ここは神ノ樹通り裏路地12番街骨董店*ススキ野原の男の子*
或る意味バッド。
いえ、普通にバッドです。
*ススキ野原の男の子*
その日は秋も終わりの肌寒い日だった。空は曇天、風が吹くと体感温度は余計に下がる。
小学5年生の秋葉奈々枝は、商店街の道と言う道を、満遍なくグルグルと回っている。もう小一時間過ぎたであろうか。奈々枝の耳は、真っ赤になって冷たくなっていた。
「どこか……どこかに有る筈」
はーっと手に温かい息を吹きかけるが、それでも追い付かないくらい冷気が刺す痛みを感じる。
それは、学校の掃除の時間、廊下の片隅で数人の女子が小声で話していた。
「何か、この街の男の子がそのお店見つけて、願い事叶えてもらったって噂あるね」
「それで魔女に会えたんだって」
「でも、大事な物を取られちゃったらしいよ?」
「大事な物って?」
「やっぱり、お金とか命じゃなーい?」
こわぁーい
女子が姦しく騒いでいたと思うと、話が終わったのか、奈々枝の横を通り過ぎた。
本当に?
この街って言う事は、私でも行けるという事だ!!
奈々枝には、この所ずっと気にかかっている事が有った。
8歳くらいから、あるススキ野原で毎日遊んでた男の子が居た。名前は滉。苗字は聞いた事が無かった。毎年、秋になると、そのススキ野原で会って遊んでいた。
しかし、あんなに仲良く遊んでたのに、ここ3年程見ていない。
すすきでフクロウを作ったり、ロケットを作ったり、魔法の箒を作ったり。
日常でありながら、非日常。日が暮れるまで毎日遊んでいた、季節限定の遊び相手。
その男の子は近くの大きな病院に、母親が定期的に入院しており、決まって秋にはここに来ると言っていた。そんな訳で、秋以外では遊べない相手だったのだ。
母親に何か有ったのだろうか。
滉に何か有ったのだろうか。
最初の一年は、母親が治ったのかと思っていた。
二年目には、自分が何かしてしまったのだろうかと思った。
三年目の今年も、ついに現れる事が無かった。
出来るなら会いたい。
せめて、どうして会えなくなったかだけでも知りたい。
歩きまわってニ時間、もう諦めようかと思った頃に、その扉は現れた。
古い洋館のような、重厚な黒っぽい木の扉。
確かに先ほどは無かった。
第一に、ビルの裏口の配線などを無視した出現場所だ。
ごくりと喉が鳴る。
扉に手をかけると、冷たく固い感覚が手に伝わってくる。
思い切ってドアを開くと、温かい空気が出てくるのと同時に「かららーん」とドアベルが鳴った。
奈々枝は店内を見回す。まず、店員が居ない。古い家具やアンティークな小物、古書や何に使うか分からないものがいっぱいだ。古い時代の薬棚のような物まで有る。高価な物だろうと思って、手を触れる事が出来ない。そして、不思議な香も焚かれている。
「おや、お客様だね」
どきり
奈々枝は店内には人が居ないと思ったのだが、実際には居たようだ。
大きな重厚な黒っぽい木のテーブルの後ろに、ゆったりとした椅子に女の子が座って怪しく微笑んでいた。
見かけは高校生くらいに見えるのだが、妙に落ち着いている。こんな大人びた女子高生は、周りで見た事が無い。
髪はお団子にし、そこからおくれ毛が流れている。服は着物を模したミニワンピースに白いエプロンをつけている。ここに、この一人しか居ないという事は、店員だと言う事だろう。
「これは可愛いお客さんだ。私はこの骨董店の店主、魔女とも呼ばれるね。話を聞きたいから、このソファに座ってくれないかい?」
何と、店主だったのか。あまりにも想像と違って、奈々枝は驚く。魔女と言うなら、歳をとった女性を想像していたのだ。
自分がソファに座ると、店主は大きな机の裏からキッチンに行ったらしく、奥からカチャカチャという音がしてお茶と共にテーブルに回ってお茶を勧めてくる。
「君の年齢ならミルクティーかな。ミルクでも砂糖でも、好きなだけ入れると良いよ」
奈々枝がミルクティーを飲むのを見届けると、向かいに座った魔女は、足を組んで話を向けてくる。
「ここの店は、誰にでも開かれる訳では無いんだ。要するに、君は招待するに値する、特別な客だという事だよ。さあ、話を聞かせてごらん」
奈々枝は、ぽつぽつと話し出した。
小さい頃から、遊んでいる男の子が居た事。
毎年秋になったら遊んでいたが、ここ三年見ない事。
最後に、今どうしてるかだけ知りたい事。
「お礼は、お金は全然無いけど……パパに去年買ってもらったネックレスが有る。それくらいしか渡せるものが無いの……」
魔女は一つ頷くと、ひとりごちる。
「そちらは、知れ渡っていないんだ?」
「え?」
「いや、こちらの話。しかし、私が欲しいのはお金じゃない。魔女の欲しい物は、人間の”気持ち”だよ」
「え、え……それは私の体から何かを取り出すって事?」
奈々枝は、自分の体を抱きしめて身を捩る。
魔女は、クスクスと「そうとるのか」とおかしそうに笑う。
「あながち間違いじゃないけど……これを胸に当てて気持ちを取り出すんだ」
女の子は後ろの棚の、紅茶の量り売りをする専門店に置いてあるような、大きな缶を取り出して蓋を開けてみせる。そこには鈍色の珠がいくつも入っていた。
奈々枝は冷汗をかく。
「それ、痛い?」
「痛くないよ。……ああ、或る意味スッとするかもね」
スッと?
「……じゃあ、分かった」
奈々枝はぎゅっと目をつぶった。正面からクスクスという魔女の笑い声がする。
言われた通りに待っていると、胸に小さな物が当てられている感覚がした。
それを合図にザァッっと音がして、奈々枝は強い風が吹くすすき野原に放りだされていた。
「滉……滉!!」
いつも遊んでいた辺りを、背丈ほども有るススキをかき分けて滉を探す。滉がここに居る事を、何故か確信していた。川の縁まで来ると、石の上に滉が座っていた。
「奈々枝ちゃん……?」
三年ぶりに会う滉は、大きく成長していた。最後に有ったのは小学校2年生の頃だ。もう忘れられても仕方が無かったが、覚えていてくれたようだ。
「どうしたの?もう会えないかと思った」
思ってもみなかった事を、滉が言う。
それは、こちらのセリフだ。自分は毎年秋になると、何度もここに来ていた。
「こっちのセリフだよ!全然会えなかったし、私、滉の苗字も知らないし。はぁ……お母さんが治ったの?それとも、お家は遠かったけど引っ越してきて、秋だけじゃなくこっちに来られるようになったとか?」
「いや……僕の都合が悪くなって」
滉の都合?具合が悪くなったとかでは無く?
「それより奈々枝ちゃん、僕を探しに来てくれたんだよね?」
滉は満面の笑みなのに、何故だか寂しそうに見えた。
「そっか、じゃあ一緒に行こうか」
「どこに?」
「一緒に居れるところ」
奈々枝の頭に霧がかかっていく。ああ、そうだ。せっかく会えたのだから、着いて行けばいいのだ。
そうすれば、ずっと一緒に居られる。
「今回のお客様は、帰って来なかったかぁ」
魔女はソファの上に残っている、奈々枝の荷物を横目で見た。
テーブルには三年前の新聞。
『小学三年生の男の子、〇×川で水難事故』
滉君は川辺に居た所に、足を滑らせて溺死した疑い。
川に一人で遊びに行っていたが、川の中へ入り、足をとられた模様。
カロン。
魔女の口に、柘榴のような深い赤の珠が入る。
「甘くて辛い……。二人だけの世界が壊された痛みの味かな」
そう店長は言ってガリっと飴をかみ砕くと、今回の依頼を手帳に書き終えパタンと閉じる。
ここは神ノ樹坂裏通り骨董店。店主の目に叶う依頼が有るならば探してみてください。古いドアがあなたの前に開かれるかも知れません。
ダークも良い!と言われたので、今回もダークにしてみました。明るい話もその内(本当か?)。
といいつつ、今回は正真正銘バッドエンドですね。
ファンタジー物が完結しました!こちらはあまり真面目じゃないもの>https://ncode.syosetu.com/n3381ma/




