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気がついたら戦時中の魔界に転生してました  作者: 夜泉
第一章 第四年期生
7/15

7 進級試験

 今日は学年の進退を決める年に二度の試験日だ。場所は中央塔で一番大きい中央大講堂。私はアルシップスを誘い、中央塔の大講堂まで一緒に歩いている最中だ。


 進級試験では、文官試験と武官試験がある。試験日では、どちらの試験も学年に関係なく全学年の試験を受けることができるが、卒業する為には決して手を抜いてはならないものである。


 最終学年の試験まで全て合格しなければ将来絶対必要になる武官資格や武官資格が貰えないし、なにより留年なんてしたら、貴族としてアウトだもんね……


 もう一学年やり直しなんてなった暁には周りの目が容易に想像できる。さすがに恥ずかしさで死ねる思いはしたくはない。


 文官試験は、主に前世でいう歴史や地理、生物学や政治についての筆記試験だ。前世ではどの教科でも漢字のミスを多発させ、点数を落としていたので、今世では非常に楽だ。なにせ、魔族語には漢字がないのだから。日本語でいう平仮名だけ、といった形式なのだ。文字より発音で覚える感覚派である私にとってはすごくありがたかった。


 武官試験は、要は軍人になる為の試験だ。私は今まで受講したことが無いのでよくわからないが、医学や兵法、地理、魔法、前世の英語に相当する人族語や精霊語についての筆記試験と戦闘訓練の実技試験が出されるそうだ。私が今まで受けてきたのは文官試験だけで、これからも文官試験しか受けないことに変わりないから関係ないと言っていい。


「エレン様はグラシヴァンス出身ですが、文官試験を選択するのですね」


 ルグナンシェとアルシップスが口論のような会話を中断させて、こちらに話題を振ってきた。


「ええ、文……」

「どうせお嬢は最低限の勉強しかしたくなかったから文官を取ったんでしょう?武官を取ると実技も付いてきますからね」


 先に言われた。私は極度の面倒臭がり屋であり、最低限の科目しか受講していなかったのだ。毎年の試験でも、ぴったり75点をキープをしていた。何故75点をキープしていたかは不明だが、勉強に一片の興味も示していなかったことがよく分かる記憶があった。試験の点数配分を計算して遊んでいた記憶だ。


「……人の話を最後まで聞かない人はキライですよ」

「いやぁ、ホントの事でしょう?」

「否定はしませんが」


 私はじとっとした目付きで睨んでいると、「そういえば」とアルシップスが呟いて質問をしてきた。


「エレン様は第何年期生なのですか?」


 年期生とは学年の事だ。一番下が第一年期生と呼ばれ、最上級生の第五年期生は最年期生と呼ばれる。


「わたくしは本日の試験に合格すれば第四年期生です」

「そうなのですか。僕も同じです。もし試験結果が似通っていれば同じクラスになれそうですね」


 パアッと嬉しそうに笑うアルシップスを余所に私は首をかしげた。


「クラス……?」

「僕のクラスではエレン様をお見かけすることはなかったので、Sクラスより下のクラスで受講していらしたのでしょう?」


 そんなこと言われても分からない。私はクラスを意識していなかったのか、将又(はたまた)本当に知らなかったのか、クラスに関する記憶が出てこない。


「……アル様は去年まで何クラスでしたか?」

「Sクラスですよ。今年も勉強を頑張りましたので、Sクラスになれるかもしれません」


 へえ、アルって頭良いんだ


「そうですか。優秀なのですね。わたくしはいつも試験は70点代ですが、今年は前年より勉強したので点数が上がるかもしれません」

「それは期待できますね!もう少し上がればSクラスじゃないですか」


 渡り廊下から中央塔の広い通路に入ると、ちらほらと他の学生達の姿が見え始めた。彼らの服装はバラバラで、華やかな者も多かった。試験に合格するまでは厳密には学園の生徒とは言えないそうで、試験を乗り越え授業を受ける日まで服装は自由なのだ。


 しばらく歩いていると、私の身長の三、四倍はありそうな両開きの扉が堂々と開き、学生達を迎え入れていた。扉の両脇には人混みができ賑やかになっている。


「まもなく大講堂です。わたくし共は大講堂に入れませんので、扉の前でお待ちしております」


 大講堂の扉の前に着くと、フリューラや一緒にいた側仕えが「試験頑張ってください」と激励してくれた。


「では行ってまいります。行きましょう、アル様」

「はい。ではまた後ほど」


 同じく側仕えに別れを告げたアルシップスと共に、大講堂の大扉をくぐる。すると、寮を出る前にフリューラに持たせてもらった透き通った黄色の石が淡く光った。この石は学生証のような物で、身分証明、試験回数や成績の記録をする道具だ。コレが無いと学園の至る所に通行制限がかかるので、必ず持っていなければならない。


 ルグナンシェによると、大講堂の中に側仕えが入れないのはこの石を持っていないからだからで、石を持たずに入ろうとすれば弾かれるらしいんだよね

 ……試しに一回弾かれてみたい


 なんてバカなことを考えながら扉を抜けた。流石に大講堂と言うだけあって広い、広い。巨大なコンサートホールのようだった。コロッセオのような階段状で、ずらりと机付きの観覧席が敷き詰められている。中央の舞台を囲むようにぐるりと席が螺旋を作り、舞台を囲む席は三階まである。すでに席についている大勢の学生達が、鮮やかに単色の席を飾っている。天井は高く何かの巨大な絵が描かれているが、遠いので見えずらい。天井にいくつかの光が散らばっているが、シャンデリアだろうか。多分、この大講堂を照らす明かりなのは間違いない。


 おぉ……

 これは、結構すごい所だな……


「エレン様は、どの辺りに座りますか?」


 私が大講堂の景色に魅入っていると、知らず内に足を止めてしまっていたようだ。立ち止まって周りを見つめる私に気付いたアルシップスが、声をかけた。


「わたくしはどこでも構いませんが、強いていうなら出入口に近い席が良いですね」


 これだけの広さと人数なのだ。大講堂を出る時はとても混雑するのではないだろうか。大勢の学生達に揉まれながら大扉を抜けるのは、さながら前世の通勤ラッシュを連想させる。押し合い圧し合いされながら大講堂を脱出するのは辞退したい。


 いや、貴族だから優雅に退室するのだろうか

 優雅に押し合い圧し合い……うん、脱出路は先に確保しておくのが吉だね。


 飛んで移動できれば楽だが、残念なことにそれはマナー違反だ。


「アル様、あちらの席にしましょう。席が多く空いているので、広く使えそうです」


 私はアルシップスを誘導して脱出路の確保に成功した。





「エレネイア・ベネフィッド!!」


 その人物は、試験が始まるまでの時間、アルシップスと復習をしている時に突然声をかけてきた。


「今年こそSクラスに相応しい成績で試験を合格するのですよ!そして、わたくしが一番になるのです!」


 一丁前に平らな胸を張り、私に宣言した。


「レヴュンタス様……」


 アルシップスが驚いた表情でレヴュンタスと呼ばれた少女を見ていた。アルシップスが知っているということは、この少女もSクラスなのだろうか。美しく整った顔に青い長髪をサイドテールにしている。髪の先は紫を帯びていて、光を反射する鱗のようにも見える。耳辺りからは魚ようなヒレが飛び出して、意思の強い青みを帯びた白銀の瞳は濡れて潤んでいる。不思議な美貌を兼ね備えた美女だったが、如何(いかん)せん、それは顔だけだった。

 身長は私よりも頭一つ分程下で、凹凸の無い身体は悲しいほど子供体型を主張している。不満です、と大きく書かれた顔はむくれた子供にしか見えない。


「……アル様、レヴュンタス様とお知り合いで?」


 とりあえず、初対面ではないのは確かだが記憶に無い少女について訪ねることにした。


「いいえ、去年同じSクラスだっただけです。」


 アルシップスが続けて私に説明しようとすると、会話を(さまた)げる指斥が飛んだ。


(わずら)わしいですわね。アルシップス。わたくしは今、そこのエレネイアと話をしているのです。貴方と話をしていませんし、貴方にわたくしの名前を呼ぶ資格もなくってよ」


 邪魔だから引っ込めというレヴュンタスの指斥にアルシップスが肩を震わせ、「申し訳ありません……」と小さな声で呟いた。先程まで明るく話していたのが初対面の頃に逆戻りしてしまった。


 話に割り込んできた上にアルシップスを凹ませた少女に私の機嫌も急降下していった。


 そもそも私、貴女知らないし、話に割り込むし、勝手に好き勝手言うし

 こういう人、ホント面倒臭い

 適当にあしらって追い払おう


「あらまあ、迷子ですか?もうすぐ試験が始まるので早く出ていった方がいいですよ」

「わたくしも試験を受ける学生ですわ!!わたくしのことを馬鹿にしていらっしゃるの!?」


 私が子供は帰れと言うと、レヴュンタスは烈火のごとく怒った。


「軽い冗談ですわ。お久し振りですね。前にお姿を見た時とお変わりないようですが、その姿は気に入っているのですか?」

「変わっていないわけがないでしょう。わたくしも成長していますわ」


 レヴュンタスがふん、と言い返すと私は馬鹿を相手にするような顔で次の言葉を吐いた。


「まあ、可笑しいこと。本当に成長しているならば、ここに居るレヴュンタス様は幻かしら。上級貴族のレヴュンタス様が、わざわざ下の者に啖呵をきるためだけにここへ来るなんて……。わざわざ下の者に威張りに来るなんて、レヴュンタス様はしないでしょう?」


 私が、自分より成績が下で当然の者に威張りに来るのは貴族の行動としてどうなのか、成長したレヴュンタスならこんな幼稚な行動をするはずがないと言うと、レヴュンタスは顔を真っ赤にして一度鋭く睨むと、ずかずかと自分の席へ戻っていった。私はそれを社交用の笑みで見送ると、びっくりした顔をしたアルシップスに声をかけた。


「さあ、面倒な人がいなくなりましたね。そろそろ試験が始まりそうですし。席に着きましょうか」


 舞台の上に数人の試験官が集まっていることを確認して椅子引いた。


「レヴュンタス様と顔見知りのようでしたけれど、どのような関係なのですか?」


 アルシップスが恐る恐る訪ねてきたので、ニッコリと笑って正直に答えた。


「初対面ではないのは確かですが、これといって面識もございませんし、名前も今日、初めて知った方ですわ」

「先程、お久し振りですね、と聞こえた気がしたのですが……」


 私は何も可笑しいことは言っていない、と言う意味も込めて答えた。


「ここ最近の記憶にあの方はいませんでしたもの。でしたら、今日会うまで日が空いていたのは事実ですから、お久し振りですね(・・・・・・・・)、という言葉は間違っていないでしょう?」


 その後、すぐに試験が始まり、試験官に答案用紙が配られた。中央に浮かぶ問題文のスクリーンを見ながら答えを紙に書き、殆どの問題を余裕で解いた。

 試験が終わり、三日程経った日に試験結果が届き、私は第四年期生になることが認められた。今年は第四年期生を示す青いチェーンと、クラスを示す金色のチェーンを制服に付けることになる。Sクラスであることを示すチェーンだ。




 試験を余裕でクリアしました。やることがなさすぎてひたすら勉強していた結果ですね。エレネイアは面倒になるとナチュラルに喧嘩を売るスタイルが標準装備になります。


 10話目辺りに閑話を入れる予定です。


 次はSクラスです。レヴュンタスの愛称はレヴィにしようと思いました。いつ使うかは未定です。

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