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華胥の国に遊ぶ  作者: 柴舟
弐章
22/51

梅桃の佳人を待て 06

 襖を閉じさせ人払いを命じて下がらせた。

夕闇迫る私室に居るは己が右目、ただ一人。

幼き頃より俺の側に常に在り守られ導かれた懐刀。


「……雛姫を、側室に迎えるに事穏便に運ぶ策を練れ」


 その人柄を慕われる名将に、入室するや否や唱えていた。

唐突に切り出した話題に小十郎が目を剥く。

硬直した面差しのまま、マジマジと眺める俺の右目。

智勇兼備えた知才の眉間、その皺は戸惑いか。


「何が…言いたい、小十郎。

 それとも事が意外だったか、俺の口からそんな話が出るのが」


「…い、いいえ……」


 照明具の灯台から放たれる明かりが陰影を映す。

詰問を受けた小十郎が両目を閉じて思案に入る。

姿勢を正す動きに畳と擦れた袴。

頭を振って端的に、指して招いた相談事に求む助言を。


「確かに、確かに良い御器量の姫君であります。

 その容姿もさる事ながら、御血筋も御気性も優れていらっしゃる。 

 人徳ある政景殿の御息女ならば、間違い有りませんでしょう……。

 御正室を退けて迎えるも、表立ちて家中に反対の声は先ず挙がりません」


「随分と好感触だな、我が従妹殿は。

 ならば傍らに捕らえ手折るは、賛成得られるか……?」


 思い寄せる彼の華。

匂うが如き美貌と威厳に満ちる風情。

咲けば華麗な富貴花か、手中に望む未だ蕾の佳人。


「……ですが、政宗様。

 事を穏便に進めるのならば、政景殿や月舟斎殿が鎮圧静粛終えてからが得。

 今を急がれては、不備と煽るだけ。

 まずは……、外堀である親族を御諌めしてからに。

 そして、どうか御忘れ下さいますな。

 成実殿と雛姫様は一門祝福されての縁談、良縁なのです」


「それは、驚く話だ。

 俺が自ら選んだ室ならば、早々に懐妊も在りうると親族も納得すると思うが?」


 俺とて健全な男子である。

正室以外にも関係を持った女性は数多い。

しかし、懐妊し子を授かる事は今まで無かった。

側室に上げ、愛妾と呼べるまで執着した女の存在も無く。

初めて渇望したは同じ血を持つ親族の娘、雛姫。


「御聞きください、政宗様。

 御当主の子が望めぬならばと、御一門の方々が一計を案じました。

 最も近しい血脈、御二人の御子ならば養嗣子に上げるも寛容すると……。

 そのために、成実様と駒姫様の御縁談が纏め上げられたのです」


「その話は、以前に政景と実元から聞かされた。

 当初は雛姫に婿を取らせ、留守家を継がせる心積もりだったとな。

 故に…成実との間に子が二人授かれば、一人は政景の養嗣子と迎えるが条件と」

 

「兎も角、父君たる政景様を納得される事が必然で御座いましょう。

 政宗様が約束を違えぬと申し出るのが宜しいのでは、と。

 十五代当主の晴宗様と栽松院の例に倣い“嫡男養子”とは、申しませんが……」

 

 灯台から放たれる緩やかな陰影が面白い、巡らせば襖に映る人影二つ。

静まり返った城内の一室、口角吊り上げて笑う己は悪役染みている。

知将の助力で練り張って巡らす策案。


「雛姫は奢るを知らない。

 そして、威高く振舞う事を恐れる姿が好ましいと思った。

 万事控えめで謙虚。人を使うを知り、また使われるを悟る。

 俺はその人柄と雰囲気に惹かれた。

 愛(田村夫人)に継ぐ室に迎えるに足りる存在と…な……」

 

 鬼母と同じ斯波一族の母を持つ。

三管領職を祖を持つ血脈だが、其れは俺とて同じ事。

奥州の覇者に何の遜色無く添うる花、花の王たる牡丹。

 彼の常夏に向け、送った呟きは決意の表れ。

どう足掻いても逆らえず、逃げ出せぬ網に追い込み捕らえると。

性的な欲求と俺が一方的に抱え懐く思い。

それは、当面気取られる事なく運ばねばなるまい。

含み笑いが胸に込上げ、衣擦れの音が宵闇に消えいく。


 * *


 父上が出陣する日、天高く晴れわたる秋空には雲一つ無かった。

早朝の米沢城内に集うは賑やかな人の喧噪、馬の嘶き。

揃いの武具甲冑と旗指物が鮮やかである。

紺地に白と染め抜かれた印は、武勇の誉れ高い「竹に雀」紋。

集まった家臣団と騎馬の列、陣中には政宗様の名代である父上が居る。

小具足に身を固め、手製の刺繍を施した陣羽織を着た姿。

一行全てが、間も無く出陣すべく整っていた。

向かうは、御当主命での“大崎鎮圧”総大将としての任。


「辛そうな顔をし、送り出しては駄目だよ。

 政景様に不安を残す事になる、雛姫はただ一心に武勲を祈って」


「そう……ですね。

 父上に黒川の御爺様、皆の功名を願うが私の務め」


 緩々と力無く佇む私を不憫に思ったのだろう。

成実様や屋敷から連れて来た美津、侍女二人が心配げに伺ってた。

余程所在無げな表情を浮かべていたのかと、申し訳なく頭を振って否定する。

側脇の成実様が腕を伸ばし体を寄せてくれた。


「これから雛姫は、城での慣れない生活を強いられる……。

 体調を崩さずに御仕えして、何か有れば俺が側に立つから」


「頼りにして居ります、成実様」


「寂しい思いを懐かない様、心配るつもりですから」


 成実様の御申出に深く頷き、感謝の意を伝える。

御言葉通り、私は今日より米沢城にて過ごさねばならない。

身の安全と御仕えする祐筆の務めも含めての預かり。

変わる立場と取り巻く環境、ただ私が求めるは日々の安寧なのに……。

戸惑う程に己の扱いが変化する。


「後で八房を屋敷から連れて来るよ。

 先に部屋へ行こう、侍女の控え間も用意しているからさ」

 

「申し訳ございません。成実様に荷物運びまで手伝わせてしまって」


 心情と不安を掃ってくださるは成実様、この御方しか信じ頼れない。

仄かに伝わる体温に頬を寄せた。 

不安に駆られるに耐えられず、確認するが仕草で寄り添って。

耳に聞こえる微かな心音に安堵し、背の腕に護られ瞳を閉じていた。



 このまま、歴史ジャンルで良いのだろうか?

もう、本格派歴史小説が並ぶ中で浮いてる感が否めない。

歴史タグが烏滸がましく思えてきました。

恋愛パートが延々と続くんですが(汗)

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