揺り籠を探す手に 01
史実改変・歴女等のタグに嫌悪感を懐かれる御方。
設定に御理解と納得が出来ない方も多々いらっしゃるかと思います。
御無理なさらず速やかに退出を御薦め致します。
日課は家事洗濯。
本分は学生だが主婦歴は結構長い。
ゴミ出しに朝食の用意、二人分のお弁当を作って母親を起こす。
寝惚ける彼女に食事と着替えをさせる。
身支度を整えさせたら玄関まで見送り、本日の帰宅時間を聞くのが通例。
多忙な重職を担う母親は『残業が続きそう……』と、家を後にした。
母子家庭に育った私は、女手一つで育ててくれた事に感謝の念を懐く。
まあ、二親揃った学校の友人が時折羨ましくもなるが、無い物強請りは世の常。
隣の芝生は青いのかもしれない。
時計を確認し、自らも通学準備を整え玄関から出た。
グズグズしていられない、もうすぐ友人との待ち合わせ時刻が迫っている。
先に待っていた友人に軽く謝り歩調を合わせた。
彼女が述べる話に耳を傾け相槌を打つ。
期末テストが終了し、昨日から返ってきた答案用紙が話題である。
追試を免れ晴れやかに夏休みを迎えるが、夏期講習を考ると遊べる休みは短い。
「雛姫はさぁ、モテ要素イッパイなのに彼氏つくる気無いの?」
「そうおっしゃる友紀サンは?」
「んー、卒業までには作る心算?」
「じゃーお互い一人身同士、夏休みは気楽に誘えますね」
多少気がお強い友人の友紀サンは、彼氏を持っても長く続いた例が無い。
性格が悪いとか、我侭とは違うと思う。
同性から大変好かれる人物で、贔屓目にしても容姿も性格も標準以上。
スタイルだって申し分ないのに謎である。
「世の中の男性陣は友紀サンを見る眼が無い」
「雛姫ってさ、見た目が可愛い系なのに口調とか性格が年寄り?」
隣を歩く友人に斜めな視線を送る。
微妙な沈黙と乾いた笑い、肩を揺らしながら抗議した。
「それって誉めてない」
「いや、事実を正直に言ったまでですから」
お互いに笑いを噛殺す。
朝の登校途中の道は、同じ制服を着た学生で溢れている。
喧騒が一段と増しすのは、目指す学校が近いから。
同色が集団と固まる喧噪に私は一抹の安堵を覚えた。
そう、弱者は群れて身を守る本能があるからだ。
突然、背後から甲高い悲鳴が上がった。
車のブレーキ音と衝撃音、隣を歩いているはずの友紀サンが消えた。
視覚が空を仰ぐ、スローモーションの様な緩やかな映像を映しながら。
息を呑み、状況を整理する。
---事故?
激しい眩暈と耳鳴り。
閉じていた眼を開き辺りを見回す。
アスファルトで固めた道に広がる液体、視界に入った血だまりに眼を見開く。
流れ出る体液を眺めながら考える。
斜めに映る海老茶色の液体。
其れを横たわりながら見つめるのは、誰と……。
体液で随分と変色をしているが、淡いブルーのブラウスに藍色のリボン。
グレーのプリーツスカートと同色のベスト。
自宅玄関前の鏡で確認した何時もの服装。
そんな身体に身形は自分の物。
痛みは感じない、感覚が麻痺しているのだろうか?
---血溜まりに横たわるっているのは、私なのだろう。
じゃあ、傍らに呆然と立つのは?
制服で横たわるのは、誰。
学校指定の制服で立ち尽くす姿の主は……。
もしや、自分で自分を見ている?
友人の悲鳴が近くで聞こえ、続けて上がる連鎖の悲鳴。
騒ぎを聞きつけて集まる人々。
私は戸惑い、目蓋を閉じて視覚を遮った。
処理出来ない思考ごと遮断したのだ。
我が身に何が起こったのかを、ゆっくりと理解するために。
嗚呼、全てが霞んで聞こえにくい。
-主人公-
斯波 雛姫
片田舎在住の県立高に通う17歳。
特技は家事全般だが、お裁縫は苦手である。