わりとどうでもいい遠征
わりと9-1
そんなこんなで、俺は恥ずかしがる皐月を何とか説得し……手を繋いで眠ることに成功。もちろん、皐月を想うことも忘れなかった。
が。
朝一現れた裏皐月に尋ねたところ、特別バッテリーは増えていないとの事。
つまり失敗した。
……なぜだ。俺の気持ちに嘘偽りなんて……。
皐月は慌てず方法を探そうと言ってくれた。しかし、これでダメとなると……。
「……恭二?」
「へ?」
皐月が俺の顔を覗き込んでいる。それで……今が昼休みという事に気付いた。
「どうしたの? 考え事?」
「ああ……そんなとこ。さて、昼飯どうするか?」
そこに元が現れた。
「二人とも、ちょっと屋上付き合ってくんないかな?」
……気が進まん。
「うん。私はいいけど……恭二は?」
皐月が行くなら行くしかあるまいな。
「いいよ、行こう」
三世がいない事を疑問に思いながら、俺たちは屋上に向った。
わりと9-2
元に連れられ、辿り着いた屋上。そこには……。
俺らに背を向け、カッコつけてる三世の姿が。
……はい、終了。
「皐月、たまには学食で食うか」
「え? ええ!?」
俺に手を引かれた事に焦る皐月。ったく! 昼間からこんな馬鹿に付き合ってられるか!
「ちょっ!? 待ったらんかい!」
慌てて扉の前に現れ通せんぼする三世。俺は元に尋ねる。
「……用事ってこれ?」
無言で頷く。
「おれさまーのーなーやみをーきいてくーれやー!」
レゲエ調に語る三世。……面倒くさい事この上ないな。
すると。
「ねえ、恭二……私からもお願い」
「おっ!? さっすが皐月! マジ天使っ!」
くっ……皐月に言われりゃ、断るわけには……。
仕方ない。
「……何だ? 悩みって」
すると調子に乗った三世は、腕を組み、偉そうにほざく。
「好きな娘が出来たっ! 協力しろ、カス共っ!」
「「……」」
完全にやる気を無くす俺と元。皐月だけは、なぜかおめでとうと言っている。
「……俺から説明するわ」
「頼む」
オホンと咳ばらいする元。
「昨日恭二が藤岡さんに連れられてった後さ……」
「うん……!?」
「……」
な、何だ? 一瞬凄まじく冷たい視線を感じた気がしたんだが……気のせいか?
「さ、皐月さん?」
「藤岡さんと……どこ行ったのかなあ……」
く、くそー! こういう時裏表仕様は刺さるなあ!
「ガハハ! 天罰天罰!」
「……で、その後さ……俺ら宣言通り上山女子にナンパに行ったのさ」
「……やるなあ」
俺にはそんな度胸ない。
「ガハハ! 運だけリア充の君とは違うのだよ!」
「……で、成果は?」
「……マジ問題外。声かけるどころか迷子になる始末……ああ、これ三世のことな? 二手に分かれたんだわ。ちなみに俺はメアド三人分得た」
「……」
「そ、そんな目で見るない!」
ヤバい、哀れ過ぎる。これからは優しくしてやるか……。
「で、そんなこいつにも幸運が訪れたらしい」
「小者三人のメアドなんか比べられない程の幸運さー! 困ってた俺を優しく門の前まで送ってくれた美少女が……」
……お前も運だけじゃねえか。
「で、その送ってくれた人がどうも上山女子の生徒会長らしいんだ」
「……無理だ、諦めな」
「酷過ぎる!」
「そうだよ? 誠意を込めれば伝わるんだから……」
「ありがとう、皐月! マジ天使!」
ま、いいか。表皐月がなんか活き活きしてるし。
「で……俺は何をすればいいの?」
「おっ!? 手掌な心掛けだな!」
ああ、いちいち腹立つ。
「……で?」
「今日上山女子に告白しに行くから、付き合えっ!」
わりと9-3
「……で、なんであたしまで上山女子にいるのかしら?」
不機嫌そうに話す桜花。というのも皐月が「私も用がある」と教室を飛び出し、集合場所に桜花を連れて来たからなんだけど。
「ごめんなさい……私、藤岡さんに聞きたいことがあって……」
俯く皐月。それに対し……。
「……桜花」
と、どこかで見た指摘をした。
「へ?」
「あんたにそう呼ばれると寒気がする。次からそう呼んで」
「うん……桜花……ちゃん」
「……それでいいや」
うんうん、微笑ましい。
「何ニヤついてる?」
「べ、別に!? そういや三世、相手の娘の名前は?」
「知らん!」
校内をキョロキョロしながら、自信満々に答えやがる。
……名前も知らない娘に告白するのかよ。
というか、周りの視線が痛いなあ……。そりゃそうか、完全に不審者だもんな。
「おい三世、こりゃ誰かに聞いた方が早いぞ?」
彷徨うこと三十分、元の提案によりやっとこさ話が進んだ。
「……止むを得ん。あっ! ちょっと……」
逃げられる事数十回、俺たちはやっと三世の思い人の待つ生徒会室に案内された。
わりと9-4
生徒会室の前まで通された俺たち。案内してくれた娘が扉をノックする。
「生徒会長、お客様です」
「どうぞ」
扉が開かれる。そこには校長のかよと思しき豪華な机に向かう、一人の女生徒の姿がある。
……確かに、綺麗だ。長く美しい黒髪に気品漂う佇まい……これぞお嬢様といわんばかりだ。
「……」
「桜花?」
室内へ入る時、なぜか桜花だけ躊躇った。
「へ? ……な、何でも? お邪魔しまーす」
俺らを部屋へ招き入れ、案内してくれた女生徒は帰って行った。
「私にどういった御用で……あら? 貴方は確か……」
三世の顔を見た会長さんから、何とそのような反応が。
……これは、ひょっとしてしまうのか?
「せ! 先日は、お! お世話になりましたっ!」
ガチガチにアガってる三世……大丈夫かよ。
「ふふふ、よろしいのですよ?」
うーん、お上品だな……。何て考えていると、またしても……冷たい視線が……。
「……むう」
「……すまん」
デレデレしてしまった、認めよう……。
「……」
「?」
にしても、アレだな。一番おちょくりそうな奴が……大人しいなあ。
「お! ……僕はむ、村田三世といいますっ!」
「あらあら、後丁寧に。では、私も……」
こんな三世に対して、ここまで真剣に対応する……会長さん、あんた聖女かい?
「私は藤岡秋華と申します。上山女子高等部の生徒会長を務めております」
「……美しいお名前ですね! ピッタリです!」
確かに……藤岡秋華さんか……上品な名前だなあ……ん? 藤岡……どっかで……。
その瞬間。
ピキィィィーンっ!
といった凄まじい閃光。
わかる。これはガーデンだ。
ただ、何となく違う。
桜花が始めに発したもの。
裏皐月が現れる時発するもの。
そのどちらとも違う気がする。身体にじわじわくる重みは、桜花の時が一番キツかった。今回はそれはあまり感じない。
皐月の時は……違和感自体があまりなかった。おそらく俺に配慮して最小限に抑えたのだろう。
そして今……身体は重くならないが、違和感はある。
身体が……異常に肌寒い。
肌寒い? そんなもんじゃない! や、ヤバい……このまま、じゃ……。
「恭二!」
そう発し、なぜか俺の後ろから抱きついた……桜花。
あまりの寒さに、桜花の柔らかな感触を楽しむ余裕は無かった。暫くし、異常な寒気が和らいだ。
「……さんきゅ、桜花が温めてくれたんだな」
「……勘違いすんな、まだあんたに死なれちゃ困るのよ」
背中にしがみ付いたまま、桜花が呟く……死なれちゃ? そんなに重大な自体だったのか……。
一方皐月は特に行動は起こさず、黙って考え込んでいる。
とりあえず、俺は難を逃れた。そして……そして、俺はその術者を真っ直ぐ見据えた。
「……あなたも、ガーデンが使えるんですね」
皐月と桜花は顔見知りの可能性がある。ただ俺にガーデンが効かない(桜花のお陰だけど)のは……彼女にとって誤算なはずだ。少しは嫌味になるだろう。
そんな俺の言葉に、表情一つ変えずに……むしろ笑顔で答える。
「ええ。改めて自己紹介いたしますわ。私は藤岡秋華、ここより遥か彼方、ヴィクトリア都より派遣された者ですわ」
ヴィクトリア……という事は、桜花同じ……って、今更だな。同じ苗字を名乗っている。……つまり。
「秋華さん、ですか。あなた、桜花の……」
俺の言葉を遮り、桜花がその問いに答えた。
「……姉よ、あたしの。そして……あんたと皐月にとって、あたしなんか比べものにならない……危険人物ね」