第27話 高嶺の花
王都アルタバーナは、活気にあふれていた。
5年前に起きた、王都炎上によって一時は瓦解し、荒廃した街並みを見せていたが今ではその影こそ見えるものの、人々の団結が一際目立つような形であった。
それと同時に驚いたのは、ベイル自身が罪人という肩書きが一切無かったことが心底驚いていた。
それに疑問を持ち始めていたが、ベイルにとって起こる悲劇のためにベイル自身が後に思い出すのは今から記す出来事一択である。
「アルタバーナも綺麗になったな」
ベイルはアレフシアにそう問いかける。
しかし、アレフシアは余りにも硬く心を閉ざしてしまっていた。昨日とはうって違うその姿に対してベイルは驚きを隠せなかった。
「どうしたの?そんなに固まってさ」
ベイルもその気持ちを解こうとして、軽く話すように心がけていたがその努力も無駄であった。
ベイルはそんな気まずげな空気を漂わせながら、その姿に声をかける勇気が出なかった。
ベイルは、そのことを聞こうとして周りの付き添いに声を掛けていた。
すると、誰もが悲しげな表情で俯いていた。
「どうしてそんな顔をするんですか?アレフシアがどうしたって言うんですか?」
ベイルもその状況にいたたまれなくなってきた為に、少し脅迫じみた雰囲気で話さざるを得なかった。
すると、もう心も折れたのか一人が話し始めていた。
「アレフシア様は王都にて婚約されるんですよ」
ベイルはその言葉を聞いて思わず胸焼けしたような、焦燥感に駆られていた。
「結婚なら、別にいい話じゃないですか」
ベイルは、目を逸らしてそう答えていた。
「いやいや、そんな単純な話じゃないんですよ。いわば、これは政略結婚のようなものですよ」
ベイルはその言葉を聞いた瞬間に、思わず目を見開いていた。
「アレフシアが政略結婚に?誰に嫁ぐんですか?」
「皇帝陛下、エルミス•ヴェロニカよ」
「待ってくださいよ、二人の年は親子ほど離れてますよ。許されてもいいんですか?」
ベイルはそう捲し立てて一目散にアレフシアの元へと走っていった。
しばらくして、息も絶え絶えになったころになるとようやくその姿を確認できていた。
辺りには護衛と見られる衛兵たちが大勢いた。
「何者だ!?」
衛兵たちはそう怒鳴っていたが、すぐさま中にいたアレフシアによって口を閉ざされていた。
「しばらくお待ちを」
アレフシアはそう言って、ベイルの手を取って屋内へと連れていっていた。
「なんでここまで来たの?」
アレフシアはそう発していた。
心底信じられないと言う、気持ちが強く現れていた。
「君が出るまでに、伝えておきたいことがあるんだ」
「君を好きになったんだよ、ただそれだけ…」
ベイルは、そう言い残して立ち去ろうとしていた。
その手をアレフシアが引き留めていた。
「私もあなたが好き…」
その言葉にベイルは心が躍りかけていた。
「遠慮はいいよ、俺も覚悟してたから」
「違う、違うの!本当よ、本心からあなたの事を想っているの!」
アレフシアの涙交じりの声を聞いてベイルは思わずたじろいだ。
「君は、そんな、好きじゃない人と結婚するのか!?おかしいだろ!」
「あなたは分かってない、これは他にも見られる例よ。あなたこそ、世間知らずよ」
アレフシアの至極まともな言葉に対して、ベイルはただ,俯くしか無かった。
「俺は、俺は…君の婚約を止めることはできないのかい?」
ベイルの声を聞いて、アレフシアも涙を溜めていた。
「あなたの気持ちは嬉しいわ…でも、その力はないよ」
その言葉が残酷にもベイルの心に見えない短剣として、突き刺さっていた。
「そんな…」
ベイルはそう呟くしか無かった。
自分が余りにも無力な存在であることに、改めて気づいていた。
「それじゃあ、さようなら。元気でね…」
アレフシアはそう手を振ってベイルの元から離れていった。
ベイルはその手を掴もうとしたが、空を駆り体制を崩しかけていた。
「まっ…!」
そう言おうとした時にはもう姿は見えなかった。
ベイルは、自身の無力さに泣いた。
泣いても何が出来るという訳ではないというのに。
「出して!」
アレフシアはそう口早に言って馬車に乗った。
従卒たちは戸惑いを隠せなかったが、しばらくして馬車は動き始めていた。
アレフシアはカーテンも閉めて暗闇の揺れ動く馬車の中で声を押し殺して泣いていた。
好きな人をここまで、突き放すのが耐えきれなく、自身が余りにも憎くなってしまった為であった。
こうして、二人の男女の淡い恋は悲幕に閉じるかに思えた。




