第10話 煌めく者
「プロペティが破れただと!?」
赤日隊首領、アウストがそう怒鳴り散らしていた。
辺り一面に酒の入ったグラスが割れてしまい、辺り一面に酒臭が全体を包み込み始めていた。
その怒気に対してその部下たちもまた、恐怖の渦に巻き込まれていた。
「誰かいねぇのか!我ら赤日隊勝利を願う戦士は!?」
アウストはそう問いかけていた。
すると、その中の1人がむくりと立ち上がっていた。
「私にやらせていただきたい」
覆面の男はそう答えていた。
「おお、左将軍ディアスか!」
アウストはそう喜びの声をあげていた。
ディアスは今は亡き、プロペティと双璧をなす赤日隊の要であった。
その男に一縷の望みを託そう。
アウストはそうして、ディアスに対して出撃命令を打ち立てていた。
時に、ヴァルタニア歴326年、2月中旬ごろであった。
ベイル•アステッド率いる義勇軍は、アリアスとディン、そしてパーシヴァルといった有能でまだ若い人々を連れていた。若いながらもその名声は討伐軍の中でも日に日に大きくなっていた。
「将軍、ベイル•アステッドは危険な男ですぞ。この若さでここまでの武勲を立ててしまえば、我々の面目も潰れますぞ」
フリオス配下の副官の1人はそう苦言していた。
フリオスもまた、若者が武勲を上げることに対しては何も危険視してはいなかったが、同族の中でこうも不審な目に晒されるのは仕方がないと思う節もあった。
「貴公の意見も一理あるかもしれぬな」
フリオスは形式上そう答えるしかなかった。
以降、ベイルたちは戦場において目立つような活躍をする機会を意図的に減らされていた。
「全くやってらんねぇぜ!」
ディンが思わず悪態をついていた。
ベイルは思わず、自身の腰に刺さっている剣である、ヴェイル•カサターンに手を置いていた。
王族の末裔にも関わらず、何とも情けないな。
ベイルは思わず自分の無力さにたいしてやるせなさを覚えていた。
プロペティ討伐!
派遣された討伐部隊の間でも、その武功は戦意を向上させる上で必要不可欠なものだった。
「ベイル•アステッドか…」
その討伐部隊の中に一際若い将軍がいた。
年はベイルらに比べて比較的上ではあるものの、若い青年だった。
その男の名はフリント•フォーレ。
後に天下の双雄と呼ばれるうちの一人である。
「フォーレ将軍」
フォーレの元に伝令がやってきていた。
「ケリィ、どうした?」
ケリィに対してフォーレはそう尋ねていた。
フリント•フォーレとケリィ•ローライズは互いに貴族出身である。
そして、フォーレは皇帝お墨付きの大貴族の嫡男であった。
宮廷学校で2人は出会い、時を超えて常に戦いの中で武勲をあげていた。
共に27歳。常に若い英雄として、名を轟かせてきていたがその仲間がまた増えるように感じていた。
「はっ、ディアスが我が部隊に先制攻撃を仕掛ける気配ありとのご到達です」
その言葉に対してフォーレは笑みを浮かべていた。
ディアスはその行動を甚だ疑問に感じて思わず、その意図を伺っていた。
「そんなの、また武勲をあげれるからに決まっているからだろう?」
そうけろりとした表情で言われてしまい、ケリィは思わず肩を落とした。
「あなたと言う人は…変わらないですね」
ケリィはそう言うのが精一杯だった。
「そうさ、俺は変わらない。俺は、いつかこの帝国の、この皇帝になる男だからな!」
フォーレはそう豪語していた。
すると、ディアスは慌ててその口を手で閉じていた。
「そのようなお言葉は、公では言わないでいただきたいです!」
その言葉に対して、フォーレはその捕縛から逃れた。
「考えてもみろ、300何年続いた国家だって不滅なわけじゃない。国家は移り変わっていく。その潮時が近いとは、誰もが思っているさ」
フォーレはそう呟いて外を眺めていた。
満月の夜、星々が暗い空を眩く煌めいていた。
「この星々の、一際輝くものが俺だ」
そう言ってフォーレは手を伸ばしていた。
その姿を見ながらも、ケリィは微笑ましく見守っていた。
翌日、フォーレ率いる討伐軍は出撃準備がかけられていた。馬を出し、鎧をつけ剣を腰に刺していた。
「いいか、首をとった者には恩賞を賜るぞ!」
フォーレは手綱を引き馬を大きくのけぞらせた。
「首は我らの手にあり!」
そう豪語して、フォーレは先頭に立ち騎馬隊を引き連れて行った。
ヴァルタニア歴326年、3月。
時代には、まだ多くの英雄がいる。
ヴァルタニア三龍
ヴァルタニア帝国、ヴェイル王朝末期にかけて現れた、ベイル•アステッド、アリアス•ハルバード、フリント•フォーレの総称を指す。




