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ここは神ノ樹通り裏路地12番街骨董店

ここは神ノ樹通り裏路地12番街骨董店*ススキ野原の男の子*

作者: 夢咲みやと
掲載日:2026/07/28

或る意味バッド。

いえ、普通にバッドです。

*ススキ野原の男の子*



 その日は秋も終わりの肌寒い日だった。空は曇天(どんてん)、風が吹くと体感温度は余計に下がる。

 小学5年生の秋葉奈々枝(あきばななえ)は、商店街の道と言う道を、満遍なくグルグルと回っている。もう小一時間過ぎたであろうか。奈々枝の耳は、真っ赤になって冷たくなっていた。



「どこか……どこかに有る筈」


 はーっと手に温かい息を吹きかけるが、それでも追い付かないくらい冷気が刺す痛みを感じる。




 それは、学校の掃除の時間、廊下の片隅で数人の女子が小声で話していた。


「何か、この街の男の子がそのお店見つけて、願い事叶えてもらったって噂あるね」

「それで魔女に会えたんだって」

「でも、大事な物を取られちゃったらしいよ?」

「大事な物って?」

「やっぱり、お金とか命じゃなーい?」


 こわぁーい

 

 女子が(かしま)しく騒いでいたと思うと、話が終わったのか、奈々枝の横を通り過ぎた。

 

 本当に?

 この街って言う事は、私でも行けるという事だ!!





 奈々枝には、この所ずっと気にかかっている事が有った。

 8歳くらいから、あるススキ野原で毎日遊んでた男の子が居た。名前は(あきら)。苗字は聞いた事が無かった。毎年、秋になると、そのススキ野原で会って遊んでいた。


 しかし、あんなに仲良く遊んでたのに、ここ3年程見ていない。

 

 すすきでフクロウを作ったり、ロケットを作ったり、魔法の箒を作ったり。

 日常でありながら、非日常。日が暮れるまで毎日遊んでいた、季節限定の遊び相手。

 

 その男の子は近くの大きな病院に、母親が定期的に入院しており、決まって秋にはここに来ると言っていた。そんな訳で、秋以外では遊べない相手だったのだ。


 母親に何か有ったのだろうか。

 滉に何か有ったのだろうか。


 最初の一年は、母親が治ったのかと思っていた。

 二年目には、自分が何かしてしまったのだろうかと思った。

 三年目の今年も、ついに現れる事が無かった。


 出来るなら会いたい。

 せめて、どうして会えなくなったかだけでも知りたい。

 

 歩きまわってニ時間、もう諦めようかと思った頃に、その扉は現れた。

 古い洋館のような、重厚な黒っぽい木の扉。


 確かに先ほどは無かった。

 第一に、ビルの裏口の配線などを無視した出現場所だ。


 ごくりと喉が鳴る。


 扉に手をかけると、冷たく固い感覚が手に伝わってくる。

 思い切ってドアを開くと、温かい空気が出てくるのと同時に「かららーん」とドアベルが鳴った。


 奈々枝は店内を見回す。まず、店員が居ない。古い家具やアンティークな小物、古書や何に使うか分からないものがいっぱいだ。古い時代の薬棚のような物まで有る。高価な物だろうと思って、手を触れる事が出来ない。そして、不思議な香も焚かれている。


「おや、お客様だね」


 どきり


 奈々枝は店内には人が居ないと思ったのだが、実際には居たようだ。

 大きな重厚な黒っぽい木のテーブルの後ろに、ゆったりとした椅子に女の子が座って怪しく微笑んでいた。


 見かけは高校生くらいに見えるのだが、妙に落ち着いている。こんな大人びた女子高生は、周りで見た事が無い。


 髪はお団子にし、そこからおくれ毛が流れている。服は着物を模したミニワンピースに白いエプロンをつけている。ここに、この一人しか居ないという事は、店員だと言う事だろう。


「これは可愛いお客さんだ。私はこの骨董店の店主、魔女とも呼ばれるね。話を聞きたいから、このソファに座ってくれないかい?」


 何と、店主だったのか。あまりにも想像と違って、奈々枝は驚く。魔女と言うなら、歳をとった女性を想像していたのだ。


 自分がソファに座ると、店主は大きな机の裏からキッチンに行ったらしく、奥からカチャカチャという音がしてお茶と共にテーブルに回ってお茶を勧めてくる。


「君の年齢ならミルクティーかな。ミルクでも砂糖でも、好きなだけ入れると良いよ」


 奈々枝がミルクティーを飲むのを見届けると、向かいに座った魔女は、足を組んで話を向けてくる。


「ここの店は、誰にでも開かれる訳では無いんだ。要するに、君は招待するに値する、特別な客だという事だよ。さあ、話を聞かせてごらん」



 奈々枝は、ぽつぽつと話し出した。


 小さい頃から、遊んでいる男の子が居た事。

 毎年秋になったら遊んでいたが、ここ三年見ない事。

 最後に、今どうしてるかだけ知りたい事。


「お礼は、お金は全然無いけど……パパに去年買ってもらったネックレスが有る。それくらいしか渡せるものが無いの……」


 魔女は一つ頷くと、ひとりごちる。


「そちらは、知れ渡っていないんだ?」


「え?」


「いや、こちらの話。しかし、私が欲しいのはお金じゃない。魔女の欲しい物は、人間の”気持ち”だよ」


「え、え……それは私の体から何かを取り出すって事?」


 奈々枝は、自分の体を抱きしめて身を捩る。


 魔女は、クスクスと「そうとるのか」とおかしそうに笑う。


「あながち間違いじゃないけど……これを胸に当てて気持ちを取り出すんだ」


 女の子は後ろの棚の、紅茶の量り売りをする専門店に置いてあるような、大きな缶を取り出して蓋を開けてみせる。そこには鈍色(にびいろ)の珠がいくつも入っていた。


 奈々枝は冷汗をかく。


「それ、痛い?」


「痛くないよ。……ああ、或る意味スッとするかもね」


 スッと?


「……じゃあ、分かった」


 奈々枝はぎゅっと目をつぶった。正面からクスクスという魔女の笑い声がする。

 言われた通りに待っていると、胸に小さな物が当てられている感覚がした。


 それを合図にザァッっと音がして、奈々枝は強い風が吹くすすき野原に放りだされていた。


「滉……滉!!」


 いつも遊んでいた辺りを、背丈ほども有るススキをかき分けて滉を探す。滉がここに居る事を、何故か確信していた。川の縁まで来ると、石の上に滉が座っていた。


「奈々枝ちゃん……?」


 三年ぶりに会う滉は、大きく成長していた。最後に有ったのは小学校2年生の頃だ。もう忘れられても仕方が無かったが、覚えていてくれたようだ。


「どうしたの?もう会えないかと思った」


 思ってもみなかった事を、滉が言う。

 それは、こちらのセリフだ。自分は毎年秋になると、何度もここに来ていた。


「こっちのセリフだよ!全然会えなかったし、私、滉の苗字も知らないし。はぁ……お母さんが治ったの?それとも、お家は遠かったけど引っ越してきて、秋だけじゃなくこっちに来られるようになったとか?」


「いや……僕の都合が悪くなって」


 滉の都合?具合が悪くなったとかでは無く?


「それより奈々枝ちゃん、僕を探しに来てくれたんだよね?」


 滉は満面の笑みなのに、何故だか寂しそうに見えた。


「そっか、じゃあ一緒に行こうか」


「どこに?」


「一緒に居れるところ」


 奈々枝の頭に霧がかかっていく。ああ、そうだ。せっかく会えたのだから、着いて行けばいいのだ。

 そうすれば、ずっと一緒に居られる。





「今回のお客様は、帰って来なかったかぁ」


 魔女はソファの上に残っている、奈々枝の荷物を横目で見た。




 テーブルには三年前の新聞。


『小学三年生の男の子、〇×川で水難事故』

 滉君は川辺に居た所に、足を滑らせて溺死した疑い。

 川に一人で遊びに行っていたが、川の中へ入り、足をとられた模様。


 カロン。

 魔女の口に、柘榴のような深い赤の珠が入る。


「甘くて辛い……。二人だけの世界が壊された痛みの味かな」


 そう店長は言ってガリっと飴をかみ砕くと、今回の依頼を手帳に書き終えパタンと閉じる。



 

 ここは神ノ樹坂裏通り骨董店。店主の目に叶う依頼が有るならば探してみてください。古いドアがあなたの前に開かれるかも知れません。

ダークも良い!と言われたので、今回もダークにしてみました。明るい話もその内(本当か?)。

といいつつ、今回は正真正銘バッドエンドですね。


ファンタジー物が完結しました!こちらはあまり真面目じゃないもの>https://ncode.syosetu.com/n3381ma/



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