夕菅は待宵を愁い 08
R-13は保険だと思う。
薄暗い灯台の光は、待ち望んだ洞房花燭を彩る。
真白い褥に淡い陰影が理性を煽り、男の本性呼び覚ます痴態。
強張る体を腕に抱けば愛欲に溺れ身を焦がす。
甘やかな吐息と紅い口唇を、夢中で嬲り犯していた。
身に籠もる飢餓に我を忘れて、耽溺と遊行の限りを尽くす。
乾きを満たすために手を伸し単の帯を紐解いた。
震えて啼く腕中の女は既に裸体、誘う自虐心に堪えられず首筋に噛み付き印を施す。
「は……っ……」
「……雛姫?」
涙に吐息すらも甘露の媚態と、病んだ己が思考が囁く。
蕩かす様な蠱惑の色を滲ませて、白の褥に散る淫靡で華奢な肢体が震えた。
優しさとは懸け離れて性急に求める、俺に怯えたが故の反応だろう。
真白い首筋に舌を這わせ施す鮮やかな朱印。
幾度も繰り返し、続いては白く柔らかな胸元を特と攻めたてた。
細い腰を抱え撫で上げれば、しなやかな肢体を震わせて幽かな抵抗。
膝を割って触れた己が体と探し求めた雛先に、彼女は堪え切れず甲高い鳴声を部屋に響かる。
「声は……堪えなくて、いい……」
俺は喉の奥で笑った。
未だ発達中、未成熟で幼さを色濃く残す体。
雛姫の耳元へ頬を寄せれば、鼻腔を擽る甘やかだが生熟れる匂い。
稚拙で初心な反応だが、醸し出す媚は欲情煽るに十分と、反応した身体が如実と物語る。
「俺の背に爪を立てることを許してやる、光栄に思え……」
咲きかけの蕾は、己の脳と体を刺激する芳香を放ち構えていた。
今宵、念願の花を今手折るのは俺なのだ。
恥じて愁いる濡れた瞳、夜陰に咲く夕菅が闇にひっそりと開花する。
虚ろな欲を満たす己が行為を加速させ、犯し求める雄を本能で誘う痴態。
苛む果てない欲望を満たす行為。
貪ろうと我が物にしようと、奥底から湧きでる本能に身を委ねる。
苦痛と悲鳴を飲み込み強張る肢体を押さえ込み、逃げ惑う四肢を捕らえては幾度も揺さぶる、快楽と歓喜に眩暈しながら了簡と果てた。
白濁の残滓を全て注ぎ終え、倦怠した体を雛姫が側に横たえれば、迫る冷気で正気を呼び戻していた。
* *
外界から射し込む光が夜明けを知らせる。
空は白々と明けているのだろう、昨晩の寒く冷え冷えした闇夜が徐々に消えていく。
抱き寄せた雛姫の顔を見つめ、俺は初めて供に迎えた朝を思った。
無意識に口角がつり上がる。
無い既成事実を盾に、雛姫に側室となる様に迫った過去。
あの日と違うのは、同意した上で公に夜を迎えた事と、身に覚えた多幸感。
側室として肩書き以上の地位を持つ身とするも、時間が解消してくれる問題となろう。
前々から雛姫の父である政景や叔父上方、一門から急かされている事柄だ。
早く“世継ぎ”と望む声、正統な正嫡子である男誕生を願う声。
体の相性も良い事だし、教え込めば益々俺好みと変貌遂げるだろう。
興褪めなとする心積もりはないが、須く子を孕むのは目に見えている。
「この分なら、早々の懐妊もありかな?」
傍らに眠る雛姫へ視線を這わした。
蜜蝋のように白く滑らかな心許無い顔色。
艶やかな黒髪は寝乱れ、涙に汚された目元と紅く腫れた唇が、情交の跡と強く残っている。
細く華奢な肢体で傍らに眠る彼女に、俺は呆れで息を吐く。
白い肩先が露と、冷えた外気に曝されていた。
存外に寝相が悪いヤツだと苦笑いし、掛け布を引き寄せると雛姫の瞳がツト開いた。
御互いの睫毛の本数が確認できる至近距離。
俺も黙って目を瞬かせ、時を止め息を詰め只眺める。
一瞬で朱色を帯びたのは雛姫の頬。
昨晩の行為、俺との痴態を思い出し恥じたらしく、慌てて掛け布に顔を埋め入る。
羞恥しつつも、おすおずと挨拶を紡ぐ律儀具合は彼女らしい。
「お、おはよう…ございます……」
「嗚呼、おはよう、我が細君。
まだ起きるには早い、もう少し寝てれば好い……」
可愛らしい口調と風情に微笑し、俺は緩やかに彼女を抱きしめた。
雛姫は……俺が室に迎えた事を、本心では喜べないで居るに違いない。
自らが犯した失体、自業自得と嫌悪の感情すら抱いているかも知れない。
だが、俺は成実へ罪悪感を背負っても、決して後悔などしない。
心乱れて引き寄せれば、雛姫は抵抗無く俺の胸板に頬寄せまどろんでいた。
廻した腕先で優しく背中を愛撫し、彼女の眠りを促す。
「……身体、辛いんだろう?」
軋み痛む私の体を、政宗様は優しく抱き寄せてくれた。
言葉も行為も全てを許そうにも、正直優しい御方とは言い難い昨晩の姿。
今更、もう過ぎた事を“後悔”の単語で成否と、罪を問われたくもなかった。
望まれた身、その事実で十分だと思っていた。
『生涯を我が側に添え』と、言い放つ真直ぐな言葉。
女として生まれたなら詞華と捉えよう。
寄せられた思いに、未だ気持ちが追いつかないのも事実。
耳に届く緩やかな心音を子守唄に、眠りに誘われながら私は知ってしまった。
思慕と感情、体がそぐわずとも、肉体が与える温情と優しさに落ちてしまったと。
体に縋れる事実、私も所詮は女なのだと悟り受け入れている事に当惑し。
側に在る温もりに安堵を感じた今、不器用ながらも与えてくれる彼の優しさに抱く罪悪感。
「……暫くしたら起してやる、今は大人しくし寝ていろ」
「は……い」
瞼に落ちた唇を知って後、私は政宗様の胸に頬を預けた。
優しさよりも温もりを確かめたくて、幼い仕草と笑われ様が構わずに。
この御方が私を求め、側に添せようと決めた御心を確かめたくて。
纏う伽羅の香に包まれ、私は穏やかな眠りに誘われ独り言を呟く。
『ならば…約束違えず御側に置いて下さいませ』と、私は躊躇いがちに腕を伸ばす。
政宗様が背に指を添え向け、ゆっくりと意思を込め囁いた。
削って濁しました。
今まで加筆、コレは段落削除。




