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エミリーちゃんはデモに参加する

「戦争反対!」

「戦争反対!」

「憲法守れ!」

「憲法守れ!」


 もうすぐクリスマスという時期、ぼーっとしながら授業を聞いていると、学校の外からそんな声が聞こえてくる。どうやら変な団体が、今度可決するらしい法案に対してデモを行っているらしい。馬鹿で政治もよくわからない俺には縁のない話だけど。


「戦争はんた~い」

「うわあああああ隣の国が攻めてくるううう」

「大丈夫……俺達には、9条バリアがある!」


 デモ隊の声は当然ながら教室の皆にも聞こえており、休憩時間になると男子共が真似をしたりとはしゃぐ。エミリーちゃんも、思い出し笑いをしているようで顔がにやけていた。


「何なんでしょうね、あの人達。平日の昼間に。勤労の義務はどうしたんでしょうか、絶対あいつらニートですよニート。何が徴兵制の危険ですか、ニートなんて盾にもなりやしないですよ」

「偏見が過ぎるよエミリーちゃん、もっと楽しい話題にしようよ」

「そうですね。もうすぐクリスマスですね、私豪華なディナーが食べたいです」

「堂々と言うようになったね……いいよ、バイト代全部使い切るくらいの気持ちで行こうじゃないの」 


 俺達はロボットに乗って天使と戦わないし、最終兵器にもならないし、夏にUFOとも戦わない。俺達がどういちゃつこうがちっぽけな存在だから、日本の情勢なんて変わらないし世界の情勢だって変わらないのだ。だからって世界に無関心でいいわけはないけれど、今の俺にとってはクリスマスのデートの方がずっと大事だった。




「……なんていうか、なんていうか、なんていうかですね」

「あれで2万か……」


 そしてクリスマス。満を持してホテル最上階のレストランで高級フレンチを頂いた俺達であったが、思っていたよりも口に合わずにホテルの前でため息をつく。


「量も少なかったですね……女の私ですら少ないと思ったんですから、吉和さんにしてみれば前菜レベルだったのでは?」

「というか味が薄かったよね……素材の味ってやつなんだろうけど」

「おねだりしてごめんなさい、お金は半分出しますよ」

「いやいや、これもいい経験だから。……流石にカッコつけてスーツまで買ったのは馬鹿だったけど」


 ディナーはいまいちだったが、だからといってクリスマスのデートが台無しになったわけではない。ディナーなんてあくまでおまけ、俺にとってはクリスマスというこの日に彼女とデートができる、それだけで最高に幸せだった。馬鹿な高校生は馬鹿な高校生らしく、牛丼でも食べましょうよと言うエミリーちゃんに賛同して牛丼屋へ向かう途中、騒がしい声が聞こえる。


「クリスマス反対!」

「このような日にラブホテルに行くなど恥をしれ!」


 いかにももてなさそうな男達が、プラカードを掲げて騒いでいる。クリスマス中止だのインターネットでは見たことがあったが、実際にやっている人を見るのは初めてだ。


「……楽しそうですね、私達も参加しましょうか」

「カップルが参加してどうすんのさ……」

「今までデモをする人達を見下しながらも、一体感あって楽しそうだなあって思ってたんですよ、愚鈍になって、よくわかんないけど皆やってるしって感覚で参加してみたいなあって」

「エミリーちゃんはむしろその一体感で感覚の麻痺した人たちの被害者だろう?」

「だからこそ、ですよ」


 悲しい事を言いながら、エミリーちゃんはデモ隊の発言に合わせて拍手をし始める。彼女一人だけ拍手していてはただの酔狂な人間だ、仕方がなく俺も同様に拍手をし始めた。するとどうだろうか、つられて拍手をする人がちらほらと出現し始めたのである。


「おお……我々に賛同してくれる人がこんなに……」


 感慨深そうな顔をするデモ隊の人間だが、エミリーちゃんと俺はひやかしで拍手をしているだけだし、他に拍手をしている人もその場の空気に流されただけだ。誰も彼等の言葉なんて聞いてはいない。


「ふふ……他人を誘導するのって、楽しいですね。さあ、ラブホテル行きましょうよ」

「デモ隊に喧嘩売ってるね……」


 あんな虚しいことをするくらいなら頑張って彼女を作ればいいのに、というのは若さ故の酷な言葉なのだろうか。俺達はデモ隊の言葉を聞き入れることなく、クリスマスをラブホテルで過ごすのだった。




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