金の色が見える
AIが開発した新システム《GV-Scan》により、すべての金銭取引の由来が即座に解析され、その「労働価値」や「倫理的背景」によって色が付与されるようになったのだ。
投資詐欺で得た金は黒く濁り、使用するごとに価値が消えていく。
富裕層の継承財産は灰色にくすみ、使えば使うほど市場から信頼を失う。
第一章:「革命の日」
その日、世界中の通貨に色がついた。
SNSではハッシュタグ #MoneyColor がトレンドを独占し、ニュースサイトのトップは「ついに始まった"Global Value"」の文字で埋め尽くされた。
最初は人々の間に困惑が広がった。財布にある紙幣に薄っすらとオレンジ色の輝きが宿る人もいれば、青、緑、あるいは何の色も持たない無色透明の「ゼロバリュー」もあった。
AIが開発した新システム《GV-Scan》により、すべての金銭取引の由来が即座に解析され、その「労働価値」や「倫理的背景」によって色が付与されるようになったのだ。
投資詐欺で得た金は黒く濁り、使用するごとに価値が消えていく。
富裕層の継承財産は灰色にくすみ、使えば使うほど市場から信頼を失う。
一方、環境保護活動に参加しながら稼いだ収入は澄んだ緑に光り、他の通貨の何倍もの購買力を発揮した。
人々は戸惑いながらも、この新しい「倫理経済圏」のルールを学び始める。
第二章:「色を見る者たち」
「お前の金、赤いな。誰かの命を削って稼いだか?」
スラムの少年が、富裕層の投資家に向かって放った一言が話題になり、動画は数千万回再生された。
企業は次々とGVスキャンを導入せざるを得なくなり、企業評価も「倫理スコア」が最大の指標となった。
グローバル企業はこぞって「価値の色」を浄化するために、ボランティア活動、賃金是正、フェアトレードへの参加を始める。しかし、ただの「カラーウォッシング」も横行し、AIはさらに厳格な分析モジュールを更新し続ける。
第三章:「色を盗む者」
しかし、完璧なシステムなど存在しない。
「価値のハッカー」たちは、労働者の名義で偽装した資金を動かし、濁った金に擬似的な「青」や「緑」を付与する技術を開発し始める。
その中心人物は、元金融エンジニアのカリスマ女性「レイナ」。彼女はこう言った。
「価値を決めるのは誰?AI?政府?それとも…人間の目だろ」
レイナは、倫理スコアが高すぎて逆に操作されるという、新たな矛盾に切り込む革命を始める。
第四章:「色を捨てる者」
一方、「価値の色」が社会の分断を加速させた側面もあった。
無色の通貨を持つ者たちは差別され、職も失い、存在を否定された。
その中から現れた一人の詩人、「クシロ」は、世界にこう宣言した。
「色がついた金は、また新しい鎖になる。人が人を測る基準に過ぎない。だから、私は無色の金で世界を旅する」
彼は「色のない経済圏」="ZeroColor Economy"を提唱し、世界中に共感を呼ぶ。
第五章:「本当の価値とは」
世界は再び岐路に立つ。
「Global Value」によって貧困層は豊かになったが、新しい格差が生まれた。
人間の善悪、労苦、犠牲、貢献を、AIが定量化して良いのかという倫理的な議論が沸騰する。
人類は「価値の色」を信じるのか、それとも「価値の意味」を再定義するのか。
最後、少年が母親にこう尋ねる。
「この10ドル、緑色だよ。これで何ができる?」
母は微笑んで答える。
「それはね、世界を変えられる色よ」
第二部:「価値の地軸」
第一章:「新しい地図」
"旧世界"では「G7」が世界を牽引していた。
だが、GVスキャンによって明らかになったのは、これまで蓄積された莫大な富の多くが、環境破壊、植民地支配、武器取引、労働搾取など「倫理的に汚れたルート」で得られていたことだった。
結果、米ドル、ユーロ、円は急速に「倫理価値を持たない通貨」として信用を失い、かつては「援助される側」だった国々――ナイジェリア、ガーナ、ケニア、タンザニア――が、世界市場で最も「価値ある金」を持つ国々として浮上した。
世界銀行に代わって、新たに設立された「GVF(Global Value Fund)」の中心には、アフリカ諸国が名を連ねていた。
第二章:「南の帝国」
アフリカ最大の都市連合「アフロポリス」では、金の色に応じて特別な通貨レートが適用される。
倫理的純度が99%以上の通貨は、「GVE(Global Value Equivalent)」と呼ばれる最上級通貨に変換可能。
欧米の資本家たちは、自らの資産がGVEに換金できないことでパニックに陥り、「貧しさ」の象徴として扱われるようになる。
アフリカの若者たちは誇り高く、こう叫ぶ。
「私たちは金を掘るために汗をかいてきた。だが今、私たちは価値そのものを掘り起こしたんだ」
アフリカの大学や研究機関に世界中から人材が集まり、かつての先進国からの移民が急増する。
第三章:「北の難民」
ヨーロッパの各都市では「金の色」の影響で経済が崩壊し、仕事を失った人々が「倫理的に価値ある」労働の機会を求めて南へ流れ始める。
「ヨーロッパ難民」と呼ばれる新しい人々が、アフリカの国境に列をなす。
国境ではGVスキャンが義務付けられており、「過去の富の色」が入国審査の最大の障壁となる。
アフリカ諸国では、逆移民に関する議論が巻き起こる。
「過去に私たちを搾取した者たちを、今度は私たちが救うべきなのか?」
第四章:「見えざる色」
やがて、人々の間に「色の評価」への疑問も生まれ始める。
本当に汗水流して働いた金だけが価値があるのか?
医療や教育のように「見えにくい貢献」はどう扱われるのか?
AIによる判定に偏りや政治的意図が混入していないか?
特に、色が可視化されることによる「新たな差別」や「偏見」が社会に生まれていた。
欧州出身の女性医師クラウディアは、こう語る。
「私は20年、無償で難民キャンプに医療支援をしてきた。けれど、GVスキャンに映るのは“白い金”だけ。私の行動に“色”がないのはなぜ?」
「色のない価値」、つまり「不可視の貢献」をどう扱うべきかが、次なる論点となる。
最終章:「地軸を超えて」
世界は再び、選択を迫られる。
AIが管理する「倫理的通貨」システムを維持し続けるのか?
それとも、人間自身が「価値とは何か?」を再定義し、より複雑な共感や文脈を取り入れた経済モデルを築くのか?
最後の場面。
アフリカの少年と、北から来た元投資家の老人が、同じ畑で土を耕している。
老人が問う。
「私の金には、もう色はない。でも、この畑で働いたら、また色がつくだろうか?」
少年は笑って答える。
「色は、金につくものじゃないよ。人の心につくんだ。」
人々が使う通貨、という交換価値は正当なものなのだろうか?
結局人類は金という交換価値に振り回されてきたのだ。