余命
「あくまで、一般的な数字ですよ。」
六疊ほどもない病院の一室で、私はいわゆる余命宣告というものを告げられた。
自分の人生の幕が降りるまでの残り時間だ。
医師の口から出た数字をどうにか咀嚼し飲み込もうと試みるが、この味気ない消しゴムは私には硬すぎるみたいだ。
ひょっとしたら病の影響だろうか。
その後も医師は病や治療について、淡々と説明しているみたいだが、私の耳には届かない。
余命宣告を受けた私には、怒りや悲しみといった全ての感情も失われ、水に溶ける絵の具のように自分の意識が少しづつ薄まっていくのがわかる。
重力に逆らわず、川の流れに逆らわず、自然に逆らわず…。
それからしばらくして医師が全ての説明を終え、快活とした表情で私に選択を委ねている。
その時、医師がどのような選択を委ねていたのかは定かではないが、私が選択をすることはなかった。
幕が降りる瞬間だった。