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腐った女子、己を語る

別の連載があまりにも地味なので、ストレス発散用小説をアップします。投稿は不定期ですがよろしくお願いしますm(_ _)m

 はぁい、みんな元気? 私は割とたくさんいるごくごく一般的な腐女子です。


 最初は乙女漫画から始まり、ラノベ、純文学とまっとうな文学少女の道程を進んでいた私だけど、気付いたら道を踏み外してました。今はネット小説すらも我が物顔で蹂躙し、日々若衆道(乙女のたしなみ)の数々を脳内再生しております。某領主とその義理の弟とか、モテモテハーレムの主人公と最初に友達になった男の学友とかいいよね!


 そんなどこにでもいる腐った私が、精神的な意味で道を踏み外しただけでなく、駅のホームからも踏み外しまして、今異世界に転生しちゃいました。いやー参ったね。電車って正面から見ると結構怖いのよ。


 異世界転生物の小説はもちろん嗜んでいたワタクシは、これから魔法に内政にハーレム(ただし野郎同士に限る)を楽しもうと意気揚々と成長していましたところ、とんでもないことに気付いちゃいましてね。絶賛困ったことになっております。


 それというのは、私は……







…………





「カタリナ、ファーライル魔法学校に入学おめでとう。これは入学祝だよ」


「ありがとう、お兄様。わたくし頑張って良い成績をとりますね」


「カタリナなら楽勝だよ。賢い妹を持つと鼻が高いよ」


「まあお兄様ったら」


 私、カタリナ・フォン・アルブライドは口元に手を当てて朗らかに笑う。久しぶりに会えた兄、ファリア・フォン・アルブライドから受け取った花束の匂いが清々しくて嬉しかった。


 ここは片田舎の男爵家の庭である。よく言えば自然豊か、悪く言えば何もない田園風景の中にひっそりと佇む屋敷が、私たちの生家であるアルブライド男爵家であった。


 カタリナという男爵家令嬢に転生した私は、12年の歳月を経て来月からファーライル魔法学校に入学することになった。本来私ことカタリナは、とある事情により編入できないはずだったが、座学試験をトップで合格することで特待生枠をもぎ取ったのである。座学トップというと聞こえはいいが、所詮12歳のペーパーテストだ。前世の日本で、ん十年生きてきた経験があるカタリナには造作もない試験だった。あ、そこ、前世の年齢は聞かないように。


「でもカタリナが魔法学校入れるとは思わなかったなぁ。あ、いやよかったんだけどね。ちょっと予想してなかったから……」


「そうですわね、私も必死で勉強しましたから」


 勉強したのは日本には存在しなかった魔法学と地理学だけだけど、と内心補足しつつ答えた。どちらも興味深い内容でためになったけれど、全く経験のない類の知識の勉強はなかなか大変だった。


「ということは一緒に王都に向かった方がいいのかな。護衛ついでになるしね」


「ありがとうございます、お兄様。ご一緒に、ということはベルジェ様もですか?」


「ああ、あいつも一緒に行くよ。久しぶりに会えて嬉しいだろう?」


「ええ、嬉しいですわ。逞しくなられたのでしょうね」


 違う意味で嬉しいんだけどね、とこれまた内心で捕捉しつつ答える。どうやらファリア兄様は、私が兄の友人であるベルジェ・フォン・グレイグ男爵に惚れていると勘違いしているらしいが、実際は全く違う。説明する気にはなれないけどね。説明したところでわかってもらえないだろうけどね!


 出発の日の予定や何を持っていけばいいのかという準備のアドバイスを頂きながらお茶を飲んだ。特殊な事情を除いても、久しぶりの兄妹の会話は楽しいものだった。ファリア兄様はカタリナの4つ上の16歳である。実に美味しい年齢である、色々な意味で。


 そしてふと、陰りを見せた表情で兄様がうつむいた。私は心配になって聞いてみる。


「お兄様、どうかなさったのですか?」


「……いや、カタリナが魔法学校入れたのはすごく喜ばしいことなんだけど、大丈夫かなって思ってさ。だって、ほら、その……」


 言いづらそうにしているファリア兄様の言いたいことはわかった。確かに魔法学校に通ううえで重要な問題点がカタリナにはあった。


「君は魔術が使えないじゃないか」


 カタリナは魔法が使えない……ということになっているのだ。


 ファーライル魔法学校の基本理念は「魔術による王国発展及び魔術使の待遇向上」である。そのため様々な分野において魔法を使うことが要求される。軍事、生活、生産、宗教、ありとあらゆる分野における魔法使いのエキスパートを育てるのが魔法学校の本質だ。


 だがカタリナは魔術を使えない。平民ですら簡単な魔術を使いこなすというのに、カタリナは防御結界を作る魔術どころか、小さな火を起こす魔術すら使えないのだ。ただ貴族としてある程度の魔力はあるらしいのだが、なぜかそれをまともに発現することができないのだった。


 そのせいで昔はよく嫌がらせを受けたものだった。実家の祖父祖母からは魔法の使えないできそこないと言われ、平民からは平民以下と罵られ、そしてその罵声を誰も否定してくれない。ファリア兄様とその友人と両親はカタリナを庇ってくれたが、私は常に悪意に晒され続けていた。


「兄様、ご心配ありがとうございます。ですが私は私なりに頑張るつもりです。大丈夫です、なんとかしますから」


 そう言ってガッツポーズをとりながら笑って見せると、ファリア兄様は「そうかい」と辛そうにしながら席を立ってお茶会を後にした。


 ファリア兄様の姿が見えなくなって、カタリナはため息をついた。そして兄様がくれた薔薇の花一輪を指先で摘まんでくるくると回す。確かにカタリナは魔術は使えなかった。ただし、普通の魔術は、であるが。


「魔法自体は使えるんだけど、これ使い勝手がなぁ……」


 魔力を少し込めると、指先で摘まんだ薔薇がだんだん色あせていき、花が萎み葉は枯れていき、最後には枯れすすきのような状態になってしまった。


 彼女は普通の魔術は使えない。ただし特殊な魔術である「腐」属性の魔法を使うことができるのだった。

次話「腐属性魔術の応用、リンゴ編」

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