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腐った女子、学園へ行く

前話のあらすじ「転生したら腐属性魔法が使えるようになった」

 腐属性魔法に気付いたのはかなり早い段階だった。


 カタリナは小さい頃、両親からもらった小鳥を飼っており、結構可愛いかったので大切にしていたのだが、あるとき小鳥は病気にかかってしまった。あまりにも苦しそうなその姿が哀れになって、両親にどうすればいいか聞いたところ、「治癒魔法の基本は自分の魔力を相手の体に流すことだ」ということを教えてもらい、喜び勇んで、当時はまだ量も少なく操作も下手だった魔力を小鳥に与えてみたのだった。


 結果は、まあ、聞かないでおくれ。思わず窓の外へ投げ捨ててしまったけど、気持ちが落ち着いてからちゃんと回収して埋葬したから許してください。


 幼い頃からまともな魔法が使えなかったカタリナは、自分がものすごく特殊な魔法だけしか使えないのではないか、ということに気付いて、人目のつかないところでいろいろ実験したのである。その結果判明したのが、自分の使う魔法は「腐」属性魔法だということだ。なるほど、愛鳥に魔力を込めたらそりゃとんでもないことになるはずだ。あの時のビチャッという生々しい感覚はいまだに手に残っている。


 ……神様には会ったことがないけれど、絶対性悪だと思います。腐女子に腐属性魔法とか!


 ご丁寧に他の属性の魔法は魔道具を使ってもろくに使うことができない。魔力はそこそこあるが、あくまで貴族としては一般レベル。そして肝心の腐属性魔法は、相手を殺傷する能力は高いけれど使い勝手がすこぶる悪い。カタリナは異世界に転生して魔法で大活躍するという夢を早々に諦めて、比較的堅実な魔法学校入学からの魔道具職人になるという将来展望のため、毎日必死に勉強を頑張ってきた。


 日本に比べて娯楽の少ない世界だったが、カタリナにとっては大量の娯楽(妄想)があったため苦にならず、魔法学院に入学できる12歳まで平々凡々と生きてきたのだった。




…………




「やあ、久しぶりカタリナ。元気してた?」


「お久しぶりです、ベルジェ様。今日から先輩ですね、よろしくお願いします」


「はは、カタリナに先輩って呼ばれるとちょっと照れるな」


 そういって赤色の髪をボリボリかいて、ファリア兄様の幼馴染の友人であるベルジェ・フォン・グレイグが答えた。


 学院が忙しく久しぶりにあったベルジェは、背格好はだいぶ逞しくなって格好よくなっていた。だけど、昔から変わらないヤンチャな風貌は変わらなかった。


 ベルジュはグレイグ男爵家の長男で正式な跡継ぎだ。そして一番家が近くて爵位も同じアルブライド家とは家族ぐるみの付き合いである。当然のようにファリア兄様と仲良くなり、そのついでにカタリナとも仲良くなった。


 そして当然のように、長年カタリナの妄想の餌食になっている。兄様もベルジェと一緒くたにされることで被害者になっている。本人たちは知らないところで、もう、そういうあれこれはカタリナの脳内で一通り試されている。


「……お前んとこの妹はお世辞抜き可愛いと思うんだけど、なんでたまに目がこっち向きながらどこも見てないんだろ……」


「……それに関しては長年の謎だ。まあ実害はないから気にしても仕方ないし……」


 ……ああ、そんな二人で顔寄せあって囁きあっちゃダメよ! またご飯が進んじゃうじゃないか! ふぅ……。


 まさか腐った妄想の餌食にされているとは知らず、兄二人が荷車に荷物を載せ始める。貴族とは言え男爵家なんて爵位の低い家だと、こういう力仕事は当人たちでやるものだ。いつものことなのでカタリナも自分から動いて、軽い荷物だけは手伝った。


 荷物の積み込みが終わると、三人は馬車に乗り込んだ。ベルジェがカタリナに手を差し伸べてくれる。見た目はやんちゃ坊主なのにこういうとこは紳士なので好感がもてる。なにせ、この手の紳士キャラはどっちでもいける(リバ可能)からだ。


「じゃあやっぱりカタリナは製作部に入るんだね?」


「はい、兄様。本当は内務に関しても興味があったのですが、男爵家出身で魔法も使えないとなると、魔道具作成に従事するのが妥当かと思いまして」


「そうだね。カタリナは頭がいいし、きっと良い技術士になれるよ」


「そうだなー。オレも正規軍に入れたらカタリナに剣とかの整備してほしいな」


 ベルジェがそう言いカラカラと笑った。カタリナは気づかれないようにため息をついた。


 魔道具を作る技師というのは、魔法を使えない者でもなれる数少ない職の一つだ。内政担当の政務官や財務官なども魔法を使えなくてもなれるが、実際は暗殺やら何やらの警戒をしなければならない場面も多く、また特殊な魔道具を使った通信や操作なんかも必要になるため、魔術が一切使えないとかなり不利になる。知識があるだけでは務まらないのだ。その点、魔道具作成は魔術回路を描いて物の形を作り、魔力を流すだけなのでモノが作れるので、魔術を使えない者でもなんとかなることができる。格別に優秀な技師は宮廷に呼ばれるほどのものなのだが、問題は誰でもなれるところにあった。


 誰でも務まる仕事だからこそ、技師は蔑まれやすいのだ。


 その上カタリナは魔法が使えないということになっており、学園での生活は風当りが相当強いと予想している。ファリア兄様とベルジュはあえて言わなかったのだろうが、カタリナはそのことに気付いていた。学園で楽しくウキウキライフとはならなそうだと思うと、正直気が沈んでくる。


 王都まではほんの五日ほどでたどり着く。その僅かな距離が決して明るいものではないとカタリナは諦めていた。

次話「学院到着」

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