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heart物語  作者: 木と蜜柑
2/6

二、

放課後の教室。

特に用がある訳でもないけれど、この静けさが好き。

誰もいないこの空間で、私は机に座って読書をするのが日課やった。


読書に没頭する間だけは、全てから逃避することができる。

ただそれだけの理由。


開け放った窓から、ひんやりとした風が入ってくる。

1人は別に寂しいなんて思ったことはない。

むしろ、1人の方が楽や。

人になんと言われようと、1人でいい。

人と馴れ合うのは好きじゃない。

自分を作ろうなんて思わへんし、作りたいとも思わへん。

誰も信じひんし、誰も信じたくない。

裏切られるのはご免や。

だから、私は1人でいい。



パタパタパタ・・・

廊下を走る軽い音が響く。

やがて、その足音は教室の前でピタと止まり、

ガラガラとドアが開かれる。

ハアハアという可愛らしい息遣い。


私はふと顔を上げる。


「あ、えと・・・。」

篠原雪美。

小さな体で長いウェーブがかった髪。

ピンクに染まった頬。


私は再び本に視線を落とす。

誰が来ようと関係ない。


「えと・・・。」


「何か忘れもんしたんやろ。入れば。」


相変わらず目線は本の活字を追っているけれど、教室の入り口からなかなか動こうとしない雪美が気になって、思わず言うてしもた。


おそるおそる自分の机の中前に移動した雪美は、ごそごそと机の中に手を入れてまさぐった。

でも、机の中は空洞の音。

どうやらお目当ての物が見つからない様子。


「あれっ、あれっ、ない・・・・。」


困ったような声でとうとう、持っていた鞄を床に引っくり返して探す始末。

ああ、全然本に集中できひん。いい迷惑や。

はあ。

溜め息が思わず漏れる。


「騒がしい子やな、あんた・・・。何探してんねんな。」

本をパタリと閉じて、屈み込んで必死に探す雪美にやっと目を向ける。

「あのな、大事なキーホルダーがないねん。携帯につけとったんやけどな、知らんうちに千切れてしもててな・・・。」

何やこの子、今にも泣き出しそうやんか。

眉毛が八の字になってしもとる。

「携帯?そんなんどっか道で落としてしもてるんと違うか?」

何をそんなキーホルダー如きでそんな泣きそうにならなあかんねん。

ほんまにこんな子の気持ちがわからへん。

「どうしよう・・・。」

言うてる間にボロボロ泣き出しよった。

はあ。

「そんなに大事な物やったん?」

私は、仕方なく机から降りて、雪美の散らかした荷物の前まで来てやった。

雪美はこくこくと頷いている。

「一体なんやの?どんなやつ?」

「ピンクでな、これくらいの丸い石やねん。

それでな、そこにイニシャルが彫ってあるねん。」

ひっくひっくと肩を揺らしながら、雪美はキーホルダーの大きさを指で示した。

ちょうど、ビーダマぐらいの大きさか。

「きっとここには無いわ。他に心当たりないん?」

ふるふると首を横に振る。

「もしかしたら、校内でおとしてるんかもしれへんな。

一緒に探したるわ。」

雪美は目を丸くしている。

「え、いいの?」

何でこうなってしまったんやろか。

ほんまは、こんな面倒臭いこと大嫌いやねんけど、横でピーピー泣かれたら、本にも集中でけへんし、しゃあないわ。



そんなこんなで、何でか、私は雪美とキーホルダー探しをするはめになってしまった。

雪美って、なんかようわからんやつ。




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