わりとどうでもいい接近
わりと7-1
「皐月がさらわれた……」
「それ何回目だよ」
「しゃーねーじゃん? ウチのクラス女子強えーし」
五限も遅刻してしまった俺たちには、二人で掃除当番という重い罰が下された。
しかし! 女子グループが「今日は皐月歓迎女子会をする」と仰せで……結局馬鹿どもと三人でやる羽目に。
「はあ……俺ら関係なくね?」
嘘です。助けてくださああい!
「まあまあ、これで終わりだ。憂さ晴らしにこの後ゲーセンでも行くか!」
「……恭二の奢りだからな!」
……二次災害だ。
肩を落としながらゴールキーパーしていると……乱暴に扉が開かれる。
「恭二っ! まだいるっ!?」
……またややこしい奴が。
「あれ? 恭二、藤岡さんと親しかった?」
「……何というか、成り行き?」
「くはー! なぜお前ばかり!? モテ期か!?」
そんな三世元は無視し、ズカズカ俺の目の前にやって来る。
「皐月は一緒じゃないんだ?」
「まあな。何か用か?」
「ええ。いい事知ったのよ、付き合いなさい」
……イイコト?
「ねえねえ、こんな馬鹿よりさ、俺と……」
「……ちょっと静かにしてくれる?」
「はい……」
三世はガックリ肩を落とす。……流石桜花。
「……わかったよ、ちと待ってな」
「早くしなさいよ」
くそう、何でこんなに偉そうなんだよ……こいつ。
「があああっ! 元! ナンパ行くぞ! ナンパ!」
「はいはい……上山女子でいいか?」
「ひゃっほーいっ! 元ちゃん愛してる!」
……うるせーな、馬鹿ども。また桜花に怒られるぞ……ん?
「上山女子……」
と、以外な単語に反応しておいでだ。
「桜花、終わったぞ」
「へ? あ、ああ。……それじゃあ、行くわよ!」
「まあ!? 皐月ちゃん以外にも! 一夫多妻は犯罪っ!」
とりあえず二人に手を降り、桜花と教室を出た。
わりと7-2
桜花に連れられ、小井中央公園にやって来た。平日とはいえ、結構人いるなあ……確かにそろそろ桜の季節だし、噴水前は気持ちいい。マイナスイオンマイナスイオン。
「恭二」
「ん?」
隣のベンチに座る桜花に突かれる。何やら露店を指差している。
「あれ食べたい」
「……へえへえ、買ってくるよ」
全く、痛い出費だな。クレープを二つ購入、しめて千円。……高くね? 昨日浮いた晩飯代が……。
「ほい。チョコと生クリームの奴な」
「ありがと。頂きまーす」
かぶり付く桜花。……可愛いじゃない。いやいや。
……これ、裏皐月? に見つかったら……殺されるんじゃね? 俺。……ま、いいか。俺も食う。……美味い。
「はむ……はむ……。はー美味し……」
「……ん?」
「じー……」
はいはい。
「……食べさしで良かったら」
「あたしそーいうの気にしないから。頂きまーす」
あっという間に完食。でも何か……皐月のカレーといい、桜花のクレープといい……やっぱこいつら、今まで苦労してきたんだなあ……。
「ふー、満足。さて……」
伸びをしている桜花。こんな俺たちは周りから恋人同士に見えるのだろうか? いや、何でもない。
「で、いい事ってなんだ?」
とりあえず皐月にああ言った以上、桜花の出方は知っておきたい。何か騙すみたいで悪いけど。
「ああ、それ。その前に世間話、いい?」
「へ? ああ、なんだ?」
俺と桜花の世間話、ねえ。すぐ、現実を思い知る。
「今日さ、皐月ガーデン使ったよね?」
「!?」
そうだ。学校には、桜花がいる。ガーデンがどれくらいの範囲に及ぶかなんて俺には分からないけど……少なくとも同じ建物にいる桜花が気付かないわけない。
とりあえず俺は桜花の意図を探る事にした。
「……ガーデンなんて、人が大勢いるところで言っていいのか?」
「別に。これくらいで地球人の中枢にマークされる事はないでしょ? ゲームの話? 厨二乙って思われるくらい?」
……何か染まってんな。
「いいのよ? 隠さなくて。猫かぶりモード見せといて実はバッテリーフル充電してましたーなんて、皐月の考えそうな事だわ」
「……そっか」
「……」
ここまで、お見通し。
もし。
もし今夜、また襲われたら……。
今度こそ、皐月の生命は……。
「……何、その顔?」
「へ?」
「どうせ、あたしが今夜中に奇襲するんじゃ!? ……とか、考えてるんでしょ?」
「……当たり」
全く、俺は正直な顔なんだなあ。
「しないわよ、そんな事。昨日何だかんだであたしも結構バッテリー使っちゃったしね、皐月に負けることはないけど……自分が納得のいく戦いが出来ないってわかってる時は……しないの。じゃなきゃ、生命が幾つあっても足りゃしない」
「ははは……良かった」
「何? 皐月が生き延びるのがそんなに嬉しい?」
「ま、それもあるけどな」
「……他に何がある?」
「俺は……桜花にも、傷付いて欲しくないからな」
俺の言葉に、桜花は微妙な顔をしている。
「……意味わかんない。あたしが皐月なんかにやられるわけないじゃない……」
と、そんな浮世離れした世間話だった。
わりと7-3
桜花と二人、しばらくボケーっとしていた。何か皐月に悪いなあ……というか。俺は今、皐月とどういう関係なんだ? 友達……なのは間違いないんだけど。桜花とかヴィクトリアとの戦い……って皐月は言ってるけど、その中における皐月からみた俺って……何だ?
「恭二も気付いてきた? 皐月のしたたかさに」
……俺の周りはみんなエスパーなのかい?
「いや……皐月達と桜花達の戦いにおける俺って何なのかなって」
「さあ? 飴玉の下位互換?」
ひでえ……。
「少なくとも、あんたを味方につけた方が圧倒的に有利なんじゃない? 別にあたしは皐月に楽勝だけど、恭二っていう戦利品があった方が得ではあるわ」
フォローのつもりか? いいけどなっ!
「……で、ここからが今日の本題なわけよ」
「本題?」
……例のイイコトか?
「そ。ちょっと調べたのよ、今までの恭二と皐月のこと。あいつ、わりとやんちゃな男に化けてたんだね」
「化けてた……」
……やっぱ、そうなのか……。
「さらに言うと、皐月程度のやつでも……外見上のトランスだけを四、五年やったところでバッテリー切れは起こさないわね」
「ということは……?」
「あんたが皐月と呼んでた男は、今のあいつとは全く別物……てこと」
「……そうか」
皐月……ならお前は……バッテリー切れで完全に、いなくなって……。
「そんな泣きそうな顔しない! あの馬鹿の事だ、どっかに封印してんじゃない?」
「ははは……相変わらずエスパーだなあ」
しかし、なぜか今度は桜花の表情が曇る。
「ま、あんたがその皐月と再会する時……あたしがこの世にいないのは確実だけどね……」
「!?」
そうか。
皐月は桜花を。
桜花は皐月を。
殺さなくては、生き延びられない。
何で。
何でこんなことに。
すると、真剣な顔で桜花が俺に向き直る。
「だから、あたしは恭二を取りに行く」
「え……?」
何言ってんだ? 急に……。
「勘違いするんじゃないわよ? あたしは皐月に勝つ為の手段として、あんたから責める」
「それが……イイコト?」
「そ。あんたの中の認識上、皐月は男友達。今の皐月は皐月じゃない。それが本音だよね?」
「……」
分からない。確かに桜花の言うとおり……俺は男だった皐月との思い出の延長として、今の皐月と付き合ってる節はある。
ただ、それだけなのか?
記憶喪失から、必死にがんばって学校に通えるようになった皐月。その皐月は……俺にとってまた新しい出会いとして……大切な存在になったと思える。
なら、桜花の言うように皐月じゃない皐月として付き合えるか? ……ここなんだと思う。
さらに、桜花は鋭いところをついてくる。
「ならさあ、記憶を無くした皐月とあたし……どれほどの差がある? 地球にとって脅威なのはどっちも同じだよ? エリザベスが正義なわけじゃない」
「……」
不思議で仕方ない。昨日、皐月が大怪我させられたあの時点においてのこの問いかけならば、何のためらいも無く桜花が悪だと言えた。
あの後桜花の話を聞き、今日皐月の話を聞いた事により……双方それぞれの正義があることを認識させられた。
改めて、俺は皐月を支えるべきなのだろうか。
「客観的に考えても、仕方ないよ? 恭二が、好きな方を取るべきじゃない?」
「……好きな、方」
「あんたは皐月に恋愛感情はない。あるのは別人との思い出だけ……」
「恋愛感情……」
恋愛感情、ねえ。それなら、桜花も皐月も……俺にそんなのないだろ? 皐月も、バッテリーだと言ってたしな。
「そんなの……」
「確かに、バッテリー目当てだ。でも……悪くない条件でしょ? 皐月倒したらお役御免なわけじゃないし。あたしは皐月みたいに……人格変えたりなんて面倒かけないよ?」
勝てない。
皐月は桜花に勝てない。
全てに置いて、用意周到過ぎる。
……どっちがしたたかなんだよ。
「ま、考えてみてよ? 何なら恋愛ごっこくらい、付き合うからさ」
そう言い残し、桜花は立ち去った。