エミリーちゃんは知り合いを演じる
「あれ? 恵美ちゃんだよね?」
「え? ああ、はい」
「久しぶり。彼氏?」
「ええ、まあ、そうですね」
「お幸せにねー」
ある日の放課後、エミリーちゃんと一緒に帰っているとOLらしき人にエミリーちゃんが声をかけられる。狼狽えた様子で返答するエミリーちゃんと当たり障りのない会話をすると、その人は去っていった。
「……今の人、誰なんでしょう」
「え、知らないの?」
今の人について聞いてみようか、でも特に親しくもない人だったらエミリーちゃんもその人の事を話すのに困るだろうなあなんて思いながらしばらく歩いていたのだが、エミリーちゃんはそもそも今の人を知らなかったらしい。
「はい、記憶にないですね。きっとあれですよ、知り合いを演じて相手を困惑させようなんていう悪趣味な人間なんです」
「いや、思い切り恵美ちゃんって言ってたよ、名前知ってたよ」
「……まさか、私に敵意を持った人間が、集団ストーカーして嫌がらせしているのでは!? ガスライティングです」
「被害妄想だよ凜子ちゃん……」
「は? 誰ですか凜子ちゃんって。昔の女ですか? それとも今の女ですか? なんですか私一筋みたいな事言っておいて他に女がいたんですかそうですか」
「ひ、被害妄想だよエミリーちゃん……親戚じゃないの? 名字じゃなくて名前で呼んでたし」
「そうかもしれませんね……よし、私も知り合いを演じてみましょう」
結局先程の女性について思い出すのを諦め、よせばいいのに道行く人の知り合いを演じて困惑させてやろうだなんて陰湿さを発揮。早速前方から、サラリーマンらしき男性が歩いてきた。
「あ、こんにちは」
「……?」
「お母様にはお世話になってます」
「ああ、母の。どうも」
直接本人の知り合いを演じると不審がられるに決まっているので、母親の知り合いを演じるエミリーちゃん。母親がいなかったらどうするんだよと心の中で突っ込みを入れながら、彼女とサラリーマンのやりとりをハラハラと見守る。どうやら彼の母親は習い事の先生をやっているらしく、エミリーちゃんのお世話になってますという言葉で勝手に勘違いしてくれた。
「それでは自分はこれで。母にはよろしく伝えておきます」
特にトラブルを起こす事無く男と別れ、勝ち誇った顔をするエミリーちゃん。きっと男はこの後母親にエミリーちゃんの事を話してそいつ誰だみたいなことになるのだろう。
「いやあ、快感ですね……次はあの小学生にしましょう」
「純粋な子供まで毒牙にかけるんだね……」
続いてエミリーちゃんがターゲットにしたのは小学校中学年くらいの女の子。エミリーちゃんはニコニコしながら少女に近づき声をかけた。
「こんにちは」
「? こんにちは」
「大きくなったわね」
「お姉ちゃん誰?」
「お姉ちゃんは昔君の家の近くに住んでたの、小さい頃は遊んであげてたのよ」
「ふうん、そうなんだ」
絶妙な設定を貫きながら少女と会話するエミリーちゃん。これが女性だからまだ不審がられないものの、俺みたいな男がこれをやったら下手すれば事案が発生しましたと書かれることだろう、女性ってずるい。
「またねーお姉ちゃん」
架空の近くの家に住んでいたお姉ちゃんに無邪気にばいばいをしながら少女が去っていく。それを手を振りながら見送った後、エミリーちゃんはため息をついた。
「どうしたの? 虚しくなった?」
「……さっきの女の人、隣の家の人でした……小さい頃は遊んでもらったなあ」
「酷いねエミリーちゃん……」
自分の薄情さに若干自己嫌悪しながらも、『大人になると、色んな事を忘れてしまうんですよ……』と言い訳をするエミリーちゃんであった。
セルフパロディばっかやってるからアマチュアなんだよ




