四月馬鹿 <1> 桃李成蹊
四月馬鹿 普通に側室の日常。
史実改変・歴女等のタグに嫌悪感を懐かれる御方。
IF設定や作品のタグ等に理解と納得が出来ない方も多々いらっしゃるかと思います。
無理なさらず速やかに退出を御薦め致します。
紅を刷いた彼女の口唇。
潤んだ目元が深い慈愛を浮かばせていた。
最愛の思い人に哀しく寂しい思いをさせているのは重々承知。
だが、それは通例の倣い事。
あえて口にすることなく俺は穏やかに尋ね入る。
「犬松君の生母殿。
我が嫡男の可愛らしい我侭事を聞いてはくれないか?」
「あらあら、その愛らしいお願い事とは何で御座いましょう。
御聞かせくださいませ、政宗様」
白い首筋を軽く傾げて尋ね入る。
袖端で口元を隠して、軽やかに裾端を払い歩み寄って。
雛姫の穏やかな人柄と雰囲気に惹かれたのだ。
血が近すぎるとの周囲の反対を撥ね、当主の権限で側室に向かえて数年。
伊達の当主である己に、待望の嫡男を産み授けた最愛の人。
一族家中に生母たるを認証される人物。
「犬松が一人は寂しいと。
毎夜聞こえる笛の音を聞いては母恋しさは紛らわせているらしいがな」
彼女の温もりに腕を伸ばし体を束縛する。
躊躇いがちに応えた腕先が背に届くを感じ、肩口に頬を寄せ己の視界を遮った。
「私は幸せ者ですね……。
御多忙の政宗様が御自ら足を御運び、犬松君の願い事を御届け下さいますとは」
「第二子を望む声が多々聞こえてね、応えてくれるか…な?」
胸元の気配は吐息と憂い、酔った眼差しを浮べる御当主の姿。
寛いだ服装は寝巻の白衣。
炯炯たる眼光に纏う色気、綻んだ口元が己に近付く。
瞳を閉じ頭を傾げるは了承と。
桃李成蹊 -桃李言わざれども下に自ずから蹊を成す-
入室して一礼を果した雛姫の姿を確認すや否や駆け出した。
「母上!!」
「犬松君、久方ぶりですね。恙無く御過ごしでしたか?」
部屋の中央に座する己の膝上から抜け出た存在は、随分と嬉しそうだ。
声を弾ませ、屈んだ雛姫に抱きついている。
久方ぶりに会うのは彼女も同じで、眺め下けるは目尻。
「最近特に犬松は聞き別けが良かった。
確り勉学に励めば、ご褒美に母に合わせると約束したからな。
傅役に嗜められる事無かったと聞く」
勢いよく返答する嫡男の姿は、彼女の袖端に隠れて見えない。
両脇に控えた家臣等が微笑ましい光景に頬を緩める。
“宜しかったですね若君”と微笑み送って。
まあ、確かに微笑ましい母子対面の姿かな。
俺は口角を上げてしまった。
父は連日連夜、母の元に通っている事実は隠さねばと。
「母上に御逢いしたいと、父に強請ったかいがあったな犬松?」
「あらあら、母はご褒美なのですか」
頬を染め恥しげに頭を傾けるは嫡男。
今年四歳になる犬松は立派な体躯に恵まれた。
秀でた眼光に気品漂う面差し、利発な言動は俺に似ている。
細やかに言えば、目鼻立ちは美貌を称される雛姫に良く似ているがな。
「本当は、毎日でも母上に御逢い出来れば嬉しいのです」
「犬松よ、それは言ってはイケない我侭だ。
御前は伊達の嫡男として育てられている、然りと其の自覚を持て」
雛姫の膝上に座した我が子を諭す。
哀しげに眉を寄せ俯く姿に心痛め、近付いて頭を優しく撫で下ろした。
言葉端は厳しいのは脇腹の子であるが故。
伊達の御当主である己と、手折った従妹の間に生まれた嫡男。
長らく望めども授からなかった後取りとして育つ運命に。
「も、申し訳御座いません、父上」
「犬松君は、本当に良い気性に御育ちになられた。
秀麗たる言の葉は殿に似て、御育て下さった愛様に何と御礼申し上げたらよいか」
正室を立てるが為に万事控えめに処世を過ごす雛姫の姿。
たおやかな波紋を映す瞳。
慎み深く謙虚な言動に秀でた容姿、思慕の念を寄せる者は今も多々と。
東国随一の美貌に寄せるは思いは己も息子も同じだろうか。
悪いが犬松、当分母には逢えぬだろうが、此処は一つ我慢してくれ。
上背屈めて我が子の頭を撫でまわす。
「来春に犬松は兄となる、弟と妹ではどちらが望ましい?」
雛姫の膝上で我が息子が目を見開く、零れ落ちるほどに。
気分上々と俺は姿勢を正し上座へと歩みだす。
集う家臣が一斉に注目し祝辞を述べるを聞き。
俺が放った言葉に愛息子は目を瞬かせた。
振り返って仰ぎ見る息子の視線に雛姫は深く頷きて微笑んだ。
伏せた睫に波紋を映す瞳はたおやかに潤む眼差しで。
四月馬鹿作品。
拍手御礼用の拙い話にお付き合い下さり、有難う御座いました。
幼名・犬松君。
後の伊達宗利、宇和島藩2代藩主。
生母は宝池院(浅井氏)




