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エミリーちゃんはチョコをくれる

「後1ヶ月ちょっともすればホワイトデーですね。私ゴデュファのチョコでいいですよ」

「いやいやエミリーちゃんどうして既にホワイトデーのお返しの話になってるのさ順序がおかしいよ」


 現在2月11日金曜日。デパートに行けばバレンタインフェアで色んなチョコレートを見ることができる

 今日この頃、エミリーちゃんはまだチョコをあげてもないのにお返しの話をするという厚かましさを見せつけてきた。


「しょうがないですね、じゃあそこのコンビニで手作り風のチョコ買ってきます」

「手作り風じゃなくて手作りにしてよ!? しかもコンビニで買わないでよ!? バレンタインに初めて母親以外からチョコを貰えると浮かれている男の純情を弄ばないでよ!?」

「うわ……」


 彼氏へのバレンタインのチョコレートをコンビニで済ませようとするエミリーちゃんに必死に手作りチョコをせがむ俺。必死にもなるというものだ、今まで貰えた貰えたと小躍りするクラスメイトを歯ぎしりしながら睨みつけるだけだったのが、小躍りする立場になるのだから。


「わかりましたよ手作りチョコあげますよ……そうだ、私バレンタインでやってみたかったことがあるんですよ」

「やってみたかったこと? ああ、自分の身体にチョコを塗りたくって私を食べてってやつ?」

「うわきも」

「……」


 普通に引かれてしまい目を逸らす俺。正直自分でもきもいと思っている。だが、仕方のないことだ。リボンを身体に巻いて『プレゼントは私』とチョコを身体に塗って『バレンタインのチョコは私』は男のロマンなのだから。


「漫画とかで、馬鹿な女がクラス中の男子にチョコあげてお返し貰おうとかやってるじゃないですか。あれ、やってみようかなって」

「確かにクラスメイトに義理チョコをあげる女子はいるけど、クラス全員にあげる子って聞かないね」

「でしょう? さっきは馬鹿な女って言いましたけど、冷静に考えたら不細工やキモオタにもチョコをあげるなんて女神ですよね」

「勘違いされたら怖いしね」


 確かにクラスの男友達に義理チョコをあげて「お返し期待してるね」なんて言う女子はいる。義理だとわかっていてもそういう存在は男子達にとっては有難いものだ。俺は貰えなかったけど。


「そんなわけで私は女神になろうと思います」

「うんうん、偉いねエミリーちゃんは……駄目に決まってるだろ」


 ひねくれ少女から女神へと変貌を遂げようと決意するエミリーちゃんだが、今回ばかりは俺が許さない。ふてくされた表情で彼女を睨みつけると、子供ですかとエミリーちゃんが呆れる。


「なんですか吉和さん。『お前は俺の女なんだから他の男にチョコを渡すのはNG』とか思ってるんですか、いつの時代の男ですか」

「思うよ! 思うに決まってるよ! 浮気だよ? 義理だとしても精神的な浮気だよ!?」

「狭量な男はモテないですよ」

「なんで彼氏にその台詞を言うのさ……お願いだよおエミリーちゃん、義理チョコをクラスメイトにあげる分俺へのチョコを豪華にしておくれよお、ゴデュファでもヘルシーズでもお返しするからさあ」


 エミリーちゃんの肩をゆっさゆっさと揺さぶって懇親のお願いをする俺。エミリーちゃんは無情にも肩の手を振り払い、俺を鼻で笑ってチョコの準備がありますからと去っていくのであった。


「畜生……畜生……」


 俺は去りゆくエミリーちゃんを見ながら、別に振られたわけじゃないしチョコだってくれるのにどうしようもない絶望に打ちひしがれるのだった。





「はい吉和君、チョコあげる。あ、でもエミリーちゃんいるからダメだったかな?」

「いや、構わないよ。ありがと。お返しはちゃんとするよ」

「よろしくね~、あ、近藤君近藤君、チョコあげるー」


 そして週が明けていよいよバレンタインデー。俺達の目の前には、クラスの男子全員にチョコを配る女神のような女子高生があわただしくクラス中を回っていた。


「……いましたね、女神」

「いたね」

「私がやったら二番煎じですよね」

「だよね」


 自分がやろうと思っていたのに先を越されたエミリーちゃんは、ため息をつきながら俺にラッピングされたハート形のチョコを手渡す。


「はい、吉和さんお望み通り手作りのバレンタインチョコですよ」

「……! うひょー! ありがとうエミリーちゃん! 大切に保存するよ」

「いや食べてくださいよ。それから」


 小躍りする俺を呆れたような目で見ながら、次にエミリーちゃんは大量の市販チョコレートが入った袋を俺に渡してくる。


「そしてこれはクラスメイトにあげる予定だったチョコレートです。全部食べてくださいね」

「複雑な気持ちだなあ……ていうかカカオ99.9%って。凄い苦いやつじゃん、これをクラスメイトにあげるつもりだったの? 嫌がらせにも程があるよ……」

「彼女より先にクラスに配らなくて正解でしたね……私の評価が酷い事になるところでした」


 クラスの男子からの評価がうなぎ上りとなっている女子を見ながら、ほっと一息つくエミリーちゃん。俺はとりあえず市販の方のチョコレートを一口食べながら、ひどく苦い恋の味に苦しむのだった。

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