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華胥の国に遊ぶ  作者: 柴舟
参章
32/51

夕菅は待宵を愁い 08

 R-13は保険だと思う。


 薄暗い灯台の光は、待ち望んだ洞房花燭を彩る。

真白い褥に淡い陰影が理性を煽り、男の本性呼び覚ます痴態。

強張る体を腕に抱けば愛欲に溺れ身を焦がす。

甘やかな吐息と紅い口唇を、夢中で嬲り犯していた。

 身に籠もる飢餓に我を忘れて、耽溺と遊行の限りを尽くす。

乾きを満たすために手を伸し単の帯を紐解いた。

震えて啼く腕中の女は既に裸体、誘う自虐心に堪えられず首筋に噛み付き印を施す。


「は……っ……」


「……雛姫?」

 

 涙に吐息すらも甘露の媚態と、病んだ己が思考が囁く。

蕩かす様な蠱惑の色を滲ませて、白の褥に散る淫靡で華奢な肢体が震えた。

優しさとは懸け離れて性急に求める、俺に怯えたが故の反応だろう。

 真白い首筋に舌を這わせ施す鮮やかな朱印。

幾度も繰り返し、続いては白く柔らかな胸元を特と攻めたてた。

 細い腰を抱え撫で上げれば、しなやかな肢体を震わせて幽かな抵抗。

膝を割って触れた己が体と探し求めた雛先に、彼女は堪え切れず甲高い鳴声を部屋に響かる。


「声は……堪えなくて、いい……」


 俺は喉の奥で笑った。

未だ発達中、未成熟で幼さを色濃く残す体。

雛姫の耳元へ頬を寄せれば、鼻腔を擽る甘やかだが生熟れる匂い。

稚拙で初心な反応だが、醸し出す媚は欲情煽るに十分と、反応した身体が如実と物語る。


「俺の背に爪を立てることを許してやる、光栄に思え……」


 咲きかけの蕾は、己の脳と体を刺激する芳香を放ち構えていた。

今宵、念願の花を今手折るのは俺なのだ。

恥じて愁いる濡れた瞳、夜陰に咲く夕菅が闇にひっそりと開花する。

虚ろな欲を満たす己が行為を加速させ、犯し求める雄を本能で誘う痴態。

 苛む果てない欲望を満たす行為。

貪ろうと我が物にしようと、奥底から湧きでる本能に身を委ねる。

苦痛と悲鳴を飲み込み強張る肢体を押さえ込み、逃げ惑う四肢を捕らえては幾度も揺さぶる、快楽と歓喜に眩暈しながら了簡と果てた。

白濁の残滓を全て注ぎ終え、倦怠した体を雛姫が側に横たえれば、迫る冷気で正気を呼び戻していた。


  * * 


 外界から射し込む光が夜明けを知らせる。

空は白々と明けているのだろう、昨晩の寒く冷え冷えした闇夜が徐々に消えていく。

抱き寄せた雛姫の顔を見つめ、俺は初めて供に迎えた朝を思った。

 無意識に口角がつり上がる。

無い既成事実を盾に、雛姫に側室となる様に迫った過去。 

あの日と違うのは、同意した上で公に夜を迎えた事と、身に覚えた多幸感。

側室として肩書き以上の地位を持つ身とするも、時間が解消してくれる問題となろう。

前々から雛姫の父である政景や叔父上方、一門から急かされている事柄だ。

早く“世継ぎ”と望む声、正統な正嫡子である男誕生を願う声。

体の相性も良い事だし、教え込めば益々俺好みと変貌遂げるだろう。

興褪めなとする心積もりはないが、須く子を孕むのは目に見えている。


「この分なら、早々の懐妊もありかな?」


 傍らに眠る雛姫へ視線を這わした。

蜜蝋のように白く滑らかな心許無い顔色。

艶やかな黒髪は寝乱れ、涙に汚された目元と紅く腫れた唇が、情交の跡と強く残っている。

細く華奢な肢体で傍らに眠る彼女に、俺は呆れで息を吐く。

白い肩先が露と、冷えた外気に曝されていた。

存外に寝相が悪いヤツだと苦笑いし、掛け布を引き寄せると雛姫の瞳がツト開いた。

御互いの睫毛の本数が確認できる至近距離。

俺も黙って目を瞬かせ、時を止め息を詰め只眺める。

一瞬で朱色を帯びたのは雛姫の頬。

昨晩の行為、俺との痴態を思い出し恥じたらしく、慌てて掛け布に顔を埋め入る。

羞恥しつつも、おすおずと挨拶を紡ぐ律儀具合は彼女らしい。


「お、おはよう…ございます……」


「嗚呼、おはよう、我が細君。

 まだ起きるには早い、もう少し寝てれば好い……」


 可愛らしい口調と風情に微笑し、俺は緩やかに彼女を抱きしめた。

雛姫は……俺が室に迎えた事を、本心では喜べないで居るに違いない。

自らが犯した失体、自業自得と嫌悪の感情すら抱いているかも知れない。

だが、俺は成実へ罪悪感を背負っても、決して後悔などしない。

 心乱れて引き寄せれば、雛姫は抵抗無く俺の胸板に頬寄せまどろんでいた。

廻した腕先で優しく背中を愛撫し、彼女の眠りを促す。


「……身体、辛いんだろう?」


 軋み痛む私の体を、政宗様は優しく抱き寄せてくれた。

言葉も行為も全てを許そうにも、正直優しい御方とは言い難い昨晩の姿。

今更、もう過ぎた事を“後悔”の単語で成否と、罪を問われたくもなかった。

望まれた身、その事実で十分だと思っていた。

 『生涯を我が側に添え』と、言い放つ真直ぐな言葉。

女として生まれたなら詞華と捉えよう。

寄せられた思いに、未だ気持ちが追いつかないのも事実。

耳に届く緩やかな心音を子守唄に、眠りに誘われながら私は知ってしまった。

思慕と感情、体がそぐわずとも、肉体が与える温情と優しさに落ちてしまったと。

体に縋れる事実、私も所詮は女なのだと悟り受け入れている事に当惑し。

側に在る温もりに安堵を感じた今、不器用ながらも与えてくれる彼の優しさに抱く罪悪感。

 

「……暫くしたら起してやる、今は大人しくし寝ていろ」


「は……い」


 瞼に落ちた唇を知って後、私は政宗様の胸に頬を預けた。

優しさよりも温もりを確かめたくて、幼い仕草と笑われ様が構わずに。

この御方が私を求め、側に添せようと決めた御心を確かめたくて。

纏う伽羅の香に包まれ、私は穏やかな眠りに誘われ独り言を呟く。

 『ならば…約束違えず御側に置いて下さいませ』と、私は躊躇いがちに腕を伸ばす。

政宗様が背に指を添え向け、ゆっくりと意思を込め囁いた。


  

 削って濁しました。

今まで加筆、コレは段落削除。


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