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気がついたら戦時中の魔界に転生してました  作者: 夜泉
第一章 第四年期生
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4 ルグナンシェ・ホルセスヴェン

 きらびやかな装飾が施された金色の燭台を尻目に私は無言で外の景色に目を移した。


 Q:さて、私は今、どこでどんな表情をして何をしているでしょうか

 A:渋い顔で長すぎる廊下を歩いています


 ちなみにもう足が凝り固まって悲鳴をあげていることも報告しておきます……。





 遠い!遠すぎるってば!


 階段に差し掛かった時、くらりと目眩をおぼえた。さっきからずっと歩きっぱなしだというのに、全くゴールが見えないのだ。上に向かっているのはわかるがいつになれば着くのかわからない。廊下から外を眺めると美しい町並みがよく見えたのだが、それもそろそろ飽きてきた。きらびやかなものばかり目に入るので疲れてきたのだ。


 足からピキッ、と幻聴が聞こえた気がする……


 記憶によれば、エレンは運動などはあまりしないようで、本ばかり読んでいたようだ。それ以外は寝るか勉強のどっちかだ。完全にインドア派だ。それを否定するつもりは微塵もない。私も中学生くらいからインドア派だったし。


 しかし、それでも少しは動けと言いたかった。


 前世、休み明けの登校で、体力が落ちて息切れをしながら学校に通った日々を思い出す。普段運動しない為、こういう時にリバウンドがくるのだ。今思えば、仮に飛んで移動したとしても、すぐに体力が尽きて地面に落ちただろう。何しろ、飛ぶことすら滅多にしてなかったようだから。


 飛行系の魔法とか覚えていればまだ良かったのに


 エレンは価値を感じないことには興味すら示さない。だから勉強も最低限しかしていないのだ。どこまで私に似てるんだと思ていたが、もう諦めた。これから頑張って勉強しよう。


 道のりの記憶おぼろげになってきた頃、そろそろ着くかな、と安堵した。


 お父様はいつもは領主の仕事で忙しいらしく、夕食以外で滅多に会うことはなかった。色々あったので今日は一人での夕食になったが、いつもならば家族全員で食事をとるのだ。


 私がお父様の執務室に行くことは普段禁止されてるし、夕食くらいしか顔を合わせることがないなんて、領主の仕事の忙しさがよくわかるね。

 ちなみにエレンは、あまり話すことがないので、忙しそうとか考えてすらいなかったようだ。


「失礼します、お父様。エレンです」


 執事のバフェルに扉を開けてもらうと、こちらを睨んでいるような鋭い目付きの厳めしい顔したお父様と、ローブのような黒を基調とした服の見知らぬ青年が立っていた。


「お父様?そちらの方は……」


 屋敷でも見たことがない人物に、私は小首を傾げた。お父様の返事を待っていると、その人物は私のもとへ近づき、跪いた。


「初めまして、というべきでしょうか。ヴェルローツェの貴族、ルグナンシェ・ホルセスヴェンと申します。先の、ゲルバリオン領襲撃にて、エレネイア様に救出された者です」


 青い長髪を三つ編みにした背の高い青年が私を見上げて微笑んだ。穏やかな好青年といった風貌だ。こういう人を美形というのだろうが、昔からそういうのに興味はないしなんとも思わなかったので、この人の顔を見ても何も思わなかった。

 ただ、大抵の女性はコロリと落ちそうな笑顔だな、と思った。

 しかし、困ったことに私はこの人を知らない。あの戦場で誰かを助けた覚えはないし、そもそも今までにお母様位しかまともに会話してない。私が記憶を取り戻す前のエレンが助けたのだろうか。

 私が返答に困っていると、クスッ、と目の前の青年が笑った。多分、私は困った顔していたのだろう。青年が返答に困った私にヒントをくれた。


「パルチザン、という武器をご存知でしょうか?エレネイア様とエレネイア様のお母様、ハウルィーツェ様を襲撃した人間の、使用していた武器です。私は人間の変質魔法によりパルチザンに変えられ、武器として使用されていたのです」


 青年は苦笑しながら正体を明かした。


 じゃあ、あのパルチザンって槍はこの人だったってこと!?


 そういえば、あの人が振り回してた槍、ただの武器じゃなさそうだったけど、それは魔法による効果じゃなくて魔族が武器に変えられていたからか。


「そうだったのですか……。開放されて何よりです。それにしても、貴方様のような方が武器に変えられていたなんて、あの女性はそこまでの実力者だったのでしょうか……?」


「何故、そう思った」


 私が、ふと疑問に思ったことを口にすると、いままで空気になりかけていたお父様が私に質問してきた。お父様は顔が威圧的で怖い。こっちを見ないでほしい。

 何か怒らせてしまったかと思い慌てて謝った。


「申し訳ありません、お父様。差し出がましい事を……」

「いいや、謝罪はいらん。何故、そう思った」


 どうやら怒らせた訳ではなさそうだった。


 でも、いきなりなんでこんなこと聞いてきたんだろ

 まるで、問い詰められているような……


 ……もしかして、私がエレンじゃないってバレた!?


 ぶわっと身体が冷たくなる感覚を覚える。


 え!?何を間違えた?もしかして、私が聞いた事って、普通の子にはまだわからないことだったとか!?


 だとしたらヤバい。いきなり自分の娘が秀才になってたら普通疑う。それとも、エレンは疑問とか口にしない子だから疑われた?


 お父様は先程までと変わりなくこちらを注視しているように見えた。


 私は吃ることがないよう、注意して言葉を吐き出した。


「それは……、あの女騎士の方は、わたくしよりも魔力量が少なかったからです。ルグナンシェ様はわたくしや女騎士の方より魔力が多いですよね。なのに、魔法を解除することができなかった。何故、解除できなかったのか、疑問に思ったからです」


 あれ?もしかして、魔法を使ったのはあの女騎士じゃない?


 現役の騎士なら、何故、お母様が対等に戦えた?お母様がもとから強かったから狙われた可能性もあるけど、尚更、何故狙った?確実に仕留めるなら、仲間の補助でやっと互角になる者を送るだろうか。それにゲルバリオンは昔から人間界との戦争が絶えなかった。だからこそ守りと戦線維持に特化した領だった。要塞を突破したなら、もっと強そうな敵がいてもおかしくないし、避難勧告の前に進入を許したのも気になる。


「エレン」


 私が悶々と思考の渦にいると、お父様から声がかかった。どうやら、少しぼんやりしていたようだ。


「すみません、お父様。聞いていませんでした。もう一度お願いします」


 ちょっと失礼な態度とっちゃったかな。


 お父様は、しばらく私を見つめていたが、視線を外した。


「ルグナンシェが救出の礼に我が領家に仕えたいと言ってな。お前の護衛に付けることにした」


 いつの間にか話の内容が変わっていたが、気にしないことにした。どうやらこの人は、私の護衛になるらしい。護衛を付けなければならない程物騒なのか、良い所のお嬢様なら当たり前なのか。

 まあ貰えるものは貰っておこう。


「わかりました。ルグナンシェ様、これからよろしくお願いします」


 ニコリと笑うと、ルグナンシェも穏和な笑顔で微笑んだ。面白いものを見るような、この人の目が気になった。




 次の日、気持ちの良い朝を迎えベッドから降りた。子供の魔族や魔物は魔力操作が下手で、魔力の消費が派手らしい。なので、睡眠をして本能的に覚えるらしい。大人になったら一部を除いて睡眠が必要なくなるらしく、私もそのうち寝なくてもいいようになるそうだ。


 早く大人になりたいなあ


 着替えや食事を終わらせると、即座にルグナンシェを呼んで勉強机に座った。


「さて。わたくし、今から勉強するの。色々と教えてくれないかしら?」


 ルグナンシェがキョトン、とした顔で瞬いた。


「……私は護衛ですが?」

「まあ、嫌だわ。貴方は周囲に神経を張り巡らせていなければ護衛対称一人守れないの?」


 暗に護衛の腕を貶したら、ルグナンシェが困った顔になった。


「不意討ちを食らったら護衛対称を守れないでしょう?」


 私を宥めようとするが、私は知ってる。


「大丈夫よ。貴方、強いもの」


 私が笑顔でごり押しすると、途端に顔つきが変わった。


 ビンゴだ。


 魔力関知は結構便利だ。知らずに使っていたが、様々なことに利用できる。

 例えば、位置特定。お母様を見つけたのもこの能力だ。魔族は存在するだけで魔力を発生させる。それを利用して相手の状態も知ることができる。違和感があったのだ。私がお父様の前で疑問を口にした時、後ろで魔力の変化があったのだ。その時はよくわからなかったのだが、お父様の視線が外れ、魔力の質が変わった時に理解したのだ。これは感情の変化だと。


「聡明なお嬢さんだねえ、君」


 面白がるように私に話しかけてきた。やっぱり、あの好青年の顔は外面だったらしい。


「何故、わたくしの護衛に?」


 興味があったので聞いてみた。多分、この人には敵意はない。あるのは、興味と警戒。目を細め、しばらく警戒していたら、突然吹っ切れたようにルグナンシェが笑いだした。


「やめだ、やめ。やっぱりにこにこ愛想よくするのは面倒臭え」


 語尾が崩れ、にかっと笑うと子供のような表情になった。


「それが本性ですか」

「そうだな。まあ、そう警戒しなさんなよ」


 へらへらと笑い、用意されていた席にどかりと座った。本当に敵意はなさそうだったので、私も警戒を解いた。何気に緊張していた私はため息をつき、じとっとした目付きでその男を睨んだ。


「大体、なんで貴方は先程まで、気持ち悪いにこにこした顔でいたのですか?」

「おやおや手厳しい。俺はこの通り無作法でね。あんな風にしてないと反感買われるんだよ。ここはヴェルローツェではないしね」

「ふーん」


 ルグナンシェが気まずそうに目を逸らした。

 ちがう。コイツ、自分の笑顔でコロッと落ちたりすれば楽だなとか考えてたな。


「……面白そうだったから、だよ。知ってるかい?魔族は人の感情の変化を感じて楽しむ。だが、同類は読めない。俺は一部なら読めるんだけどね」


 ピッと私を指差した。


「読めなかったんだよなあ、君。わからないと言うか……。からっぽ、かな

お前、なんだ?」


 純血種だからか?とルグナンシェが呟いていたが、なんのことだかさっぱりわからない。


 私もわかんないよそんなの


 転生したからそれが原因かな、と考えた。今回は読まれないことで怪しまれたのか。だとしたら、またこの人みたいに感付く人が出てきそうだ。面倒臭い。


「……まあいい。さっきも言った通り面白そうだから付いてみただけだ。他意はねーよ。まあ、これから仲良くやろうぜ」


 にかっと笑ってルグナンシェが手を出してきた。握手を求められたのだろうが、残念なことにその手に乗せられたのは開かれた参考書だった。


「ええ、そうですね。では早速ここの解説をお願いします」

「……俺、握手返してほしかったんだけど」

「敵意や害意がないとわかれば、後はどうでもいいです。早く解説してくださいよ」

「鎌かけてきたんじゃねえのか……」


 私は参考書から顔を上げて笑顔で言った。


「ええ、そうですよ。両方です」




 何気にアクセス解析チラッと見てみました。こんな拙い文章を読んでくれる人がいることに、なんか、こう、ぶわっと来ました。そして、投稿した当日に読んでくれる人もいたことにまたも、ぶわっときました。

 ありがとうございます。

 こんな素晴らしい機能があったならもっと早く気付けよ私。


 予約投稿の時は、大体三日後の12時に設定しています。投稿日数があまり開かないようにと、自分のモチベーションの為です。


 次は学校です。

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