エピローグ
エピローグ
「え、この猫アイラなのか?」
場所を茨木家へと移した一同は、そのままレムのバースデーパーティへと突入した。
最後の最後までその姿を現さなかったアイラだったが、なんとその姿を突然見せた茨木家飼い猫アリアがアイラだったという事実がレムより伝えられた。
「そーだよね~?」
「にゃー」
アリアが茨木家で飼われていたのは光太がまだ小学校に上がる前のこと。当時、光太はアリアのことが大好きで、家にいるときはずっと一緒だった。しかし、ある日いきなり姿を消し、散々行方を捜したが見つからず、しばらくの間はずっと寂しい思いをしていた過去があった。
「アタシも覚えてるよ。光ちゃんってばアタシが遊びに行ってもずっとアリアの相手ばっかしだったよね」
「にゃんにゃーん」
アリアも『そうだった、そうだった』と言っているふうに首を上下にさせていた。
「で、なんでアイラは猫のままなんだ?」
どうして猫の姿で現れたのか、そしてどうして人の姿に戻らないのか。その理由は同じケット・シーである美森が話してくれた。
「力を一時的に使い果たしてしまったんだと思います。私たちケット・シーの本来の姿は猫ですから。その姿の方が力を必要としないのです」
「力を使い果たした? レム、あの後アイラに何があったんだ?」
「えっとね、アイラとレムはね、学校の屋上にいたの。でね、コータがまっくらなのに入っていっちゃったのを見たから、アイラがレムのこれを持ってその中に入っていったの」
そう言ってレムが見せたのは紛れもなくアウロラブルーだった。首から下げれるように装飾されていたそれだが、今は四つの破片と化していた。
「アウロラブルーは力を受け渡す際の触媒ですから、アイラは茨木くんを救うために、それを使って全ての力を譲渡したのだと」
それでアイラはアリアの姿のままになってしまっている。
「あ、でも俺も同じの持ってたんだけどな」
光太はポケットに入れていた、王女からもらった方のアウロラブルーを取り出した。
「え?」
「にゃん?」
それを見た二人、正確には一人と一匹が驚いた。
「それ、アウロラブルーじゃないです」
と、美森。
「にゃー」
とアリア。
「じゃあ、何なんだ? 多分これのおかげで予知を視られるようになったと思うんだけど」
「それは『碧猫の瞳』と呼ばれるケット・シーの秘宝です。光にかざすと違いがわかりますよ」
言われるままに蛍光灯の光にそれをかざしてみる。すると、まるで猫の目のような模様が石の中に浮き立った。
「あの、どこでそれを……?」
「ああ、王女に貰った。夢で」
未だにあの時の夢は不思議でならない。予知夢とはまた違う、夢で渡された物が現実となった唯一の例だった。光太としても説明するのが難しかった為、簡単にそう言ったのだが、美森はそれで十分納得してくれたようだった。
「ああ、そう、なんですね。きっと国が襲われた時、王女様に託したんだと思います。きっと魔女が欲しかったのはその石だったはずですから。王女様はそれを守り抜いて、きっと茨木くんに託したんです。一つ、嬉しい事実が知れてよかった……。魔女に奪われたと思ってましたから」
この『碧猫の瞳』はケット・シーの力の源でもあるらしい。アウロラブルーはこれを元にして作られたそうだ。もしこれが魔女の手に渡っていたら、もっと酷いことが起きていたかもしれない。
「きっと、その石の力が大きかったと思います。私たち全員のこと守ってくれたんですね」
あの黒い影を消し去ったのは碧い光だったそうだ。
学校全体を包むほどの光の柱。影に取り込まれた者たちはその光に包まれて目を覚ましたらしい。その柱も終息し始めた、最後の最後に目を覚ましたのが光太だったようだ。
あの時聞こえた声。
――ありがとう。
という一言。あれは王女の声だったと光太は思う。
王女はきっと、あの場面こそ予知していたのではないだろうか。
レムが大人になる唯一の道。
呪いをかけられたことも、氷で眠らされたことも、三百年経った今に目覚めたことも、光太の家に来たことも、光太が夢を視たことも、この石を託したことも。
全てがそこに繋がっている。そんな気さえした。
「これ、返した方がいいかな?」
ケット・シーにとって大切なもの。
しかし、美森は、
「あ、いえ……。茨木くんのお好きなように」
と、光太の意図をわかっているようだった。
「ありがとな。ほら、レム」
光太は『碧猫の瞳』をレムに手渡した。
レムのアウロラブルーは割れてしまった。母からもらった大切なもの。これも同じく王女から渡された物なのだから、代わりにはなるかもしれない。
「くれるのー?」
「ああ、お母さんからの誕生日プレゼントだよ」
そう言うと、レムは嬉しそうな笑顔を光太に向けて、その石を抱きしめた。
その顔は、夢で王女に見せた信頼に満ちたあの笑顔そのものだった。
『こうして眠り姫には夢にまで見た笑顔溢れる未来が訪れたのでした』
童話の最後はこう締めくくろう。
光太はそんなことを思いつつ、レムの笑顔を眺めていたのだった。
終わり




