わりとどうでもいい対峙
わりと3-1
その主はうちの学校の制服を着ている。こいつ……確か隣のクラスの……。
「何? あんた。ここは浜中皐月の部屋でしょ?」
「あ、ああ。俺はこれから帰るとこだけど……」
「ふうん……」
不機嫌そうに俺を見上げる。黒髪のツインテール、背は女皐月よりも低い。
俺が観察していると……。
「そこ邪魔。あたしは浜中皐月に用があるんだけど」
皐月に用? 皐月にこんな知り合いいたっけ? まさか……隠れファン……。
「で? 何で皐月は出てこないわけ?」
「ああ、多分今洗い物してて気付いてないんだ」
さらに不機嫌な顔になり。
そして……。
「あ、そ。んじゃ、勝手に始めるわよ」
その瞬間、時間が止まった。
わりと3-2
そいつが言葉を発した後、辺りが灰色に変わった。な、何だ……か、身体が……。
そして、皐月が慌てて出てきた。
「こ、これって……」
「やっとお出ましね、浜中皐月」
そいつは皐月に対峙する。何か物凄く険悪なムードだ……親の仇みたいに皐月を睨みつけている。
「……」
「気付かなかったわ、こんなに近くにあんたがいたなんて。バッテリー隠してトランスまでしてさ、ホント何がしたいわけ? エリザベスって」
「あ、あの……」
「しかも! バッテリー切れで倒れたんだって!? バッカじゃないの?」
「その……」
明らかに、噛み合わない。
「何よ? 何か言いたいわけ? いいわよ、聞いてあげる」
「……あなた、だれ?」
「……はあ?」
皐月の言葉に、そいつは絶句。そして……。
「へえ……あたしの事なんか記憶にもないって? あっそう! いいわ、すぐ終わらせてあげる」
そういい、掌を見つめ……炎!? あいつ、手から炎出しやがった! な、何か知らんが! ヤバい! お、俺に出来ること……そうだっ!
あいつは皐月が自分を忘れた事、怒ってるんだ! なら……。
「消えろ……!」
手を振り上げた瞬間、叫ぶ!
「やめろおおおっ! 皐月は記憶喪失なんだあああっ!」
か、身体が……動いた。
とりあえず、皐月に駆け寄る。
「皐月っ!」
「き、恭二。これって……」
皐月を後ろに庇い、そいつに向き直る。掌から出ていた炎は消えている、許して……くれた? それより、あんた何者? 人間? 何て考えていると……。
「……んで……るのよ……」
「はあ?」
「何で地球人が動けるのよっ!?」
に、日本語でお……。
「まあいいわ、あの皐月がバッテリーと引き換えに地球人に成りすましてるんなら、協力者くらいいるでしょうね。それより……記憶喪失?」
「ああっ! 病院でそう言われてたっ! なっ!? 皐月」
「うん……」
すると、今度は首を傾げて……。
「あのねえ……バッテリー切れ起こす度に記憶無くしてたら、あたし等戦えないでしょ? つまり……」
「つまり……?」
「ま、いいわ。そこのあんたは初見だしね、名乗ってあげる。あたしは藤岡桜花、地球名だけど」
「……さっきから地球地球って、お前宇宙人か?」
「はあ? 皐月の協力者ならあんたもそうでしょ?」
「協力者ってなんだ? 俺はただの友達だ」
すると、桜花は自分の手を見つめている。
「あいつ、本当に地球人っぽいわね……何で効かないんだろ、ガーデン……力抑え過ぎた?」
と、一人でブツブツ言っている。
すると……。
今までは黙っていた皐月が口を開いた。
わりと3-3
皐月は桜花に詰め寄る。おい、皐月?
「な、何よ?」
「教えて下さいっ!」
手をついて、桜花に頼みごとしだした。……まあ、分からない事は聞けって看護師さんに言われてるしなあ……。
「な、何よ? 急に! あたしはあんたに頼まれる事なんて……」
「あなたは昔の私を知ってるんですよね! 私、欲しいんです! 記憶が! 恭二との、みんなとの……」
皐月……ヤバい、泣きそう。
「そんなの、そいつらに聞いたら!?」
「あなたには不思議な力があるんですよね!? だったら何か知りませんかっ!? 私の記憶を戻す方法……」
確かに、バッテリーうんたらって事を知ってたし……こいつなら、何か……。
すると、桜花は。
「……くく、くはははあっ! ふうん、そんなに楽しいんだ? 地球人に化けるの。分かったわ、何とかしてあげる」
「!? ホントかっ! やったな! 皐月!」
「うん! ……うんっ……」
皐月の肩を叩く。感激のあまり、皐月は涙ぐんでいる。
「……何勘違いしてる?」
……はい?
桜花は手を天にかざし。
「戻すのは、エリザベス民のあんたの記憶。というか、そっちは記憶喪失でも何でもないでしょ? あんたがバッテリーで封印してるだけ。それだけ取っ払ってあげるわ、無抵抗の奴いたぶったんじゃあ、あたしのプライドが許さないし」
それだけ告げる。
そして、桜花を中心に凄まじい暴風が吹き荒れる。
だが……不思議と部屋の中にある物はその影響を受けていない。まるで背景でしかない。まさか……俺たちだけ、異空間にでもいるのかよ。
「な、何だこれ……さ、皐月……」
「……」
桜花の身体が眩く輝き出す。俺は皐月を後ろに庇うので精一杯だ。
「ヴィクトリア! ガーデンっ!」
「くっ!?」
とんでもない閃光が視界全てに一瞬に広がる。
……。
やがて、桜花の輝きが消えた。
「なんじゃ……こりゃ……」
辺りの風景が、グニャリと曲がり……ゆらゆら揺らめいている。
か、身体が……重い……。まるで重力が何倍にもなったみたいに……。
「さ、つき……」
地面に蹲ったまま辺りを見渡す。
すると……。
俯いたまま、皐月が立ちすくんでいる。
そして、ゆっくり顔を上げる。
その顔は……桜花同様、冷いものだった。