表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/41

わりとどうでもいい惨敗

わりと4-1


 俺は堪らず叫んだ。


「皐月! お前……!」


 するとこちらに気付き、振り向く。俺の顔を見て、えらく驚いている。



「もしかして……恭二……?」


「そうだ! 記憶! 戻ったのか!?」


 力を振り絞り、重力に抗い、皐月を見つめる。

 皐月はそれには答えず、桜花に視線を移す。


 一言だけ残し。



「もし……私が……生還できたら、また……」


 皐月と桜花は少し言葉を交わし、互いに飛び跳ね、歪んだ天井を擦り抜けた。

 俺は地面を這いずり、二人を追う。




「冥土の土産に聞いてあげる。あんたここで何してたの?」


「……」


「答えないんだ。まあいいわ。ヴィクトリア民とエリザベス民がこうして対峙する、この意味分かるよね?」


「……無駄だと思うけど、一応言うね。私たちは別にあなた達を出し抜いたつもりはない。物資も共有するつもりよ」


「そうやってまたあたし達を騙すんだ? 相変わらずセコいわね、エリザベス民って」


「目的は同じ、無駄な犠牲を払うべきじゃない」


「なら早くヴィクトリアの配下に下れば? 一生奴隷としてこき使ってあげる」



「……何を言っても無駄なようね……分かってたけど」


「……もしかして、今のあんたがあたしに勝てると思ってんの? 足枷解いてもバッテリーこれっぽっちとか……ナメてんの?」


「私は負けない。勝つ。勝って、また……」




「ホント、あんたにはイライラさせられっぱなしね……昔から。まあいい、それも今日まで……」






「行くよ?」





わりと4-2


「はああ……はああぁ……」


 ドアノブ掴まり、扉を開き、手すりにしがみ付き、階段を下りる。

 激しい眩暈に襲われながらも、何とか部屋を這い出し、地上に降り立った。

 辺りも同じように空間が歪んでいる。灰色だった風景は紫がかりより殺伐としている。



「さ……つ……き……」


 見渡すも、皐月は見つからない。



 その時、凄まじい勢いで何かが落下してくる。

 やはり、砂煙などは上がらず無機質にそれは地面に叩きつけられた。

 グニャリと嫌な音を鳴らした物、それは……。



「皐月っ!?」


 そこに横たわる皐月は……。


 叩きつけられた衝撃で大量の血液を吐き出し、四肢は変な方向に曲がり……。




 とても、見られる物じゃなかった。


 それでも、俺はそれにすがり付いた。



「皐月っ! 死ぬなっ! さつきいいいっ!」


 咄嗟に皐月の胸元に耳を押し付ける。乳房から柔らかな弾力が伝わったが、それをありがたがる余裕なんて今の俺にはない。

 俺の求めるもの……それは皐月の生の鼓動だけ……良し、まだ皐月はいきてる!


 何とか、桜花を止めないと!



 そして、そいつは上空にいた。


「きゃはははっ! 無様ね、皐月! すぐにあの世に送ってあげるから、少し待ってな!」



 そこには燃え盛る炎羽を纏い、紅の大鎌を携えた桜花が漂っている。

 振りかぶる桜花に、投げかける。



「止めろ! 皐月が何したってんだっ!?」


 仁王立ちをし、皐月をかばう俺を見下ろす。

 炎の鎌を仕舞い、羽を閃かせ、こちらに向かって来る。

 そして、目の前で不思議そうな顔をしている。



「あんたこそ、何でこんな奴を庇う? こいつはあんたら地球人にとって侵略者でしかないのよ?」


「そんなの! 友達だからに決まってんだろおおっ!」


「友達? ずっとあんたを騙してたのに?」


「それがどうしたあっ! 俺の記憶にはなあ! 皐月との思い出が山ほどあるんだよおっ!」



「……なるほど、ね」


 桜花は俺の周りを二三周回り、再びこちらを向く。


「……あんた、名前は?」


「はあ!? 国分恭二だ!」


 桜花は人差し指を唇に当て、何やら考え込んでいる。



「……覚えてねー。後!」


「まだ何か!?」


「昔さあ、道に迷った子供池まで連れてった覚えない?」


 再び俺の周りを旋回しながら、尋ねる。……落ち着きない奴。



「さあなっ! どんな子供だよっ!?」


「さあ? ぶっさいくな女の子じゃない?」


 ……何じゃそりゃ……。



「分からんっ! あったかもしんねーし! なかったかもなっ!? んだよ、さっきからーっ!?」


 桜花は羽を仕舞い、地上に降り立ち。

 腕を組んだまま、俺ににじり寄る。


「……これが最後。その後さあ……」


「後? 池の件か?」


「そ。その後に……」






「そいつに、飴玉貰わなかった?」





わりと4-3


 飴……玉……? こんな時に、何言ってんだ?ふざけて……るんじゃないみたいだ、真面目な顔してる。


 うーん……。




 いや、待てよ……。


 確か……幼稚園くらいの時……。




 俺は遠足で緑地公園に行った。後々考えるとそんなに広くなかった気がするけど、子供心にはまるで樹海のように感じた。


 そこでみんなとはぐれた。俺はわりとずぶとかったのだろうか、みんなを探すより探検気分でどんどん奥の方まで進んで行った。



「……まよった」


 気付いた頃には、人の気配なんて全くない最深部まで来ていた。辺りは迷路のように入り組んでいて……もはや自力で帰れる気がしない。



 ヤバい、そう思い始めていた。とりあえず大声で先生やら友達の名前を呼んだ。


「せんせえええっ! けんたくうううんっ! ともみちゃあああんっ!」



 ……当然、返事はない。


 しかし。


「……か……るの……?」



 !? 微かにだけど、声が聞こえた。後は無我夢中に、その方向に走った。



 そこには。


「……ひぐっ……ひく……」


 蹲って、泣いている女の子がいた。多分同じくらいの歳だろう。

 俺はすぐに駆け寄った。正義感というより、一人が心細かったからだと思う。


「どうしたの?」


「ふえっ……?」


 女の子は俺に気付き、顔を上げる。俺は問いかけた。


「どうしたの? なんでないてるの?」


 すると、女の子は俯きながら。


「わたし……まよっちゃったの……みずうみまで……いかなきゃ……」


 と、話した。


「みずうみ?」


 それなら……ここに来る途中で……。


「はやくしないと……かえれなく……なっちゃう……ううっ……」


「よ! よおし!」


 咄嗟に、俺はその子の手を掴む。


「ふぇ……?」


 俺より、少し背の低い女の子は、上目遣いで見上げてる。



「おれが、つれてってあげる!」




 どこをどのように進んだか。

 女の子と道中何を話したか。


 この辺りは全く思い出せない。



 でも俺はこの時、確かに女の子を湖まで送り届けた。


 そして……その子は俺に、飴玉を一つ差し出した。


「ありがとう……これ……わたしからのおれい……」


「うん、ありがとう……その……」


 また、逢える? 俺は多分、そう聞こうとした。

 女の子はそれには答えず。



「そのあめだま、わたしのたからものなの……だいすきなひとにあげなさいって、おかあさんがくれたものなの……」


「え? そんなだいじなもの、もらっていいの?」


「うん。わたし……きょうじがだいすきだから、あげるの。それをたべたらね、きょうじとつながれるんだって……だから……」



「あーっ! いたーっ! なにやってるのよう!?」


「あっ、おうかちゃん……わたし、いくね。さようなら」


「あっ……」




 その後、俺はその子を思いながら……飴玉を舐めた。

 子供の時の記憶だからか、信じられないくらい美味しかった気がする。



「……その様子だと、心当たりあるのね」


 その一言で、現実に引きずり戻される。

 俺は、こいつから皐月を守らなくてはならない。皐月は瀕死、桜花は無傷……二人の間に何があったのかは知らないけど、もう勝負はついてる。


 しかし、桜花は皐月を生かしてはくれないだろう。

 どうすれば……。


 俺は桜花から視線を逸らさない。今のところ、桜花も俺に攻撃したりするような様子はない。

 明後日の方角を見つめながら、何やら考え耽っている。



 そして。


「……あんた、どうしてもそいつ……助けたいんだ?」


「!? じゃあっ!?」


「……元々、地球人には危害加えちゃいけない決まりだしね……」



 そう言い、桜花は手を組んでしゃがみ込み、歪んだ空間を身体の中に吸収していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ