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わりとどうでもいい条件

わりと8-1


 桜花と別れた後、俺は皐月のことを考えていた。男皐月とは繋がっていないとして、それでも俺が皐月と付き合い続けるわけ。

 友達。

 まあ、友達なんだ。


 なら、桜花は?

 あいつがどう考えてるかはしらない。でも……俺にとって、お前はもう立派な友達なんだ。


 もはや、俺のなかで皐月と桜花に優劣をつけるなんて……出来ない。しかし、どちらかが死ななければ生き延びられない。


「くそ……どうしたら……」


 どちらか一方に加担するなんて、出来ればしたくない。


 でも、俺は皐月のアパートにやって来た。結論はでていない。


 今の現時点、皐月が圧倒的不利。

 そう自分を納得させながら。


 チャイムを鳴らす。もう帰ってると思うけど。

 ドアが開いた。


「はい……って、恭二?」


 そうか、表皐月? は裏皐月と話してた内容は知らないんだった。とりあえず説明だ。


「ほら、皐月まだ勉強とかブランクあるだろ? しばらくここに泊まることにするわ、親の了承はとったし」


 昨日のことも含めてメールしておいた。皐月が記憶喪失になって大変だからしばらく泊まるって、もちろん女になったことは言ってないけど。

 すぐに返事が来た、わかったって。まああの人たちはいつも深夜までは帰らないし……特に問題はない。俺んちにとっては。


 ただ皐月的には大問題だろうなあ……仮にも今は女の子なわけだし、男が転がり込むとかありえんだろう。


「そう……なんだ」


 ああ、やっぱり戸惑ってる。訴えられても文句言えないレベルだな。


「……やっぱ、迷惑か?」


 そう言われれば、引き下がる他ない。裏皐月には怒られるだろうけど……。

 でも、それはなかった。


「迷惑なんて……そんなことない。私も……嬉しいよ」


「良かった」



 胸を撫で下ろす。皐月に迎えられ、部屋へと招かれた。





わりと8-2


 しばらく皐月の部屋に泊まることにした。無茶苦茶な言い分を、皐月は受け入れてくれたこの奇跡。

 夕飯を終え、今皐月がお茶を淹れてくれている。ちなみに今夜はお好み焼きを作ってみた、自信作ではあるが……どうだったかな? 皐月は美味しいって言ってくれたけど……いい加減な男料理だしなあ。


「はい。ごめんなさい……私全然料理出来ないから、恭二にばかり作らせちゃって……」


「いや、いいって。俺が勝手に来てるんだから……これくらいな」


「……ありがと」


 皐月はそういい、湯呑を口にする。はあ……何かいいなあ……新婚みたいで。近頃すっかり勘違いくんになったなあ、俺。


 皐月が湯呑を置くと同時、また世界が閃き……灰色のものになる。


 ……裏皐月が現れた。


「恭二」


 いろいろ言わないといけない事はある。でも……まずは謝らないとな。


「皐月……すまない」


 皐月は意外そうに首を傾げる。


「え? どうして……謝るの?」


「……皐月がいない間にさ、桜花と会った」


 それに対し、特に不機嫌になるといったことはなかった。


「そう……私としては恭二がこうして来てくれたことが嬉しかったんだけどな。で、桜花は何か言ってた?」


「……」


 迷った。言うべきかどうか……。

 でも、皐月に隠し事はしたくない。


「桜花も、俺をあてにしているって」


「……そっか」


 皐月はお茶を一口すする。


「それだけ?」


「後、暫くは皐月を襲うつもりはないってさ。信じる信じないは任せる」


 こういうこと言うのは桜花に悪いけど、あいつの事だ……俺が皐月に教えるなんて始めからわかってるだろう。


「まあ、桜花のことは昔から知ってるから。信じられると思う」


「そっか……」


 何だかんだでお互いをある程度理解し合ってるんだな。


「でも、少しホッとした。正直今桜花と戦うのは……勝算がなさ過ぎるから」


「……」


 桜花は強い。

 皐月は充分に理解している。それでも……逃げることはしない。


 凄いな、二人とも。



「恭二、早速で悪いけど……」


「ああ。俺に出来ることなら」


 皐月は俺の中のバッテリーの実用化の為、ここに呼んだ。

 そして今後は桜花も……それを求めてくるだろうな。


 俺は、どうしたら。


「……恭二?」


「いや、何でも……で、どうしたらいい?」


「とりあえず、手を出して」


「ほい」


 皐月に、右手を差し出す。すぐ、柔らかい感触が。


「辛くなったら言ってね」


「ああ」


 皐月は目を閉じる。しばらくして……心地よいような落ち着かないような感覚が広がる。


「んん……ん……」


 結構、しんどいな……身体からなんか力が抜けていくような……。


 数分の後、皐月が目を開く。


「……ありがとう。離すね」


 皐月の手が離れた瞬間、俺はテーブルに突っ伏した。


「はあ……はあ……で、どうだった……?」


 その問いに、皐月は難しい顔をしている。


「うん……」


「皐月?」


「昨日恭二は私を直すことが出来たから、かなり速効性があるかもって思ってたけど……」


 もしかして……使えない? 俺の表情を見て、皐月は慌てて説明する。


「ち、違うの! ……バッテリー自体は相当な量があったよ? 恭二の存在は凄く心強い。でも……その形式が問題、かな」


「形式?」


「うん。バッテリーは多いけど、それがまだ恭二のものになりきっていないの。外部からの働きかけで解凍して取り出すことも出来るけど……それには取り出す側もバッテリーを要するから、あまり意味はない」


「そっか……昨日皐月を治せたから、役に立つと思ったんだけど」


 残念だな……。


「流石お母さんが作っただけあるな……回路が複雑。もっとも、そのおかげで恭二に害を成さないんだろうけど」


「俺に、害?」


「うん……本来、こういう形でバッテリーを他者に移譲する事って不可能なの。受け容れる側が持たないから」


「そうなのか?」


「うん。バッテリーは身体を休めれば回復するけど、基本的に絶対数は増えないものなの。経験や成長以外にではね」


「でも、それなら何で元々バッテリーのない俺に皐月を治すことが出来たんだろう?」


「おそらく、何らかの条件付きで恭二が扱える仕組みなんだと思うけど……」


 昨日の俺が満たした条件……皐月を助けたい、その一心で皐月の手を握りしめた。


「心当たり、あるかも……」


「ホント!?」


「ああ。とりあえず、今日も手を繋いで眠ってもいいか?」




 皐月を想うこと。これが条件だと俺は確信していた。

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