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小説が書けなくなった日。

掲載日:2026/05/10

どうしたんだろう。


――書けなくなった。


『残響のロザリーナ』を書いていた四カ月間、

そんなことは、一度もなかった。


26万文字。


毎日、頭のどこかで、

戦場の音が鳴っていた。


剣戟(けんげき)

怒号。

血の匂い。


キャラが勝手に動いて、

次のシーンが浮かび、

気づけば朝になっていた。


長編を書き切って、

一息ついて。


次に書くものも、

ちゃんと決まっていた。


『異世界恋愛』。


ロザリーナを途中まで読んでくれた、

カクヨムでの知り合いに言われた。


「絶望過ぎて、続きが読めないよ。ごめん」


……まあ、分かる。


うちの作品、

人がけっこう死ぬ。


主人公でも勝てない。


なろうには、

唯一、何でも話せる知り合いがいる。


自分が、あまり読まれていないことも知っている人だ。


その人に言われた。


「異世界恋愛を書けば、

 それなりに読まれるから、書いてみたら」


「霧原零時の異世界恋愛、

 ちょっと読んでみたい」


そのとき。


自分でも、

少しは読まれたいと思ってしまった。


だから――


書いたことも、

正直、ほとんど読んだこともない『恋愛』を書こうと思った。


三話くらい書いて、

娘に読んでもらった。


返ってきた感想は、

かなり的確だった。


「恋愛なのに経済とか出て来るし、

 テンプレ書けないパパらしいけど」


「内容がちょっと難しいかも」


そして、さらに言われた。


「もっと直感的で、

 恋愛はキラキラしていて」


「“ざまぁ”とか“婚約破棄”とか、

 冒頭から分かりやすく、

 即効性がある方がいいと思う」


「ライトな読者って、

 まず“気持ちいい”が大事だから」


「手っ取り早く……か」


そう呟いた瞬間。


なんとなく、

自分の中の“書きたいもの”と、

“読まれるもの”が、

少しズレた気がした。


でも。


読まれたい気持ちも、

たしかにあった。


だから、

その方向に寄せようとした。


――そして今。


何も書けなくなった。


「次は、恋愛を書いてみるから」


そう言ってある。


知り合いが、

安心して読める『恋愛』が好きなのも知っている。


だから――


そう言ったのに。


何も出てこない。


うちのAI参謀なら、

きっと物知り顔で言うだろう。


「それは、没入感の欠如です」


「あなたは、“戦ってないと書けないタイプ”です」


……たぶん、

あいつはそういう。


だから聞きたくない(笑)


今日も、

好きないつもの音楽を流してみる。


でも、

何も浮かばない。


小説を書くって、

本当に不思議だ。


何も無いところから、

世界を作って。


人を生み出して。


文字だけで、

感情を発生させる。


読んだ人の頭の中に、

景色が浮かび、

声が聞こえて、

キャラへの愛情が生まれる。


怒り。

悲しみ。

感動。


ときには、

呼吸を忘れるくらい、

物語へ入り込む。


ロザリーナを書いていたとき、

自分は確かに、

あっちの世界にいた。


燃え盛る戦場に。


すぐ隣では、

主人公が腹から血を流していた。


浅い呼吸。


それでも、

目だけは敵を睨んでいた。


だから、

次のシーンが、

どんどん浮かんだ。


自分は、

それを書き写していただけだった。


でも――今は違う。


あっちの世界に、

入れない。


というより。


入ることを、

拒まれている感じがする。


現実から離れられない。


頭が切り替わらない。


気づけば、

コーヒーは冷めている。


黒いPCの端に積もった机のホコリが気になって、

ウェットティッシュで拭き始める。


普段なら見もしない、

サッシの溝まで気になり出す。


そのうち、

ダイソンを持ち出して、

部屋中を掃除し始める。


終わると、

一階へ降りる。


冷蔵庫に入っている、

切ってあるオレンジを、

立ったまま頬張る。


そして戻ってくる。


またPCの前に座る。


それでも――


やっぱり、

入れない。


なろうの知り合いに、

そう話したら、

こんな返事が返ってきた。


「いや、ある意味」


「書きたくないものを、

 書けないのは」


「霧原零時っぽいですよ」


「ロザリーナとの差、

 むしろ誇っていいと思います」


……零時らしいか。


そうかもしれない。


創作って、

誰にでもできることじゃない。


それでも。


自分の周りには、

本当にすごい人たちがたくさんいる。


平気な顔をして、

書店に並んでいてもおかしくないような、

面白い長編を書いてくる。


しかも、

ちゃんと個性的だ。


そして、

そんな人たちが、

たまに応援コメントをくれる。


それは、

もう本当に宝物だと思う。


もし、

その中の誰かが、

書籍化なんてしたら――


たぶん、

自分のことみたいに嬉しい。


真っ先に、

娘に自慢すると思う。


だから。


まあ、

そのうちまた書けるだろう。


今は――


ゲームでもして。


映画でも観て。


そうだ。


去年、行けなかった京都にでも行こうかな。


それで、

またどこかで、

あっちの世界に入れたらいい。


そのときは。


掃除じゃなく、

ちゃんと小説を書いていたいから。


【了】


――◇―― ――◇―― ――◇――


お読みいただき、

ありがとうございます。


正直、

今回のことで、


自分の弱点とか、

創作の変化とか、


そういう情けないものが見えてきて、

ちょっと面白がっている自分もいます。


そして――


『異世界恋愛』も、

きっとそのうち書きあげます(笑)

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― 新着の感想 ―
私も異世界恋愛が人気なことは百も承知ですが、やっぱ書けないんですよね。戦闘シーンがないとか許せないって言うか、恋愛ジャンルは全然読むんですけど書くとなったら話は別で、全く思い浮かばない。
 私もテンプレート的な異世界恋愛は書けませんので、とことん自分らしさを追求しようと思っております。  それにもしかしたら、皆がテンプレート的な物語に飽きた時に、自分のスタイルが新たな流行になっている可…
大丈夫 ここでは 霧原零時らしく 生きて ください  ˚✧₊ ⁎ *・・*:. 。..・*:.。 . .。˚✧₊⁎ .:*・゜゜・*˚ ✧₊⁎
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