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エミリーちゃんは募金する

「恵まれないアフリカの子供達のために募金をお願いしまーす」


 ある日、俺とエミリーちゃんが仲良く学校に向かっていると、駅前で募金をやっている団体と遭遇する。折角だし募金しようかなあと思っていた俺であったが、エミリーちゃんがグイグイと俺を急かすので結局することはなかった。


「けっ、なーにが募金ですか、糞くらえですね」

「どんどんエミリーちゃんの言葉遣いが悪くなってお兄さん悲しいなあ」

「そもそも普通の大人なら働くべき時間に募金活動っておかしくないですか? その分働いて募金しろっていう話では?」

「それもそうだね」

「大体日本人よりアフリカ人優先するなんて国賊もいいところですよ。もっと恵まれない子はたくさんいるじゃないですか、うちの高校の生徒なんて悲惨な家庭環境に悲惨な頭に悲惨な性格に……大金かけてでも更生すべきですね」

「酷い……」


 アフリカの恵まれない子供達程日本人は飢えているわけではないだろうが、それでも過労死する程働く人とか、トラウマから外に出ることもできない人間とか、救いを求めている人間がいるのは確かだ。そういう人間を『自己責任』なんて言葉で片付けて、避妊もせずに親が無責任にポコポコ産んだ子供達には救いを差し伸べろなんてのは、確かにどこかおかしいような気もするけれど、それでも恐らくは善意でやっているであろう募金活動を批判する程俺はひねくれてはいない。けれどもエミリーちゃんはすっかりとひねくれているようで募金活動に文句をグチグチと言い続けたまま学校に到着する。


「今日募金やってたんだけどさー、俺達も募金しね? 『可哀想な俺達に愛の手を』みたいな感じで」

「募金活動するのも許可がいるらしいぜー、許可降りるわけないじゃん」

「よちつらい世の中になったなぁ、本当に世もまつだよ」

「可哀想な奴だな……この可哀想っぷりなら許可も降りるかもしれない」


 教室でそんなアホな事を話しているクラスメイトを眺めながらやれやれと肩をすくめる俺だが、反対にエミリーちゃんはうんうんと頷く。


「そうですそうです、やっぱり『自分は不幸なんだ! 助けてくれ!』ってアピールすることが大事ですよね。私も『私は貴方達に人生を壊されました! 責任とって養え!』って言ってみましょうかね」

「できるもんならやってみなよ……」

「……まあ、その、うち……」


 そんな事を言うエミリーちゃんを軽く挑発してやるが彼女は目を逸らす。彼女はそんな勇気がないからこそこんなことをやっているのだ、そんな勇気はいらないけれど。



「……の手術は日本では行うことができず……」


 放課後、エミリーちゃんと一緒に帰っていると今度は駅前で別の募金活動に遭遇する。放課後で時間はあるしと今回は素通りせずにとりあえず話だけでも聞いてみようとエミリーちゃんを引き留めて募金活動を主導している、難病の子の母親と思わしき人の話を聞くことに。


「うう、手術に1億もかかるなんて……俺こういう話に弱いんだよね……」

「ふん、所詮はネットで得た知識なので信憑性はありませんが、何でそんなにお金がかかるかというと順番待ちを無視するためのお金らしいですよ、外国の真面目に手術を待っている子供を殺して、日本人同士でお金を出し合って日本人を救うんですか、これは最早戦争ですね」

「そうなの……? 外国は保険がきかないとかいうしそっち関係だと思うけどなぁ……」

「私も詳しくは知りませんけどね、だから最初に言ったじゃないですか所詮はネットで得た知識だって。私は連中とは違いますよ安易に情報に溺れて無責任な事は言わないんです……撫でないでください」


 偉いなあとエミリーちゃんの頭をよしよしと撫でる。俺もエミリーちゃんに負けてられない、偉いと言われるようなことをしようじゃないかと財布から500円玉を取り出すとそっと募金箱の中に入れた。


「……褒めませんよ私は。募金活動というものは褒められたくてやるものじゃあないんですから」

「わかってる、わかってるよエミリーちゃん。これは俺の自己満足だよ」

「……私はしませんよ、私はしませんからね、私が募金するのはあのアイス屋に乞食が集う日だけです」

「乞食とか言いながら結局あの日はするんだね……」


 周囲の人間が少額ながら募金をしていくのを冷ややかな目で見るエミリーちゃんだったが、感動的な映画で笑おうと言ったにも関わらず大泣きしてしまう程には感傷的なのだ、話を聞いているうちに同情してしまったのかうるうると涙目になる。


「……私は、私は……」


 ふるふると俯いたエミリーちゃんは財布からお札を取り出すと、乱暴に募金箱の中に入れてすぐに俺の手をとりその場を去る。泣き顔を人前に晒したくなかったのだろう、人気のない場所にまでやってくると俺はそっとハンカチを取り出して彼女に手渡した。


「ありがとうございます……ぐすん」

「偉いねエミリーちゃんは、いくら募金したの? 千円? あ、エミリーちゃんのことだから『微妙に使いづらい二千円札入れてやります』とか?」


 涙を拭いて元の可愛らしくどこか憂いを帯びた顔になったエミリーちゃんを再び撫でながら、いくら募金したのか聞いてみると、図星だったのか目を逸らす。


「……元です」

「元?」

「100元札です……」

「微妙に使いづらいというか換金も面倒だね……」


 それでも俺の4倍くらい募金する優しいエミリーちゃんなのでありました。

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