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6.戦果はいかに?

「何をしているのですか!」


 その場に鋭い女性の声が響いた。

 声がした方を振り返ってみると、厳しい目つきをした女性が立っている。話に聞くメイドだか侍女だかだろうか。見た目は婆様と同じくらいの年齢に見えるが、果たしてどうだろう。ともかくその人物の声を聞いて騒がしかった周囲も一旦落ち着いたようだった。

 この人は話が通じるのだろうか。


「初めましてこんにちは。北の草原からやってきました、ウルナ族の長の娘、アーシャと言います。ご飯をもらいに来たのですが、皆さんにスルーされたので勝手に拝借していました」


「食事……ですか?」


「はい! もしかしてこの国の人はご飯食べなくても生きていけるんですか? 私は食べないと無理なんですよね」


 別に名乗らなくたってこの衣装を見ればどこの誰かぐらい想像はついただろう。だが一応礼儀というものもあるし、名乗っておいた。

 アーシャの話を聞き、女性は眉間にグッとしわを寄せる。


「この厨房で、この方の食事を担当するという話は出ておりましたか?」


 よく通る声が厨房の全員に問いかける。その問いに皆、目を逸らす仕草を見せた。


(これは……一応私のご飯を用意する話はあったのかな?)


 後ろめたいからこそ目を逸らすものだ。少なくとも上層部はアーシャの面倒を見る気はあったらしい。

 こちらの国の立場になってみると、対外的に嫁にしたとする人物の衣食住を保証しないのは流石に国家としてアレだろう。女一人の面倒も見られない甲斐性なし、なんて外野に言われた日にはプライドが高いこの国の人は血圧上がって血管切れるんじゃなかろうか。

 女性も同じようなことを考えたようだ。


「適正な予算を分配した事を私も確認しています。にもかかわらず彼女の食事がない。これは誰かが不正を働いたということです」


「ですが女官長様、こいつは蛮族で……」


「言い訳は無用です。彼女が草原の民であることは間違いありません。そして、陛下に輿入れすべくこの国にいらした方です。その方を貶めることは陛下のご意向を阻害することに他なりません」


 ピシリと言い渡す女性に、少しこの国の人間を見直す気になった。あまりにもこちらを攻撃してくる人間が多すぎたせいで、ちょっと感覚が麻痺してしまったのかもしれないけれど。


「こちらの不手際で申し訳ありませんでした。後で部屋に食事を届けさせますので、そちらは下ろしていただけませんか?」


 アーシャが先程から掴んだままの肉の塊のことを言っているのだろう。こんなものを王宮内で持ち歩いている女がいると噂になってしまえば、確かに恥だろう。もしかしたら、これが物凄い高価なシロモノなのかもしれないが。

 どちらにしても、こっちはそう易々と言うことを聞いてやれる状況ではない。


「あの筵とか農具の入ってた小屋にご飯持ってきてくれるんですか?」


「筵とか農具……?」


「はい! 蛮族の私に合わせて納屋を用意してくださったそうですよ」


 続けてあの野郎の人相を伝える。

 ざまぁみろチクってやったぞ。この程度で罰せられることはないだろうけれど、少なくとも上司の心証最悪になってしまえ、と心の中で高笑いをする。


「なるほど、理解いたしました」


 これがどれだけ効果があるかはわからないけれど、彼女は女官長と呼ばれていた。長と付くからにはトップということだし、この威圧感とか周囲のビビり具合とかから考えると絶対にそれなりの地位を持っているはずだ。

 そんな彼女も今回の事態には少し参っているのかもしれない。眉間を揉み始めてしまった。急に疲れが出たのだろうか。


「大変失礼いたしました。……新しい部屋に、ご案内いたします」


「あー別に謝罪いらないです。あなたが仕組んだわけじゃないなら、あなたの謝罪に意味ないですし。あと、あのままでも別にいいですよ。部屋って落ち着かなさそうだから」


 これはアーシャの本音である。

 仕組んだのが彼女でないのであれば、彼女から謝られる謂れはない。ごめんなさいをするのは仕組んだ本人がするべきだ。

 それと、納屋という住居も別にアーシャにとって不利益ではない。

 ちなみに、現在外野がざわざわとうるさかったりする。蛮族風情が生意気な、だのなんだの。あんまり耳障りだったら蛮族らしく威嚇しようかなぁと思っていたら、女官長が大きく咳ばらいをした。

 周囲が一瞬静まり返ったのを確認してから、言葉を続ける。


「そのままというわけには参りません。対外的なものがあります」


「でも、あなた方の案内する部屋に大人しく行ったらそのまま殺されそうじゃありませんか? あの納屋ならまだ逃げ道ありますもの」


 ちょっとそこは譲れなかった。イジメのトドメのように連れて行かれたオンボロ小屋。最初は腹が立ったのは事実である。けれど、よく考えてみれば朽ちてはいても、屋根があって壁がある。この国の夜は草原よりは暖かいようだし、元より寒さには強い。

 それよりも部屋に案内されたが最後、鍵をかけられて閉じ込められた挙句に、忘れ去られる方がきついと判断したのだ。


「私を案内してくれた男性が「わざわざ用意した」とまで言ってくれたのを無下にするわけにはいきませんしね。もし間違いだったのであれば彼からしっかり説明していただきたいと思います」


 これはあの男への嫌がらせの思い付きだが、案外良い案ではないだろうか。あいつの言葉を盾に散々ゴネる自信はある。何と弁明されようとも、逃げ道が塞がれない納屋の方が、彼らの言う蛮族であるアーシャには都合が良いのだ。

 これぞ、草原の女の弁舌術。親切にも逃げやすいところに案内してくれた兵に、五倍とまでは行かなくとも倍くらいは返せたのではないだろうか。

 そんな固い意思を感じたのだろう、彼女は大きく溜め息を吐いて了承した。


「では納屋の方に食事と水差しはきちんと届けさせるようにいたします」


 これで当座の食料と水はなんとかなりそうだ。


「わかりました。では、このお肉は美味しそうだけど置いていきますね。お騒がせしました。……もしご飯がなかったらこっちにまた貰いにきますね」


 にっこりと笑みを見せつけ、周囲にガンを飛ばすことも忘れないアーシャだった。


【お願い】


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