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エミリーちゃんは魂を計算する

「吉和さん、凄く面白い話があるんですけど聞いてくれませんか」

「エミリーちゃんの方からそんな事を言うなんて、余程面白い話なんだろうね」


 この日の昼休憩、クラスメイトが持ってきた漫画を読んでいると、エミリーちゃんが少し自信ありげにそんな事を言ってくる。相対的にこの学校の中では真面目なエミリーちゃんが面白いと言うんだから、物凄く面白い話なのだろうと漫画を読む手を止めてわくわくしながら彼女の言葉を待つ。


「『一寸の虫にも五分の魂』ってあるじゃないですか」

「ああ、なんかそんな感じのことわざあるよね、意味はよくわからないけど」

「私、あれの五分を5%って意味だと思ってたんですよ、それで昨日家に蚊が大量発生したんで、ジェドサイドしながら『あー20匹殺したから私もこれで殺人者と同じかー』なんて考えてたんです」

「目の付け所がシャープだね」

「ところが、その後ネットで調べてみると、五分ってのは割合じゃなくて長さだったんですよ」

「ふうん」

「……」

「……」


 面白い話はまだかまだかと期待している俺に、何故かいきなりドヤ顔をかますエミリーちゃん。


「え、これで終わり? 全然面白くないよ!?」

「はぁ? 面白いじゃないですか、感性おかしくないですか?」

「エミリーちゃんちょっとこのネタはお蔵入りにした方が……」


 面白いとかつまらないとかそれ以前にこのネタが活かされる場面なんてないと思う。余程自身作だったのかショックを受けながらも、気を取り直したのかノートを開いて何やらメモをし始めた。


「では高校生ですし、きちんと計算しましょう。一寸ってのは大体3cmで、それに五分……1.5cmくらいの魂があるってことですね。果たして虫を何匹殺せば人間を殺したことと同レベルになるんでしょうか」

「何でそんな発想に至るのか謎だけど、人間サイズにもなると縦の長さだけじゃなくて横とか奥行もあるよねえ」

「そうですね。とりあえず身近な3cmくらいの虫で考えましょうか。3cmくらいの虫……」

「ゴキブ」

「ストップ。……よくよく考えれば3cmもある虫とか気色悪いから想像したくないです……丁度教室で飼っているゼニガメがいるのでこいつにしましょう」

「虫じゃなくなった……」


 教室の後ろ、ロッカーの上の水槽で飼われている小さな亀のサイズを測るエミリーちゃん。縦は3cm、横は2cm、高さは1cmといったところだろうか。体積で考えると6cm^3だ。


「それじゃあ次に私の大きさを測りましょう。縦は150、横は……ウエストが50なので、半分で割って奥行の分をちょっと減らして……20くらいですね」

「え、ウエスト50? 嘘ついてない? ていうか普通肩幅で測るんじゃ……」


 エミリーちゃんは別に太っているわけではないが、ウエストが50というのは相当なガリガリだと思うのだが、俺の突っ込みを華麗にスルーして奥行きを計算し始める。


「足長が……四捨五入して20ってことで」

「アバウトだなあ」

「150×20×20……60000cm^3ですね。亀の体積の大体1万倍。つまり、亀を1万匹殺せば人間一人殺したのと同レベルですね」

「人間様の魂もその程度か……その理屈で言うと、象や鯨は人間よりも魂の器が大きいことになるね」

「畜生風情に劣るというのは、地上の支配者として悔しいですね……いつの日か巨人になることを信じましょう」


 小さな亀を見ながら、俺達もこの宇宙にとってはちっぽけな存在なんだなあとため息をつく。なんで俺は女子高生とこんな意味不明な会話をしているんだろうと、再びため息をつく。


「ちなみにこの話、積極的に使っていいですよ。馬鹿っぽい学生がなんか知的な話をしてるってことでギャップで評価があがるはずなんで」

「間違いなくヤバい人だと思われるからいいよ……知的でもないし」


 こうして俺達は貴重な昼休憩を無駄にしたのだった。亀は俺達の一万分の一程度の魂しかないとも知らずに、悠々自適に泳いでいた。

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