああ、まあそうだな。別に俺は活動停止になろうが関係なく動くつもりだったがな。場所の確保が面倒だったからちょうどいい」


 全身で喜びを表現するビアーシュと、暗そうな表情で皮肉めいたことを言っているが、なんとなく内心では嬉しそうなメイサン。ビアーシュが馴れ馴れしくメイサンの肩を叩く場面を見て、表情は一切動かさずにすかさずカタリナカメラ(男性同士の絡み合いのみ3次元で撮影データを記録できるカメラ、記録可能枚数は10の79乗。特許不申請)を構えた。


 ……そうだ、そのまま抱き合え! 私たちには気にしないでいいから抱き合うんだ!


 二人が抱き合うところまでは行かなかったので残念に思っていると、外からなにやら足音が聞こえてきた。話し声も聞こえる。ビアーシュも気付いたらしく、にこやかに言った。


「ああ、先生とロアン君が来たかな。これで全員そろうよ。ちょっと待ってね」


 そう言うとビアーシュは荷物の山を潜り抜けて外へ出迎えに行ったようだ。しばらくすると三人分の話し声がガラクタの山から聞こえてくる。


「え、本当に入部希望者が来たんですか! やったじゃないですか! ビアーシュ先輩、先生、これで問題解決ですよ!」


「ああ、そうだな。一安心だ。できれば魔力のある子だったらいいんだけど、贅沢は言えないな」


「あはは、しかも可愛い女の子だよ。仲良くしてあげようね。あ、カタリナさんにアイリスさん。こちらが後輩のロアン君と担任のファイラル先生だよ」


 ビアーシュが紹介した二人は軽く頭を下げた。お互い軽く自己紹介をしながらカタリナアイを作動させる。


 ロアン君と言われた男子生徒は金髪の可愛い男の子だった。カタリナより一つ上の2年生とのことだったが、なんとなく纏っているオーラが年下の感じがする。目を輝かせながら応対するその立ち居振る舞いから、なんとなく子犬のようにも見える。青線と赤線でチェックする。


 そしてファイラル先生は、まさか始業式のとき目をつけていたダンディなおじ様教師だった。間違いなく体育会系だと思っていたのに、まさか地味な製作部の担任だとは思わなかった。灰色の髪とお髭から覗く視線はとても優しく、カタリナは迷わず黄色(お気に入り男性キャラにのみ使用する伝説の色)でチェックした。


 カタリナは揃った製作部の面々を見回す。新入部員が入ったことを喜ぶ彼らを眺めながら、まるで新しい実験素材を見つけたマッドサイエンティスとのような冷静かつ情熱の籠った目でカタリナは彼らを見回した。ひょろくて優しさ全開の部長と根暗毒舌幼馴染、子犬のようなショタキャラとダンディおじ様。カタリナメモ帳の中で雷光のようにありとあらゆる掛け算が縦横無尽に走り廻った。


 ……やばい、ここは天国や。わしはきっとここに来るために転生したんや……。


 カタリナは表面上はにこやかな笑顔を維持しながら、内心は血走った眼でガッツポーズを繰り返していた。

次話「よくある廃部の危機」


 次話から隔日更新にしたいと思います。更新時刻は20時を予定しています。よろしくお願いしますm(_ _)m

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