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エミリーちゃんを幸せにする

「えー、うちとか三か月同じ人と付き合ったことないわー」

「うけるー、エミリーちゃんは吉和君と付き合いだしたのっていつ頃?」

「二年の夏にアバンチュって純潔散りましたねえ」

「いいなあアバンチュ、私初めてが男子トイレだったよー」


 高校三年生になって2か月。クラスの女子とアホな会話をしている、無事に同じクラスになれたエミリーちゃんを眺めながら、同じようにクラスの男子とアホな会話をする。去年の今頃はクラスの女子なんて馬鹿ばっかりだと見下していただろうに、人は一年で結構変わるものだ。


「しかしまあエミリーちゃんもこの高校に馴染んじまったなあ。どうよ、悲しいか?」

「悲しい?」

「昔はもっと真面目でいい子だっただろうに、アホな女子の仲間入りだぜ?」

「いいんじゃねえの。今の方が楽しそうに見えるよ、彼氏的には」

「そんなもんかねえ。ま、馬鹿でも人生楽しめるよな」


 エミリーちゃんは今の自分をある程度受け入れる気になったようで、弱者なりに人生を楽しもうとクラスメイトとも交流を深めようとしているし、私を壊した世界に復讐してやるだなんて気持ちも失せたようだ。高名な心理学者からすれば、思春期特有のうんたらかんたらで片付けられるのかもしれないけれど、今の彼女に至るまでに、随分と俺は頑張ったと思う。


「それじゃ、またねー」

「さようなら。さ、帰りましょうか吉和さん」

「ああ」


 放課後になり、いつものように二人で一緒に学校を出る。世間の目は、今のエミリーちゃんをどう評価するだろうか。不幸な事件があって、底辺高校にやってきて、結局底辺に染まってしまった可哀想な人間だと評価するのだろうか。それとも、俺や周りの連中のように、自業自得の言葉で片付けられるのだろうか。


「晴れて健全な女の子になった私ですけど、悪い事しないってのもなんだか物足りないですねえ……本格的にタバコでも吸ってみましょうか」

「タバコはやめようよ、女の子だしさぁ……俺だって必死で禁煙中なんだから、エミリーちゃんが吸ってたら禁煙できないよ」

「はいはい。それじゃあ、たくさん不純異性交遊しましょうね」

「それなら、へへへ……」

「気持ち悪いですね……」

「……」


 結局は俺は馬鹿な癖に彼女を幸せにするだなんて荒唐無稽な事を言っているチンピラAでしかなく、エミリーちゃんはちょっと不幸な事があったくらいでやさぐれて開き直って堕落してしまったチンピラBでしかないのかもしれない。下手すりゃ俺は更生できるかもしれなかったエミリーちゃんを駄目にした悪役扱いかもしれない。


「そういえば結局進路どうしましょうかねえ……なんだかんだ言って大学は行きたいですし……よし、吉和さんも一緒に猛勉強して、いい大学入りましょう!」

「えー俺は無理だよー、高校出たらどっかのライン工でも……」

「私を幸せにするって言葉は嘘だったんですか? 今の時代、高卒やそこらの底辺大じゃあ幸せな家庭は作れませんよ。それに、一緒にキャンパスライフ楽しみたいです」


 いや、違う。そもそも俺達はまだ完全に終わってしまった人間ではない。エミリーちゃんは現状を受け入れたが、それは前に進むためなのだ。今の環境も悪くないとモチベーションを高めて、成長しようとしているのだ。


「……よし、やってやろうじゃないか。一緒に現役合格目指そう!」

「でも彼氏だけ浪人して後輩になるってシチュエーションも結構楽しそうですよね」

「ええ……?」


 そんな前向きになれたエミリーちゃんに触発されたのか、俺も前向きに人生設計をしようとするがエミリーちゃんに早速酷い事を言われる。困惑する俺を見て、彼女はちょいワルっぽい微笑みを返す。その笑顔が、少なくとも俺にとっては堪らなく魅了的だった。

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