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気がついたら戦時中の魔界に転生してました  作者: 夜泉
第一章 第四年期生
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5 学園都市ミゲレンピエ

「うっぷ……」

「おい、起きろお嬢。そろそろ学園都市に着くぞ」


 無遠慮に鷲掴みした大人の手が私の頭をゆさゆさと揺らした。それに合わせ、窓から見える大飛竜(グレートワイバーン)の翼がバサリと空を切り足元がぐらりと揺れると、気持ち悪い胃酸の臭いが鼻を突き抜けた。


「うっ……」


 揺れる頭と不快さに私は慌てて口を塞いだ。

 そして、少し落ち着いたところで今の不快を助長した男を睨んだ。


「酔って気持ち悪くなっている相手にちょっかいを出すのは止めてくれないかしら?」


 私が恐らくは青い顔で非難すると、ルグナンシェは肩を竦めた。


 学校の休暇が終わり、私達は大飛竜(グレートワイバーン)の背に付けられた箱のような乗り物で、学園都市のあるレイブロスコールへ向かっていた。

 今の魔界には、ここ、イヴィアスモルネイアしか国が無いが、元々大きな国が三つ程あったそうだ。地名として今も残っており、その一つがレイブロスコールだ。グラシヴァンスとヴェルローツェに阻まれ、魔界で唯一他界に接していない大国で、広大な領地を持っていたそうだ。今はその立地から魔界で一番安全な場所とされ、中央都市や学園都市、王城イヴェイアが建つので有名だ。


 そして、私達が向かっている学園都市(ミゲレンピエ)学園都市(ミゲレンピエ)は魔界中の全魔族が10歳になると通えるようになる巨大な学園だ。何故ミゲレンピエという名前かというと、初めて学園という場所を作った魔族がミゲレンピエという名前だったかららしい。完全なる貴族の学園、ってわけではなく、お金さえ払えば誰でも入れる学校だ。


「まさかエレンが竜酔症の持病持ちだとは思わんかったぞ」


 隣を飛ぶ大飛竜(グレートワイバーン)の背から野太い声が響いた。


「そのまま乗ればなんともなかったんですよ?臭いが駄目なだけで」

「そうかそうか。まあ、その内治るだろう」


 なんとも言い訳にしか聞こえない返答に声の主はカラカラと笑った。ここでは乗り物酔いは竜酔症というらしい。

 声の主はドグナーツ・ゲルバリオン。ゲルバリオン領主にして私の祖父だ。


 実は昨晩、学園に戻る為の準備をしていた所、ひょっこり顔を見せに来たのだ。ゲルバリオン領が落ちたと思っていたが実際そうではなく、抜け道のような場所から敵が浸入し、無抵抗な魔族を攻撃していたらしい。死者も出たそうだがそんなに多くはなく、すぐに兵に鎮圧されたそうだ。けれど、抜け道は見つからず、ここまで派手に破壊活動を行った割に主要な魔族を攻撃しておらず、敵の考えが読めないと言っていた。私やお母様を攻撃したのもついでではないかと言った。


 私はその惨状を見て、死者多数の大事件と判断していたけれど、案外軽い方だったと聞いて猛烈に不安になった。やはり、私の生まれた日本では戦争なんてなかったから、常識が大きく異なるのだろう。身近な人がある日死んでいたり、なんてこともよくあるのだろうか。


 その後、王城へ行くのでついでに送ってやろうということで、大飛竜(グレートワイバーン)に乗せてもらうことになった。


 勿論、快適な空の旅とはいかず、すぐに冒頭のような状態になってしまったのだが。

 ちなみに、お祖父様の乗っている大飛竜(グレートワイバーン)が長男のゲルネイ、私とルグナンシェ、側仕え達が乗る大飛竜(グレートワイバーン)が次男のベルネイ、荷物持ちの末っ子がヴァスネイだ。


「エレンお嬢様、まもなく学園都市(ミゲレンピエ)に到着です。降りる準備をしてください」


 そうこう喋っている内に側仕えのフリューラが到着の旨を知らせた。


 頂上が壁の無い塔のようになっている建物が三つあり、そこが竜から降りるスペースだ。私達のように空から来る者はあまりいないようで、貸し切りのような状態になっている。ベルネイがゆっくりと足を下ろし着陸した。


「ありがとう、ベルネイ」


 私がベルネイから降りる頃には気分もよくなっていた。労う気持ちも込めてベルネイの顎のあたりを撫でてやると、目を閉じて気持ち良さそうにしていた。私も硬くて冷たい鱗が気持ちよかった。


「では、もう行くぞ。よく勉学に励むが良い」

「はい。お祖父様もお仕事頑張って下さいませ」


 お祖父様は大飛竜(グレートワイバーン)三兄弟を駈り、颯爽と飛んでいった。その後ろ姿を見ながら、後数十年はピンピンしてそうだな、と思った。


「では、エレンお嬢様、寮へ向かいましょう」


 お祖父様を見送った後、フリューラに続き、幅の広い階段を下りていった。


「ルグナンシェ、なぜ周りを見回しているのですか?」


 きょろきょろ、と興味深そうに周りを見るルグナンシェを疑問に思い、訊ねた。ルグナンシェも魔族なので学園都市(ミゲレンピエ)に通ったことがある筈なのに、まるで初めて来たかのようだ。


「この寮に来たのは初めてだよ、お嬢。俺はヴェルローツェ出身の貴族だからな。丁度三角形を描くように塔が建っていただろ。塔によって出身地の寮が決まっていたから用事が無い限り違う寮内には入れなかったんだよ」


 そうなのか。塔が三つあるのはその為か。


 エレンの記憶を探ってみると、寮の構造や教室へ続く道が浮かんだ。

 グラシヴァンスの塔は一番上が竜から降りるスペース。階段を下りていくとグラシヴァンスの寮内に入る。寮の上の方程身分が高い貴族の部屋になっている。私は寮の一番上の一個下の部屋だ。一番上は家名にグラシヴァンスが付く王族の部屋らしい。


 そういえば、この国の地位関係ってどうなってるんだろ。ややこしいことになってるのはわかるんだけど……。後でルグナンシェに聞いてみよう。


 各塔には中央に渡る為の橋がいくつか付いていて、その橋を渡って、中央の塔の教室や講堂に向かう。中央は三つの塔に囲まれるように建つ三角錐の塔で、三つの塔より低く、平べったい形をしている。


「エレンお嬢様、そろそろ部屋に着きますよ」


 二、三人くらいの魔族が警備するドアを通りすぎた後、フリューラが私にそう伝えた。記憶の学園を吟味していてもちゃんと周りを見ていた私は、そのドアがグラシヴァンスの王族の部屋だったことに気づいて質問した。


「フリューラ、今年はグラシヴァンスの王族も入学されたのでしょうか?」

「そうでしょうね。今年入学なら、多分、ポーシュレディグ様でしょう」

「学年もクラスも違うから、会うことすら無いと思うぞ」


 フリューラの説明にルグナンシェが付け足す。


 クラス……そういえば、魔界中の魔族が集まるんだよね。クラス分けの方はどうなるんだろ。


 フリューラが寮の自室の扉をスッと開き、私は上の空のまま入室する。


「では、わたくしは他の使用人に指示をだしてきますゆえ、失礼します」


 いつの間にか温かい紅茶を準備すると、フリューラはスッと部屋を出た。紅茶を飲みながら、流石プロ、仕事が早いと感想を抱いた。


「さて、お勉強しますか」

「待て。また勉強か?俺は嫌だぞ。付き合わんぞ」


 どさっ、という音と共に積まれた参考書の束に、ルグナンシェがひくりと顔をひきつらせた。まあ、我が家でも暇さえあれば勉強しかしていなかったのに、寮でも勉強しようとしている私を見れば付き合わされる方が嫌な顔をするのは当然だろう。


「試験前なら誰でも勉強はするでしょう?」


 何を言ってるの?と当たり前の顔で勉強を始めようとすると、ルグナンシェがストップをかけた。


「城にいた時も勉強していただろ!お嬢の頭ならAクラスは確定じゃないか。どうせならお友達と勉強すればいいのに」


 どうやらルグナンシェは勉強がとことん嫌いらしい。我が家にいた時も散々付き合わされていたのでげんなりしていたそうだ。元々勉強を教えるのは護衛の仕事ではないが、私の護衛になった時点で教師役は決定事項だ。私が見す見すと教師役の大人を逃がすことはない。


 私の護衛に付いたのが運の尽きだね

 諦めてもらうしかないね


「仕方ないでしょう?わたくしが今やれることは勉強くらいしかないのですから。それに、わたくしにはそういった人物はいませんし」


 エレンには友達がいない。元来、無愛想なエレンには友人と呼べる人はいなかった。記憶もその事を裏付けていた。別に私はその事に関して何か思ったり気にする訳でもなかった。前世でも人との関わりは生活に差し支えのない最低限のものだけだったし、これからも特に考えたりしない。簡潔に言うと面倒だ。


「さぁ、この部分について解説して下さい」


 私が参考書の一ヶ所を指さし顔を上げると、ルグナンシェは半眼でこちらを見ていた。ジトッとした目付きで小声で「……ぼっち?」とか聞いてきた。だったらなんだ。ぼっちでもなんでもいいから早く解説をして欲しい。


「ふーん……、ほー……、なるほどねぇ……」


 何故かその男は、ニヤニヤと嫌らしい顔で勝手に納得していた。何を考えているのか分からなかったが、とりあえず、面倒そうな事を考えている事だけは分かった。


「ようし!俺がお前に友達を作ってやろう」


 いらんわ

というか、嫌な予感しかしないし、そもそも何をしようとしている?


 何を言い出すかと思えば突然そんな事を言い出し立ち上がった。私の意思などお構い無しにクローゼットから私のコートを取り出した。


「フリューラさーん、ちょっとお嬢のお友達に会ってきまーす」


 私が茫然としている合間にも扉を開けフリューラに外出の旨を伝えた。


「エレンお嬢様にいつの間にご友人が!?分かりました。夕食時には戻ってくださいね」


 フリューラの驚きと喜びに満ちた了承の返事が返ってきた。気のせいだろうか。私を置いてどんどん話が進んでいる気がする。そしてフリューラさん。ルグナンシェが護衛に付いたのは最近ですよね?何故、戸惑いもなく了承できるくらい打ち解けているのだろうか、そこの所、とっても知りたいです。


「よっし、お嬢行こうか」

「……待って。ちょっと待って。貴方、今、何をしようとしているの?」


 はっ、と我に返った私はすぐに現在の状況を確認した。私はいつの間にかコートが着せられ、ルグナンシェの片腕に抱えられている。私を抱えたルグナンシェは部屋の南側についている大きな窓を開け今にも飛び立たんと構えている。


「ちょっと待ちなさいよ!貴方、私をどこに連れていくつもり?そもそも私に友達なんていないし何をしようとしている訳!?」


 私が手足をじたばたと動かして意味不明なルグナンシェの行動を咎めると、おどけたような、ふざけた表情で窓の縁に乗った。


「さっきフリューラにも言った通り、お嬢のお友達に会いに行くんだよ。ぼっち(・・・)のお嬢にわざわざ俺が紹介してやるんだからな、感謝しろよ?」

「なっ……、余計なお世」


 ぼっちを強調したルグナンシェに文句を言うのは残念ながら成功しなかった。ふわりと浮遊感を感じ気づいた時にはルグナンシェが外に飛び出した後だった。


「ぎゃあああああああああっ!!」


 ルグナンシェに抱えられたまま落下していく状況で、私は抱きついて悲鳴をあげることしか出来なかった。




 説明回のような感じになっちゃいました。ルグナンシェは思い付いたらすぐ行動するタイプです。

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