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さすらい猫のマリアンヌ

作者: 柚紀

私は猫、さすらいの旅を続けるさすらい猫のマリアンヌ・・・野を越え、山を越え世界中を旅している。海を渡る船にも乗ったことのある全国津々浦々の旅をしてきた。そんな私の目的は素敵な殿方にこの命を捧げたい・・・という人生をかけた思いの旅なのである。色々な街に立ち寄っていろんな男と出会ったが、なかなか自分の命を捧げられるような殿方とは巡り会えず今日もまた旅を続けている。


 ここは南のとある村だ、夜のとばりも降りてバーなんぞにしゃれ込もうという気分になり村の酒場に入る。そこのカウンター席に後姿からも漂うイケメンオーラを放つお犬様がいた。私は

「・・・となり、いいかニャ?」

 と話しかけると、返事も待たずに席に着く。

「どちらさまだワン?もしかしてどこかで会ったことがあるのかワン?」

 なんとも渋い声、一言一言が身体を震わせるような感覚に陥る。これはもしかして一目惚れ?ヤダ私ったら一言にこんなに反応しちゃって・・・。

「は、初めましてニャ。あの・・・お一人ですかニャ?」

「あぁ、今日はこの酒場で酒を飲みたい気分になったから一人で来たんだワン。今日のような月が綺麗な夜はバーボンに限る・・・ワン」

 ゾワゾワっと身体が反応する。やっぱりこの殿方こそ私が求めるお方なのではないかと思うと身体の芯からなにかあったかいものが広がる。

「あ、あの・・・彼女とか奥さんとかそういう心に決めた方は貴方にはおられますかニャン?あの、あの・・・やっぱりいいニャン、なんでもないニャン」

 自分の暴走っぷりに自分で訂正する有様。もしかしたら、変な子って思われたかもっと不安に思いながら相手の反応を待つ。

「・・・残念ながら今はそんな相手はいないワン。三年前に最愛の妻を亡くしてからはそういう人には巡り会えていないな・・・もしかしたらもう誰とも出会いなんてないかも知れないって思ってるんだワン。おっとすまない、こんな話を初対面のレディにしてしまうなんてな・・・気を悪くしないでおくれワン」

 ズッキューン!と胸に何か矢的なものが刺さったような感覚になる。胸が痛い・・・この方を慰めたい、もういっそこの方と添い遂げたいと思った。

「あの、その奥さんのかわりにはなれないですけど、私が貴方と一緒にいてはダメですかニャ?初めて貴方を見た時から私は貴方に一目惚れしてしまったみたいニャ、私はさすらいの猫・・・一生を捧げられる殿方を探して世界中を旅してきたニャ。しかし、そういう方との出会いは今までなかったのですニャ。だけどこの村で出会った貴方に一発で惹かれる何かを感じたニャ。貴方こそ運命の殿方ニャ」

 思いのたけが爆発する・・・感情を隠すことなくぶつけてしまった。少しの後悔と同じくらいの期待、残りの空腹が入り混じり頭の中は大混乱を起こしていた。そこに、

「すまない、君の気持は嬉しいし・・・君のような飛び切り可愛い子に好いてもらえるような僕ではないと思う。家も裕福な家ではなく貧乏農家だし、僕なんかと一緒になっても幸せにはなれないよ・・・それよりももっといい暮らしが出来るような相手を探した方が君のためだよ、それに僕は君のように若くない」

「お金なんて関係ない!貧乏上等!年上上等!私は好きだって言ってんだ。そんなグチグチした答えは求めてないっ・・・あんたはどうしたいのかニャ」

 頭に血が上りつい言い過ぎた・・・言った後に後悔する。

「はい!こんな僕でいいのならよろしくお願いしますワン!」

 今までのクールな感じから一変して、ハツラツ新入社員みたいにシャキッと背筋を伸ばして勢いよく頭を下げた。

「よしっ、ってす、す、す、すいませんニャ。あんな大声出して・・・その、気が動転しちゃってつい・・・・」

「フッ、構わないさ・・・少々驚いたが気にはしてないからさ、気にしてないから。あのさ、よかったらこれから僕の家に来ないかワン?」

 少し声が上ずっているように感じたが、家に招待されてそんな些細なことは頭から吹き飛んだ。

「はい!では行きましょうかニャ!」

「ちょっ、ちょっと待ってワン。とりあえず会計するから」

「もう、おそいニャ」

 慌てて会計をするのを待ちながら催促する。そして会計を済ませて出入り口に向かいながら話しかけてくる。

「じゃあ、行こうかワン。外は暗いから手でも繋いでいこうかワン」

「はいニャン。手を繋ぐニャン」


 そうして二人は夜の闇に消えて行ってのであった・・・・。


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