エミリーちゃんはカンニングする
「もうすぐテストですね」
「せやな」
なんだかんだ言って高校二年生になって3ヶ月が経った。学生諸君にとっては楽しい楽しい夏休みの前に、地獄のテストが待っている。しかし、我が高校に限っては、別に地獄でもなんでもない。
「テスト勉強する?」
「するわけないジャンバルジャンwww」
「オメガ無情www」
何故なら生徒のほとんどが、勉強を放棄しているからだ。いい点とって内申で大学を狙うとか、大手企業に就職狙うとか、そんな考えの生徒は全体の5%にも満たないだろう。底辺の受け入れ先として名高い本校に、成績が悪くて留年なんて概念は存在しないのである。ちなみに俺は一応その5%の中に入っていると自負している。残念ながら俺が頑張ってもいわゆるFランと呼ばれるような大学にすら学費免除で入れたりはできそうにないし、バイトで学費やらを全て賄うなんて夢物語だ。これ以上親に迷惑をかけたくないので、高校卒業したら働くつもりだし、付け焼刃かもしれないけど、中の下レベルには賢い人間でありたい。
「私はそこそこ頭がいいし授業は真面目に聞いているので、今更慌ててテスト勉強するつもりはありませんが」
「俺もエミリーちゃんに触発されたからな、去年よりずっと真面目になった気がするよ」
「……実は私、今年はカンニングしようと思います」
「はぁ?」
意外に思えるかもしれないが、この高校は別にカンニングが横行しているわけではない。カンニングしてでもいい点をとりたいという気持ちすらないからだ。教師は教師で『カンニングしてでも、テスト中に教科書開いてでもまともな点は取ってくれよ……』というスタンスなのか、カンニングで問題になったという話は聞いていない。だからといって、堂々とカンニングしますなんて宣言していいわけではないが。
「昔、カンニングする漫画があったんですよ。あれ読んで、カンニングしてみたいなあって思ってたんです。でも、バレた時のことを思うとできなくて……しかし、この高校はカンニングがばれた際のリスクが限りなく低い! するしかありませんね!」
「うわぁ」
世間じゃ女の子が鉈を振るうだの、美少女がナイフを投げるだの、いいがかりでサブカルチャーの立場が危うくなっているというのに、漫画に影響されてカンニングをする子が目の前にいるなんて。ウキウキしながら早速消しゴムの包みの内側に器用に小さな文字で英単語を書き始めるエミリーちゃん。
「完璧に暗記してるじゃん。書く意味なくない?」
「……!?」
覚えられないからカンニングに頼るというのに、エミリーちゃんは英単語帳を開くことなくカンニングペーパーに書いている。当日にど忘れするとも思えない、一体何の意味があるのか。『オリンピックと同じですよ、やることに意義があるんです!』なんて意味不明な事を言っているエミリーちゃんに苦笑いすると、彼女に構ってばかりいないで少しはテスト勉強するかとノートを整理するのだった。
「よし、今回は全教科平均60くらい取れそうな気がする……」
「ふぁあ……精々頑張ってください」
そしてテスト当日。微妙に低い目標だが、今の俺にとってはこれが精一杯なのだ。カンニング前提だからか、やる気をさっぱり見せないエミリーちゃんの声援を受け、テストが始まる。
「……」
「……?」
集中してテストを解いていた俺だが、奇妙な視線を感じてしまう。いやそんなものはまやかしだ、目の前の問題に集中しろ吉和珍平と気合を入れようとするが、感じる視線が消えることはなく、結局それに苛まれていまいち実力を出すことができなかった。
「うう、全教科50だった……親に『見ててくれ! 今回こそは全教科平均60とるから!』なんて言ったのに……」
「落ち込まないでください吉和さん。私もそんなものでしたよ?」
数日後、テストの結果が返ってくる。テストの結果なんてどうでもいい、夏休みだと浮かれるクラスメイトの中、微妙に目標に届かなかった俺がしょげていると、俺とほとんど同じ点数の答案用紙をひらひらさせながらエミリーちゃんが笑う。
「……エミリーちゃん、俺の答案見てたでしょ」
「あ、バレました? おかげでカンニング気分を味わうことができました。明らかに自分でやるより結果は悪くなりましたけど」
「そのせいで俺も結果が悪くなったんだけど……」
「吉和さんの実力じゃあないんですか? まあ、責任とって夏休みは、私でよければ遊びに付き合ってあげますよ」
その答案用紙を見て、あの時の視線はエミリーちゃんが後ろから俺の答案を見てカンニングしようとしていたものだと気づく俺。俺の恨めし気な表情を見て悪戯っぽく笑う彼女を責める気にはなれず、男って馬鹿だよなあなんて事を思いながら夏休みに臨むのだった。




