第3話 血統
ベイルは、アリアスと別れて一人帰路についていた。
辺りは暗く、自分の心情を映し出しているかのように感じられた。
アリアス、相当応えただろうな。
そんなことを内心で呟いていた。
ベイルもかつては地方の地方役人を務める父を持ち生活は裕福であった。しかし、流行病によって父を失ったことで財源を失い家具を家を売り払い山奥の小さな家に母と二人で住んでいる。
アリアス•ハルバードと出会ったのは今から6年前のことだった。アリアスは没落貴族の末裔であり、祖父の裏金によって家を失ったという。
お互いに貧乏な生活で、出稼ぎを行う中で偶然あい、以降は親友という立ち位置になっていた。
そんな関係性であるがために、ベイルはより一層アリアスに対しての心配度具合は計り知れないものがあった。
「義勇軍を作るとか…あいつの意見を尊重したいが、今回ばかりは無理だな」
ベイルは思わず弱音を吐いていた。
王都で見た惨劇の数々に対して、ベイルもまたアリアスに負けないほどの不快感を覚えたのは確かだった。
しかし、ベイルはアリアスとは違って判断力に欠けていた。
俺たちのような貧乏人が義勇軍を作れる金や、馬はどこから手に入れるのか?
アリアスの思想に同情はしたいが、どうにも現実感を求めるベイルの悪い癖だった。
そうこうしているうちに、ベイルは自宅へと着いていた。
戸を開けると母の姿があった。
身につけたものこそ、みすぼらしいものだが雰囲気は高貴さを感じさせるものだった。
「ベイル、おかえり」
優しい声で出迎えてくれていた。
「あぁ、ただいま」
ベイルは力無く答えて椅子に座り込んでいた。
「どうかしたのかい?」
母は暗い表情で俯くベイルを見て、そう声をかけていた。
「いや、その、」
ベイルははぐらかそうと思ったが、母の真剣な眼差しに降参して、アリアスの兄夫婦が赤日隊によって殺されたことを話していた。
「赤日隊、またなのね」
母は話を聞き終わるとそう呟いていた。
「そうなんだよ。王都は火に包まれて、最近では不作でしかない。世の中が乱れてる。そう感じるんだよ」
ベイルは力無く独白していた。
「ベイル、あなたはそれでいいのかい?」
母は突然そう聞いてきていた。
「それでいいって?」
「このまま、ことの成り行きを見てるだけの人生であなたは満足なのかってこと」
母はいつになく厳しい口調で問いかけていた。
ベイルはそのことに思わず、動揺したがすぐに自身の内を漏らしていた。
「アリアスは、義勇軍を作るらしい。俺は人徳者だーなんとか言ってて呼ばれてるんだ。けどさ、俺たちみたいな貧民でさ何ができるんだろ?って」
ベイルはそう呟いていた。
自分では意識していなかったが、その口調には無念の響きが混じっていた。
それに気がついたかのように母は、黙ったまま押し入れの方へと足を運ばせていた。
しばらくすると、袋に包まれたなにを取り出していた。
「それは?」
ベイルはそう質問していた。
「これは、私たちに授けられた先祖たちの形見よ」
そうして、母は袋を開けていた。
中からは黒と銀という高貴さを思わせる剣が出てきていた。
「そんな、高価なものをいったいどこで手に入れたの?」
ベイルは錯綜する事実に対して戸惑いを覚えていた。
「これは、ヴェイル•カサターンよ」
母はそう答えていた。
「ヴェイル•カサターン!?それは、ヴァルタニア初代皇帝の持っていた剣だ!なぜ、お母さんがそれを持ってるんだ?」
ベイルはまた頭を悩ませる問題に直面していた。
「ベイル、あなたは王族の子孫なのよ。誇り高き英雄の末裔よ」
母の口からそう告げられた時ベイルは笑っていた。
「お母さん、疲れてるんだよ。じゃあ、なんで俺の父さんやおじいちゃんはそんなそぶりなかったわけ?」
ベイルはそう言っていた。仕事なさすぎでお互いに疲れ切ってるんだろう、とたかをうっていた。
しかし、母はそんな言動を聞き流しながら再び話し始めていた。
「なら、この剣を抜いてみなさい。そうすれば、わかる時が来る」
そうして、母はベイルに剣を手渡していた。
それを受け取って、ベイルは鞘から剣を抜いていた。
「…!」
それは、剣と呼ぶにはあまりにも綺麗だった。刀身は磨き上げられ、傷一つもない。そして、柄の部分にはヴェイルと記された刻印が施されていた。
「本当に、本当に俺はヴェイル•ヴァルタニアの子孫なのか?」
甚だに信じられないことが立て続けに起こる中で、思わずベイルは母がなぜこんなことを話すのか自分にとって分からなかったし、今後も解ることはないと分かっていた。
一人の青年は、今己の為すべきことを探す為に戦おうと決意を固め始めていた。
ベイル•アステッド、23歳。
新たなる英雄が芽吹き始めていた。
ヴェイル•カサターン
ヴァルタニア初代皇帝、ヴェイル•ヴァルタニアが生涯に渡り携えていた名刀。その時代では珍しく両刃ではなく片刃で構成されており、一騎打ちといった対個人戦で活躍するものとして設計されている。
ヴェイルの病没後に行方をくらまし、現在においても部品すらも見つかっていない。




