表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気がついたら戦時中の魔界に転生してました  作者: 夜泉
序章 転生した世界
1/15

1 気がついたら戦時中の魔界に転生してました

 建物が崩れ凄惨な音を響き渡る。頭上は幾多の閃光が通りすぎ、無惨に逃げ行く人々を射殺する。視界の至る所は赤に彩られ、残酷な図を描いていた。

 そんな中、前世の記憶を取り戻した私の記念すべき第一声。


「えっ」





 気がついたら戦時中の魔界に転生してました




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 私は詞葉(ことは)平船 詞葉(ひらふねことは)15歳。卒業式を終え、今年から憧れの高校生になる筈だった、至って普通の中学生。


 ……だった、とでも言うのだろうか

 この場合


 突然の状況変化に暫く呆然とした。しかし、徐々に沸き上がる混乱と同時に周囲の状況が頭の中に入ってきた。そして、逃げ惑う人々の悲鳴や、瓦礫の耳障りな音が思考を掻き乱していった。現在、詞葉の心を満たしているのは、不安や恐慌といった感情ではなく、混乱だった。今の状態に現実味が無いというのも理由の一つだが、唐突過ぎる前世の記憶の復活と今世の記憶の混濁も理由だったのだ。


 ……いや待って、待って待って!!

 何これ!?

 何が起こってるの!?


 そんな私の混乱する状態を嘲笑うかのごとく、ヒュッ、と風を切る音と共に青い光が頬を横切る。


「ひうっ……!」


 声にならない悲鳴が飛び出した。混乱した思考が機能を停止させる。思い出したように湧き出る恐怖に身体を強張らせ、自分の前にあった大きな肩にしがみついた。

 何が起こっているのかわからない。いや、分かっていた。安全だった筈の母の故郷が、戦場になったと。しかし、平船 詞葉としての思考がその事実を否定する。


「奥様、お嬢様、こちらです!」


 私の後ろから人々の悲鳴に紛れ、従者の声が上がった。何故、それが従者の声とわかったのか、私には理解できなかった。けれど、良かった、と心に広がる安堵が、私の心を酷く落ち着かせてくれた。




 私は冷静になった頭を使い、周りの状況を確かめた。今はガタガタと馬車に揺らされ、獣の耳の生えた女性に寄り掛かっている。窓からは赤くなった空が見え、先程の戦火を連想させたが、馬車が走ることで少しずつ赤は薄れていく。


「怖い思いをさせたわね、エレン。もう大丈夫よ」


 獣の耳の生えた女性が、私の柔らかい紅の髪を撫でる。


「ええ、お母様」


 私は獣の耳の生えた女性……いや、私の母親に返事を返した。そして、深呼吸をして目を閉じ、自分の記憶、エレネイアの記憶を探った。


 私は平船 詞葉

 でも今は、エレネイア・ベネフィッド

 ちなみに愛称はエレン


 私の中にある、二つの記憶。そして、エレネイアの記憶が裏付けるこの場所の情報。

 私はエレネイアになっていたのだ。


 訳がわからない……


 私は心の中で大きな溜め息を吐いた。平船 詞葉(わたし)の最後の記憶は歩道橋の光景だった。だが、いきなり記憶が途切れていて、その先がわからない。唐突に途切れ、気づいたら母親に抱き抱えられ、戦火の中を横切っていたのだ。私の衝撃は計り知れなかった。気づいた瞬間逃げ遅れて死ななかっただけでもまだマシと言えるだろうか。いや違う。この逃走中の状態も全然マシじゃない。


 そもそもだよ?

 なんでこんな事になっているのか、根本的なものがわかってないよ?


 ありきたりなのが転生だろうか。それとも、一時的に憑依しているとか、そんなだろうか。


 もしくは、平船 詞葉としての記憶が、戦場に巻き込まれた時のショックで見た幻……とか?

 嫌だ、それ

 それだけは嘘であってほしい

 目を覚ましたらこっちが現実でしたなんて冗談も大概にしてほしい……


 そもそも前世の記憶(仮)だったとして、どうしてこんな所にいるのか理解できない。死んだ覚えがまるでないのだ。


 とりあえず、死因が無かったか記憶を掘り返して……ん?

 いや、ちょっと待って

 私は歩道橋を渡っていたよね?


 脳内でシュミレーションをしてみた。


 私が卒業式を終え、学校からお家に帰る為に歩道橋を渡る。

 早く帰ってゲームをしたいな、と上の空で歩道橋を渡る。

 階段に差し迫ったことに気づかず、足を踏み外す。

 当然、踏ん張ることが出来ず長い階段をずり落ちる。

 その際、階段に強く頭を殴打される。

 死亡。


 …………………………ありえる

 いや、どう考えてもそれしかないじゃん


 そういえば私は注意力散漫だって前から言われていた。そんなことがあっても不思議じゃない。

 否定できないことがもどかしい。


 いや、だってさ、死因が歩道橋で足を踏み外し頭を強く打ったって、何だよそれ


 高確率でそれが正解だと分かっていたが、即座に否定した。そんなことはない何かの間違いだ、と頭の中で違う可能性を考えようとしたら、嫌な予想が脳裏に浮かんだ。


 仮に……、仮にだよ?

 もし私がそれで死んで、転生したのが正解だとしたら…………


 寝そべるように階段にもたれ掛かる、だらしない格好になった私が脳裏に浮かぶ。白目を剥いた私が行き交う人達の注目を浴びせられて……


「いやあああああああ!!」

「エレン!?」


 頭を抱えて悶える。


 よし、落ち着け、私

 それはナシの方向で

 考えないようにしよう

 うん

 とりあえず、今の私はエレネイアになった、とだけ覚えておこう

 それが現実的だ、それがいい


 私が心の中でそう決定すると、いきなり馬車の外に投げ出された。今度は何だ。


「エレン、怪我はない!?」


 本日二度目の大混乱を前に、抱き抱えられ、地面に不時着した私には返答することができない。くるくる変わる状況の性で、追い付きかけた思考がまた置いていかれた。

 私が前を向くと、転倒した馬車が炎上していて、白いマントを羽織った複数の人が冷たくこちらを睨んでいた。


「ハウルィーツェとその娘、エレネイア。貴様達の命、この“純潔”のカレンタが貰い受ける!」


 薄い緑の髪の女騎士が、射殺さんばかりの目付きで怒鳴ってきた。敵にロックオンされ、またもや命の危機が迫ってる。一難去ってまた一難とはこの事か。神様は私に恨みでもあるのか。


 えええええ……と心の中で呟いていると、お母様が私とマントを羽織った人達の間に立ちはだかるように臨戦態勢になった。


「エレン!!逃げなさい!!」


 切羽詰まった声で、思考放棄しかけた私の意識を正気に戻した。


 そうだ、現実逃避してる場合じゃなかった!!


 急いで身体を起こした私は、少しでも距離をとるために駆け出した。


「逃がすか!」


 敵の一人が私に狙いを定め、追いかけてきた。右手に持つレイピアのような鋭い剣は、先が妖しく光を放ち、私に近づいてくる。

 ひいぃぃ!と心の奥で悲鳴をあげていると、突然甲高い音をたてて私を追う剣が弾かれた。


「わたくしの娘に何をなさるおつもり?」


 思わず振り返ると、そこには先程までの凛とした佇まいの母親ではなく、猛々しい獣人になったお母様がいた。


 お母様がパワフル!?


 人のものだった両腕は、銀色の美しい毛並みに覆われ、鋭利な爪が光っている。首もとや頬辺りにまで毛に覆われていて、口からは狼のような犬歯が覗いている。

 というか、まんま狼に変身してた。


「エレン、さあ早く!!」


 呆けていた私は、はっ、と気が付き、一目散に走りだした。




 はあ、はあ、と肩で息を整え、後ろを確認した。こんなに走ったのは、小学六年生の運動会以来か。こんな状況だというのにくだらないことを考えていたが、誰かが追ってくる気配はないようだ。見事、お母様が食い止めてくれたみたいだ。


 良かった……

 なんとか生き延びた……


 はあ、と溜め息をついて汗を拭うと、そのまま地面にへたり込んでしまった。今度こそ本当に安堵した。


 大体、さっきから一体、何で私はこんな目にあってるんだろ。


 気がついたら戦場にいて。

 安心したと思ったら馬車を放り出されて。

 お母様が敵を食い止めている間に必死に走って逃げて。


 本当、何で私がこんな目にあってるんだろ。


 でも、幸いなことに私は逃げ延びれた。このまま進めば領地を区切る門まで辿り着けるだろう。そこで保護して貰えばいい。私は助かることができるだろう。


 ……じゃあ、お母様は?


 どくん、と胸の中で、嫌な音が響いた。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 耳障りな金属の音が自分の周りを交差する。致命傷を避けてはいるものの、そろそろ限界が近いことを感じた。


「チッ、獣風情が……まだ倒れぬか」


 カレンタと名乗った人間が憎々しげに舌打ちを打つ。カレンタの持つパルチザンは、滑るように斬撃を放ち、間合いを詰めていく。しかし、ハウルィーツェの鋭い爪に攻撃を逸らされて、未だ致命傷を与えられずにいた。勝負は拮抗して見えたが、実際にはハウルィーツェの方が部が悪かった。カレンタは、仲間の支援魔法で身体能力が上がっていたし、小さな傷もすぐに回復してもらっているからだ。そして、この特殊武器のパルチザン。


 周りに待機する人間共は4人

 カレンタがいなければすぐにでも八つ裂きにできる位の実力しかないですが、カレンタがいる以上不利な状況に変わりはない

 ですが、娘のエレンは逃がすことに成功しました。後は時間稼ぎをするだけです!


 ハウルィーツェは、自分が助かることを毛頭考えていない。死は確かに怖かった。けれど、その胸に秘めるのは絶望ではなく、魔族としての誇りだった。

 魔族は基本、立ち向かうと決めた相手には、絶対に背を向けない。その意地にも似た性質の性で、魔族達はいつも人界に侵攻することができなかった。部が悪い敵相手でも決して背を向けないので、主力を討ち取られてしまうからだ。

 しかし、ハウルィーツェはその魔族の性質が嫌いではなかった。魔族の、自分自身の生き様を堂々と誇るようなその姿が、大好きだったからだ。

 だから、ハウルィーツェは逃げない。


「人間共よ、只ではここを通さぬぞ!!ここを通りたくばわたくしの屍を越えてゆくがいい!!」


 根源に潜む恐怖を思い出させるような、長い大きな咆哮が空気を震わせる。人間共が怯んだのを視界に捉え、その一瞬の隙にカレンタの首を搔き切ろうと右手に力を込めた。


 だが、その攻撃が当たる前に異変は起こった。


 突然、カレンタを除く4人の人間共が地面に崩れ落ちたのだ。


「ハンス!?ミール!?メルリーウ、ヴァルまで!?」


 カレンタが驚愕に目を見開き、仲間達から反応がないことに戸惑った。そして、未だ何もしていないハウルィーツェを睨んだ。


「貴様……私の仲間に何をした!!」


 カレンタは金色の目に憎悪を潜め武器を構えた。


 ……おかしい

 わたくしはこの女の喉を掻き切ろうとはしましたが、後ろにいた4人に攻撃をしたつもりはありませんでした

 一体何が……?


 ハウルィーツェもカレンタと同じく、予想外の出来事に戸惑いを感じていたが、素早く戦闘態勢に戻った。戦闘では、少しの判断ミスが命取りになる。戸惑ったから動きが少し止まった、なんて絶対にしてはならないのだ。その時、ふと薄い魔法の残滓が自分のななめ後ろから感じ取れた。自分の魔法の残滓によく似た、娘の魔力の残滓が。


「よくも私の仲間を……お前か!!」


 思わず残滓の先に目を向けると、カレンタの吠えた先と同じ方向に、涙目の小さな子供が、逃がした筈のエレネイアがいた。




 2~4日に一話、投稿するのが目標です。飽きやすいので、前は気が向いたら投稿、という形だったのですが、今回は続けられるよう頑張ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ